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綿菓子

 雪国の山奥、新聞紙の蚊帳の中、妹は隣で寝てゐる。トクトクと血液の流れる音。

 ごめんねタツミ、お母さんまたお酒飲んじゃったあ。
 ごめんねタツミ、お母さんまたパチンコ行っちゃったあ。
 ごめんねタツミ、晩ご飯ないんだあ。
 ほんとにごめんねぇ。

 枕元の時計を見た。村祭りの始まる時間だった。僕は一日、本を読んでゐたかったが、妹に綿菓子をせがまれてゐたから、しぶしぶ布団を出た。
 ミツコを中心とした派手なグループが、ステージの前でわいわいやってゐた。ミツコのふたつ上の彼氏のバンドが、演奏するのを見に来たのだった。
 ミツコは綿菓子を買ってゐる僕を見つけて、近づいて来た。
「ひとくちちょうだい」
 ミツコが言った。僕はそういった不衛生なことは嫌だったのだが、ミツコは勝手に袋を開け、手を突っ込み、綿菓子をちぎった。白いふわふわが、口の中に消えた。ミツコはマニキュアを塗った指を舐めると、グループに戻った。バンドの演奏が始まった。僕はステージに背を向け、帰路についた。
 布団で折り紙をしてゐた妹に、綿菓子の袋を渡すと、妹はすぐに袋を開けた形跡があるのに気づき、「お兄ちゃん、つまみ食いしたでしょう」と、からかうように言った。
「うるさい。買って来てやったんだから文句言うな」
 僕は思わず怒鳴ってしまった。妹はびくっとなり、泣きそうな顔をして布団にもぐり込んだ。僕は放っておいた。泣くふりをして僕を驚かせてから笑顔を見せるといういたずらを最近好んでやっていたからだ。布団が大きく、上下した。
 やや間があって、ぜんそくの発作が始まった。僕は、「ごめんな。ごめんな」と言いながら、妹の背中をさすった。