畑脇に無造作に立てられた道祖神の位置を地図にマークすること10体目。吉継は頭上に影が差していることに気付いた。
『て……けて、あけ、あ、て……あけて……あけ、て』
「あ、“お姉さん”」
長身の王蕗より更に頭一つ分程度背の高い、白いワンピースと帽子に身を包んだ女性が、吉継に覆い被さるように覗き込んでいた。
「『開けて』ってもなぁ……昔っから気になってたけど、何を開ければ良いんだよ……具体的に言ってよ」
『……あけて』
女性が緩慢な動きで手を伸ばしてくる。その時、奇妙な音が吉継の背後から飛んできた。打楽器と管楽器の中間のような『ぼ、ぼ、ぼ』という低い音が、どこか忙しない雰囲気を伴って鳴り、吉継は誘われるように数歩後ずさる。結果として女性の手は空を切り、女性はその場から動かず吉継と足元を交互に見やった。
『あけて、あけて』
「だから何を……」
女性の目の動きに釣られて、吉継も視線を下げる。女性の足元には、先ほどマークしたばかりの風化した道祖神が佇んでいた。
「……いや、でもなぁ……」
奇妙な悪寒を覚えながら、女性を見上げる。彼女の顔は長い髪に覆われている上に陰になっており、容貌や表情は伺えない。
(……そういやイマジナリー・フレンドって影できるのか? いや想像上の産物なら想像で補完はされるのか……?)
女性が再び手を伸ばそうとしたその時だった。
「どぉぉぉぉおおおおりゃああああああっ!」
更に後方から『飛んで』きた潮が、女性の後頭部に跳び蹴りを命中させた。女性の長身が吹き飛び、農道を転げ落ち畑の泥に叩き付けられる。
「えっなっ秋津先輩っ!?」
「入口の方の道祖神メモり終わったから様子見に来たら!」
「いや待っ、なんであれ蹴れたんですか⁉」
「そりゃ蹴るよ後輩が襲われそうになってたんだし!」
「ちが、あれイマジナリー・フレンドじゃなかったんですか⁉」
「私にも見えてたから違うね、あいつが“八尺様”だよ!」
潮は身体を起こそうとする女性――“八尺様”に目もくれず、吉継を抱え上げる。
「とりあえず退散! 逃げるよ後輩くん!」
自身の異聞能力で強化された筋力で踏み切り、トラクターが踏み固めた農道に深い足跡を残しながら、潮はその場を離脱した。