「ボク達について来るのはいいけど、異能力者同士のいさかいに自分から首を突っ込むなってボクは言いたいんだ」
ネロはそう言って立ち上がった。
「…異能力は”一般人”には秘密にしなくちゃいけないものなんだよ」
それなのに、異能力の事をアンタは知ってしまった、とネロはわたしを睨む。
「そんなアンタが今回の決闘に手を出したら、どうなるか分かんないだぞ?」
それでボクは忠告してるんだ、とネロは瞳を赤紫色に光らせた。
わたしはその言葉に気圧されそうになったが、負けじとで、でも!と立ち上がる。
「他の皆は…」
「あーゴメンおれネロに賛成だわ」
わたしの言葉を、耀平が手を挙げて遮断する。
わたしは驚いていると、耀平はだってと続けた。
「一般人のお前を下手にこのごたごたに巻き込む訳にいかねーし」
それに、と耀平は黎や師郎の方を見やる。
「足を引っ張られた結果、おれ達の内の誰かがヴァンピレスの手にかかっちゃ困るし」
なぁ?と耀平が同意を求めると、黎は静かにうなずき、師郎はあぁそうだなと答えた。
「そんな…」
わたしは思わず落胆する。
それを見て師郎は、まぁ仕方ない事さと呟いた。
私はFANATICAlの質問に「そうだね」と答えた。FANATICAlは「じゃあ最期もお揃いってことね」と満足そうに言った。そして続ける。
「天国で会えるかしら」
「そういう死後の世界があるとしたら、きみたちは少なくとも天国には行けないだろうね」
「アディくんのこと悪く言うなんてサイッテー」
「天国に行けるような生き方をしていたなら、二人揃って処分されることなんてなかったんじゃないのかね」
「んむー」
先の妖艶な笑みとは打って変わって、FANATICALは小さな子供のように頬を膨らませた。表情どころか、その身にまとう雰囲気までもころころ変えるのは、些か気味が悪かった。多かれ少なかれ、リニアーワルツにはそういう傾向がある。人間の子供の形をしながら、確実に人間ではない……彼らの魂は、人工物としての歪さを孕んでいた。
私はその違和感から眼を逸らすように話題を変えた。ずっと気になっていたことだ。
「きみ、どうしてADDICTEDは処分されたんだい。きみらはカナンでも屈指の実力だったみたいじゃないか。確かにADDICTEDは精神的に危ういところがあったが……リニアーワルツの中では基本安定していたし、指示もよく聞いてくれた。なのにどうして」
私が尋ねると、FANATICAlはおかしそうに笑って、ベッドの隅に置かれていた小さな箱を手に取った。それを開け、中に入っていたFANATICAlが身につけているものと色違いの指輪を手に取り、部屋の明かりにかざした。色を失った石がちらと輝く。FANATICAlはその指輪に優しくキスを落とした。唇の端のピアスが指輪に触れて、小さく金属音を発した。
「アディくんはいない。それだけ。理由とか興味ない」
「知られたくないのか」
「別に。知りたいなら調べればいいわ」
「そうか。分かった。時間を取らせて申し訳なかった」
「いいのよ」
「……じゃあ、処分のときに来る」
「待ってるわ」
私は07号室を後にした。
午前中、ディソーダー討伐から戻った他のリニアーワルツの検診をして、午後は半休であったので、資料庫にFANATICAlとADDICTEDの件を調べに行った。
光を呑み込む暗闇
そんな暗闇でさえあなたの笑いで吹き飛ばしてしまう
あなたの明るさ
呑み込まれた光を取り戻してくれてありがとう
「そうかい。訊きたいことは」
「んー、何かしらね。そうだ。処分って、ファナ死んじゃうってことでしょ?」
「その表現はかなり近いと思うよ」
「どうやるの?」
「君のことを眠らせて、身体の中の動力を取り除く。万が一生きていると良くないから、その後一酸化炭素を吸わせて半日放置する。苦しむことはないから安心したまえ」
「思ったより長いのね」
「ずっと2時間でやってたんだが、焼却のときにまだ生きていたことがあって、それ以来大事を取って半日放置することになったんだ」
「ふーん」
FANATICAlはつまらなそうに相槌を打った。左手の薬指の指輪をしばらく見つめて、鼻で笑った。
「アディくんのこともそうやって処分したの?」
――アディくん。
3年前まで彼女の相棒だったリニアーワルツ『ADDICTED』の、彼女だけが呼ぶ愛称である。ADDICTEDは3年前に問題を起こして処分された。私は彼の処分には立ち会ったものの、ことの終始は何も知らなかった。私は基本的に研究所から出ることはないし、検診と処分だけが仕事である職員が知る必要のないことだったからだ。
彼女はADDICTEDが処分されて以来、リニアーワルツとしての役目を完全に放棄してしまった。ペアを当てがうとすぐそのリニアーワルツに身体的、精神的な危害を加えるので、ペアで利用することなど到底不可能だった。だからといって単独で派遣すると毎回ボイコットして役に立たないので、ここ3ヶ月はこの07号室に幽閉している状態だった。1人部屋に移動するように掛け合ったこともあったが、ADDICTEDと過ごした07号室から出る気は一向にないようだった。
また、ジェミニに関しては、適合するリニアーワルツがなかなか見つからないので、まだ彼女が持っているのである。FANATICALとADDICTEDのジェミニは非常に強力であるが、代わりに使いこなせるペアを見つけるのは難しかった。
迫まる殺戮者
迫まる膨大な力
迫まる核兵器
迫まる危機
…?
消えた?
ああ、迫り来る何かを消してくれたのは君だったんだね。
また君に救われたよ。