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変身!!

相棒の良太郎が謎の怪人に体を乗っ取られた。
「良太郎!戻ってこい!」
しかしそんな呼びかけもなかなか届かない。
「呼んでも無駄、相当痛めつけておいたから当分目は覚めないよ!」
そんな無慈悲な言葉と共に攻撃されてしまう。
「…ぐっ…聞こえるか!良太郎!俺だ!」
「聞こえないよ!」
「うるせえ、お前になんか言ってねーよ!聞こえてるはずだぜ…お前、抑えてんだろ、それをよ!」
必死に呼びかけるが攻撃の手は一向に止まらない。もはやこちらの体力は限界寸前。
「だからよ…良太郎…もうちょっと踏ん張って…そいつを追い出せ!…できるよなぁ!…良太郎!」
最後の叫びの如く彼はその名を呼んだ。しかしそれが隙と言わんばかりに敵の刃は彼の左鎖骨を捉えた。
「いいから…死ねぇ!」
左鎖骨から右脇腹への袈裟斬りが見事に入り、断末魔と共に彼の体は倒れようとした。
しかしここでその敵が彼の腕を掴んだ。
「何!?ま、まさか!」
敵自身も驚いている。つまり…
「へへっ、やっぱな」
その瞬間、良太郎の体に彼が憑依し、敵の怪人が外へと追い出された。
「なんでだよ!なんで…」
敵怪人は正に困惑といった表情だ。
「バカヤロー、俺達がどんだけ一緒にいたと思ってんだ、いいか?今から本当の変身ってやつを見せてやる」

「変身!」

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白と黒と青き星〜第10話 疑考〜

転校生は本当にそのまま俺たちの部屋までやってきた。
具体的なことが何一つ決まっていないためひとまず客間に通すことになった。
「ここが新しい寝床か」
さも当然という顔で部屋の戸を開ける姿ももう誰も驚かない。
「布団はそこの押し入れにあるから」
美空は口調も含め、すっかり順応している。芸能界への偏見かもしれないがある意味さすがだ。
「そしてカレーの匂いがするこっちがキッチン、その先がリビングにあたる場所か」
仮宿がどんなところか分からないが壁を2枚近く挟む位置のキッチンにあるもう冷めたカレーの匂い、そしてその配置を察知したのだとしたら大した嗅覚と想像力だ。
「よくわかったな、仮宿も似たような間取りなのか?」
「いやもっと狭い。少なくともこんなに部屋数はなくて、1kくらいかな?」
やはり既視感などの前提情報なしでこの間取りを当てたのか、五感のどこが鋭いのかまだ分からないが確かに光の力次第では十分に体育科編入可能な域だ。

じゃああの時感じた違和感はなんだ…?

「雑魚寝っていうのもやってみたかったんだー」
俺が分析しようと考えている間に客間には布団が広げられ、転校生が手足を広げ横になっている。とぼけているのか…それともやはり何かを隠しているのか…
「顔怖いよ、ジョー」
大幡に声をかけられて我に返る。
どんなに違和感があってもここまで疑う必要はない、あったとしても今じゃない。
「そんなに考え込むなんて珍しいね、いつもなら考えるより先に行動するのに」
行動しなかったというより行動出来なかった。この転校生から感じる得体の知れない何かを前にすると…

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白と黒と青き星〜第9話 正体〜

「教えてもらおう、ただの一般高校出身じゃないだろ?」
戦闘訓練を受けた4人に囲まれても自信に裏打ちされたようなその不遜な態度は揺るがない。
「別に大層なものを隠してるわけじゃない」
「やけに素直だな」
「別にやましいモノじゃないし、まぁ入学できないと困るから試験官とかに隠したってだけ」
嘘やハッタリにも見えるが、だとすれば手際が良すぎるようにも感じる。
「具体的には言わないのか」
「言ってもいいけど、見た方が早いから」
「どういうことだ?」
「明日の訓練で見ればわかるよ」
全員が理解出来ないまま俺と美空の間を押し通るように転校生は歩き去っていく。
「お、おい」
こちらの静止はまるで意に介していない。
「あ、そうだ!」
こちらの声とは無関係だと伝えるかのようなマイペースな間で転校生は振り返る。
「俺の分の布団はもうあるのか?あったら宿舎行きたいんだけど、朝わざわざ行くには仮宿は遠いいんでな」
「え?あぁ、まぁもう一個くらいならあるけど」
「よし、じゃあ今日から泊まる」
「は?」
全く慣れることのない突然の連続。内容云々よりもその突然さに反応するのがみんな精一杯だ。
「布団あるんだろ?なら宿舎に入らせてくれ、どんな正体を期待してるか知らないがお互い損はないはずだ」
唐突なのをいいことに丸め込まれているような感覚に駆られるが、実際その内容は理知的で、まるで転校生の手のひらで踊らされているような感覚にさえなる。
「わかった…ただ布団があるだけでまだ俺らの荷物とかの処理をしてないのは覚悟してくれ」
「それは別に構わない、なんせ俺の目的は」
『2日目のカレー』
インパクトが大きすぎて思わず復唱してしまった。

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白と黒と青き星〜第8話 生活〜

「それはな…彼たっての希望だ」
「え?」
4人は全員が耳を疑った。教官の声と言った内容が一致しなかったのだ。
「彼が先程、明日公表の予定を今晩に早めてくれとわざわざ申し出てきた。当然俺も拒否したのだがな…」
教官の顔はいつになく赤く、語尾にも少し恥ずかしさが見え隠れする。
「どうしても2日目のカレーというものが食べてみたくなってね」
既にタメ語なことよりもその内容のチープさに驚いた。
「カレー…」
他の3人も理解が追いつかない様子だ。なぜ教官はそんな理由を受け入れたのだろうか、それとも別の理由が…?
「そこで仕方なく急遽お前たちを招集したという訳だ」
恥ずかしさも落ち着いたのか、ため息まじりに力なく情報をまとめた。
「つまり、今晩から彼も宿舎に入るのですか?」
ここでこの質問を冷静にできる大幡はやはりズレている。
「どちらでも構わない。告知を早めただけで編入に関する諸々の手続きは明日付だ」
「なるほど、ありがとうございます」
今日でないにしても、告知と手続きが同日というのは十分早く感じた。それほどに彼の転校は極秘かつ迅速に対応しなければならなかったのか…
「寝泊まりは別に仮宿舎でもいいんだけど、明日朝のカレーは彼らのを食べたいな」
ここまでブレないのはもはや尊敬に値する。
「遅くに悪かったな、要件は以上だ。聞きたいことはあるか?」
「いえ、特にありません」
大幡が俺達の顔を確認しながら答える。
「では、明日からは新たなメンバーも加えてまた訓練に励むように」
「はい!失礼します」
綺麗に揃った4人の礼に合わせようとさえしない転校生も言葉だけは倣っている。
「さて、教えてもらおうか君の正体」
教務室を出るなり4人で転校生を囲んだ。