「だから行こう!」
ネロはそう言って笑顔をこちらに向けるが、自分はうーん、とつい唸ってしまう。
それを見た耀平は、ちょっとネロと彼女を諫めようとする。
「いくらなんでも急すぎるだろ」
こういうのはもっと段階を踏んで…と耀平は言いかけるが、ネロはそれを遮って別にいいでしょ~と口を尖らせた。
「ボクは黎の事気に入ってるんだし」
ネロはそう言うとこちらを見て笑みを浮かべる。
自分は驚きのあまり目をぱちくりさせた。
「とにかく黎、この後空いてる?」
「まぁ、うん…」
「よし、じゃー行こー‼」
気圧されて思わずそう答えてしまった自分の答えを聞くや否や、ネロは自分の手を取って歩き出す。
自分はそのまま引きずられるように歩き出し、耀平はあ、ちょっと2人共~と自分達を追いかけだした。
天邪鬼の爪に切り裂かれるより早く、冰華は腕を片側に伸ばして手近の木の幹を掴み、身体を引き寄せるように回避した。更にその慣性を利用して腕を完全に肩から引き抜き、素早く距離を取る。
「蒼依ちゃん、残しといたから!」
「助かる!」
蒼依は“奇混人形”を走らせ木の枝に掴まっていた『冰華の腕』を掴んだ。そのまま掌を天邪鬼に向けるように『腕』を突き出し、魂の奪取を狙う。天邪鬼は大きく身体を反らせて回避し、バランスを崩して倒れかけたところを尻尾で身体を支えることで持ち堪えた。
天邪鬼が身体を起こした次の瞬間、蒼依が突撃を仕掛けた。跳躍し、天邪鬼の角を掴み膝蹴りを喰らわせようとする。しかし、天邪鬼は上体を伏せるようにして躱し、尖った角の先端が蒼依の左上腕を掠める。
「っ……」
蒼依は左腕を背中に庇うように体を捩じりながら、天邪鬼の左肩を蹴って距離を取った。折れた腕に衝撃を受けたことで、天邪鬼は奇声をあげて右手を地面に付き、両脚と右手の合計三足で獣のように木々の間に逃げ込んだ。その退路を塞ごうと“奇混人形”が『冰華の腕』を叩きつけるが、天邪鬼は地面すれすれにまで身体を這わせ、その指先を回避する。
「逃げんなクソ鬼がぁっ!」
そう叫び、蒼依は即座に追跡を開始した。“奇混人形”が隣を並走しながら冰華の腕を蒼依に投げ渡し、自らは大型四足獣のような形状に変形する。蒼依はその背に飛び乗り、身を伏せながら後を追った。変形した人形の四肢の先端に生えた鉤爪が地面を掴み、みるみるうちに天邪鬼との距離を詰めていく。
(届く……ッ!)
至近距離まで追い縋り、蒼依は『冰華の腕』を振り抜いた。しかし、直撃の寸前で天邪鬼はバランスを崩し、地面を転げることで蒼依の攻撃は外れてしまった。
天邪鬼は慣性に従い、地面を転げながら前方へ前方へと進み続ける。
張り出した木の根に乗り上げたことで跳ね上げられた天邪鬼の身体は宙を舞い、木々の向こうで『水音』を立てながら落下した。