鏡像編年史その③
「ミラークロニクル……、鏡の……えっと……?」
「年代記、または編年史。まあ、早い話が歴史を記すのです」
上手く翻訳できないでいると、片脚の男が続けてくれた。
「あ、どうも」
「良いのですよ。困っている後輩を助けるのも先輩の務めですから」
けれど、翻訳ができてもミラークロニクルが何なのかは全く分からない。
「で、何をすれば良いんですか、それ」
「なに、難しいことは一つとしてありません」
そう言いながら、片脚の男は持っていた手帳を開いた。それを見せてもらうが、中にはよく分からない文字がつらつらと記されていた。
「これ、何語です?」
「何語、と言われましても……、強いて言えば、『我々の言語』ですかねえ」
何だそれ。
「……まあ、それは良いとして、何を書けば良いんですか?」
「ああ、それは簡単」
男が指で宙をなぞり、絵を描き始める。その軌跡は不思議と空間内に残り続ける。
完成したのは、一筆書きでできた、写実的な頭蓋骨の絵だった。
「一人の人間が死ぬ、その時までに遺してきた『何か』ですよ」
…………つまりどういうこと?
「そうですねぇ、その問いに答えるなら……」
心を読まれた!?
「いえ、そんなことは全く。……そう、答えるなら、我々は標的の生きた証を保存する者たちなのです」