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Specter Children:人形遣いと水潜り その⑩

その日の夜、2人は入浴と夕食を終え、冰華の部屋でのんびりと休んでいた。
「冰華ちゃん、寝間着貸してくれてありがとうね?」
「気にしないでー」
「冰華ちゃん、寝間着は結構緩いの着るタイプなんだね。おかげで割とぴったり」
「普通じゃない? パジャマってゆるっとしたの着るものだと思うんだけど。っていうか蒼依ちゃん、手足長いよねー。モデルさんみたい、羨ましいなー」
冰華が剝き出しの蒼依の前腕に触れ、掌を滑らせる。
「こういうのは『蜘蛛みたい』っていうんだよ」
「良いじゃん蜘蛛。益虫だよ?」
「ポジティブだなぁ……」
時刻が午後11時を回った頃。2人が就寝準備を整えていたところ、冰華の母親が声をかけてきた。
「冰華ー? お友達が来てるけどー」
「え? うん分かったー。今行くー」
立ち上がろうとした冰華の肩を、蒼依が無言で掴んで引き寄せた。
「わぁっ」
「……冰華ちゃん」
蒼依はやや俯きがちだったものの、ただならぬ気配は冰華にも感じ取れた。
「えっ何蒼依ちゃん」
「冰華ちゃんには、『夜中にアポなしで家に尋ねてくる友達』がいるの?」
「えっ、いやそれは、…………!?」
蒼依の問いに、一瞬遅れて冰華の気付く。
「い、いや、ほら……もしかしたら、河童のみんなかも……?」
冰華の目は泳いでおり、その言葉があり得ない可能性であることは明白だった。
「……冰華ちゃん、出よう。私も行くから」
「えっ、いいの?」
「もしかしたら、ヤツかもしれないから。ここでぶつかれるなら好都合」
「……分かった。何かあったら守ってくれる?」
「うん」
2人は足音を殺し、揃って部屋を出た。
「……あ、待って冰華ちゃん」
「何よ蒼依ちゃん」
「セーラー服に着替えてからで良い?」
「……カッコつかないなぁ」
言いながら苦笑し、冰華は溜め息を吐いた。

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百舌鳥と愉快な仲間たち_3

「はっ!!」
ブケファルスは町中で突然大声をあげた。前を歩くカメルス、カウダ、フスが揃ってブケファルスの方に振り向く。
「え、なに?怖いんだけど」
カウダの引き気味の言葉を受けるもブケファルスは上の空で思考を巡らせた。突然のカメルス、カウダ、フスの来訪から、流れで彼らと同居し早2週間。レヴェリテルムに真剣に話しかけていたところを見られたときは若干引かれたが、それ以外は特に問題もなく、今日に至っては四人で街に遊びにまで出ている。そこでブケファルスには思うことがあった。
「…俺…青春してる…」
「ファルが立ち止まっちゃった」
「暑いしとりあえず先行こうぜ」
カメルスとカウダは立ち止まったブケファルスを置いて先へ行ってしまう。フスは暫くおろおろしたが、ブケファルスを引っ張りに行く。
「あの、ファル…」
「あっ!あいつら置いて行きやがった!俺らも行くぞ!」
「ひぇっ!!び、びっくりした…」
突然我に返ったブケファルスの勢いにフスが気圧されていると、不意に前方で轟音が響いた。