「黎は十分すごいんだし」
「でも2人は…」
「ボク分かるよ!」
自分の言葉を遮るように、ネロは声を上げる。
「この間、初めて会った日の次の日に、黎の移動した痕跡をコマイヌと追いかけていたんだけどね、その時に黎の記憶をちらっと見たの」
ネロは続けた。
「そしたら黎は、1人で色んな事を頑張ってるんだなって事がよく分かって…」
ネロはそう言いかけて言葉を止める。
どうやら固まっている自分の姿に気付いたらしい。
ネロはふふっと笑った。
「だからあんまり自分を卑下しなくていいよ」
ボクだって、あんまり自慢できるような人間じゃないしとネロは微笑む。
自分はだんだん身体が熱くなるのを感じていた。
「えへへー、黎照れてる~」
「ホントだー」
ネロと耀平は赤くなる自分の姿を覗き込む。
自分は恥ずかしさのあまり手で顔を覆うが、外は暑いのになんだか余計に熱いことには変わりなかった。
〈番外編 サマーエンカウンター おわり〉
天邪鬼を追って木立を抜けた先は、河原だった。
(この河原……冰華ちゃんが河童たちと会ってたあの川か! 気付かなかった……)
「……そんなことより!」
蒼依が下流方向に目をやると、天邪鬼の長い腕が浮き沈みしながら流されていくのが確認された。
(野郎……流れを使って逃げる気か!)
蒼依は四足獣化した“奇混人形”から降り、天邪鬼の流される方向に向けて駆け出した。更に手の中で“奇混人形”を短槍の形状に変化させ、投擲できるように構える。
「……いや。どうせなら」
蒼依は大きく跳躍し、そのまま川に飛び込んだ。同時に“奇混人形”をスイムフィンのような形状に変形させて自らの両脚に装着し、水を蹴って水中から追跡を再開した。
ただ藻掻き続けるだけの天邪鬼と、明確な意思を持って泳ぐ蒼依の距離は少しずつ縮んでいく。両者の距離が5mを切ったその時だった。
「ぐっ……ぁっ……⁉」
天邪鬼が水中で振り回していた右腕が、川辺に転がっていた倒木にぶつかった。更にその衝撃が倒木を動かし、水中へと転げ入ったうえ、タイミングよく蒼依に直撃したのだ。
そのダメージで蒼依は肺の中に残っていた空気をすべて吐き出してしまい、同時に緩んだ掌から『冰華の腕』がすり抜け、水流に浚われてしまった。
(クソッ、しくじった……武器が……冰華ちゃんの腕が……)
衝突の勢いで回転しながら、蒼依は天邪鬼と『腕』が流されていった方向を見やる。
(クソ……頭痛い……変に打ったか……? ……これ、私は追えないな)
蒼依は最後の力を振り絞って水面に浮かび上がり、どうにか息を吸い込む。そして――
「っ……冰華ちゃんの腕が持ってかれたァッ!」
掠れた声で叫び、態勢を崩して再び水底に沈んだ。
(もう駄目だ……『私には』追えない…………だから)
蒼依は薄れゆく意識の中、“奇混人形”を変形させ、魚のような形状で下流方向に送り出す。
(『友達』、なんでしょ……? 何とかしてよ、“河童”ども)
“奇混人形”の行動プログラムを設定し終えた蒼依は、酸欠によって完全に意識を喪失した。
巡り巡って
あなたに出逢えた。
あなたが私の命を繋いでくれた。
ありがとう
私は知ってるよ。
あなたは身を使い、皆に覆い被さり
攻撃の矢から
皆を守っていることを。
私は見てるよ。
自分の為に強くなるより
人の為に強くなりたい。
怖いものなんて何も無い。
ううん。。嘘。怖いよ。全てが。
だけど、強くなりたい。
人を、笑顔を、愛する人を、あなたの優しさを、守れるぐらい強くなりたい。