「でも、そもそもなんでアイツはこの手の服の店をわざわざ選んだんだろうなって」
露夏がそうこぼすと、ピスケスは…そうね、と呟く。
「アイツにとっては、こういうのには思い入れがあるから…」
ピスケスはそう言いかけるが、その途中であっ!と驚いたような声を上げるキヲンに遮られる。
ピスケスと露夏が試着室に目を向けると、ちょうどカーテンのが開いて深緑色のフリルやリボンの多いワンピースを着たかすみが姿を現した。
「わー、かすみかわいい!」
キヲンは思わずかすみの姿を見てはしゃぐが、不意にナツィがぴくりと反応する。
それに気づいた露夏は慌ててキヲンを物陰の死角に引き込み、その口を塞いだ。
「…」
後方にある洋服の陳列台の方を振り向いたナツィは不思議そうな顔をする。
そんなナツィの様子を見て、かすみはナツィ?と呼びかけた。
「どうかしたの?」
首を傾げるかすみの声に、ナツィはいや、と首を横に振る。
「なんでもない」
そう言ってナツィはかすみの方に目を向けた。
人間はなにかを失ってから大事だったと気づくのか?
当たり前に感じている日々は失くなってから当たり前ではないと気づく。
ほんとにそうだ。
突然の永遠の別れ、友達との別れをしてきて
大事だった大切だったと思うことがほとんど。
これを失ってから学ぶと書いて失学と言うだろう。
これはないと願いたいが、人生において別れはたくさんある。
特に友達との別れ。
私の場合、学校では仲のいい友達が8割ぐらい転校していくという呪いのようなことがあった。
そこでたくさん失学をしてきた。
最近は、塾をやめ、友達の突然の別れをし、突然の永い別れもし
失学というものがたくさんあった。
失学は人生においてたくさんあると思う。
けど寂しいな。
けど悲しいな。
この世界に当たり前なんてないと改めて感じる
これはあってほしくないと思う
失ってから学ぶ、失学。
それから暫く。
ナツィとかすみは商業施設内を少し歩いて、建物の一角にあるゴスっぽい服の店に入っていった。
かすみが“自分に似合う服を選んで欲しい”と言ったことでナツィは色々と迷ってしまい、結局ナツィが普段着ているような服が置かれているような店に入ったのだ。
それに関してナツィは申し訳なさそうにしていたが、かすみは別にいいよと笑っていた。
しかし、ナツィとかすみはキヲンたちにあとをつけられていることに気付いていないのか、キヲン、露夏、ピスケスは2人に勘づかれずに衣料品店に入り込めた。
「…なんか、ナツィが着てるような服ばかりだね」
「そうだな」
キヲンと露夏がそう小声で話しつつ、物陰から店の奥にある試着室の外の壁に寄りかかっているナツィを眺める。
ナツィはかすみのために何着か服を選んで試着をさせているようだった。
「…なぁピスケス、なんでナハツェーラーはゴスロリみてーな服の店を選んだんだ?」
露夏が不意に後ろでかがみ込んでいるピスケスの方を向いてる尋ねる。
「そんなの、アイツがいつもそういうのばかり着てるからでしょう」
あと、アイツが着てるのはゴスロリじゃなくてゴスね、と答えるピスケスに対し、露夏はそれはわかってるよ、と答えつつ試着室の方を見やる。
私の特別はあなただけ
私の頭の中は
起きてるときも
寝てるときだって
あなたでいっぱい
肥大化していく熱で
冷却機なしの頭の中が焼けただれる
喉の奥にずーっとつかえている想いで
眩い仄暗闇の中呼吸困難に陥る
私の特別はあなただけなの
ねえ どうか
私を殺さないで
あなたの特別は私だけ
ずっとそうであってほしいの
そうでありさえすれば
私はこの今際の苦しみの中で
生き続けられる