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革命のレイ〜第1話 勧誘〜

「本日の審議はこれまでとする」
議長のその一言に異を唱える者はいない。誰もこの議会に意味を求めていないことはとっくに明確だ。
「今日はどこだったっけ?」
「知るかよ軍部の話なんか」
議事堂の廊下は三股に分岐していて、議会が終わると種族に別れてそれぞれの方向へ帰るのがお決まりだ。
「先日の負傷者は?」
「既に3桁を越えたとの報告が、MIAも含めるとさらに…」
この分岐点は机上の空論を絵に描いたように現場とはかけ離れた会話が飛び交っている。
「1次避難所の首尾は?」
「野良の装甲ですが、奴らの権能には十分耐えうるものになっています」
世界では天使と悪魔の戦争が続いている。人間は両種族の奴隷として軍備や援護をさせられ、いつしかそれに疑問も持たなくなっていた。
「レイ、いつまでこんな議会にこだわるつもりだ」
議事堂を出たところで声をかけてきた男の名ははムーラ。彼はレイの幼なじみであり先代の議員の息子だ。
「さぁな、せめてこの戦争が終わるまでかな」
「それが俺たちにどうこうできることじゃないのはお前の方がよく知ってるだろ」
確かに彼の言うことは事実だ。議会にいる立場では軍部に物を言うことは出来ないし、世界の実情が戦争によって多くを決しているのは否定できない。
「そうだな、でも全く変わらないってわけでもない」
「だからぁ!小さな変化じゃダメなんだよ!」
はぐらかすように軽く返したレイに対してムーラは血相を変えてレイの胸倉を掴んだ。
「離せよ…」
レイの声色は先程と違い重いものだった。ムーラも思わず手を離してしまう。
「とにかく、レイもそろそろこっちに合流してくれ」
彼がココ最近来る理由はこればかりだ。独立した人間の蜂起軍を結成するとの事らしい。
「すまないがそれは出来ない」
「何故だ?なぜそこまで議会にこだわる?」
「ムーラこそなぜ武力にこだわる?武力で抑え込んだところで同じことの繰り返しだ。たとえ今人間の手で戦争を終わらせられたとて、この軋轢はそう変わりはしない」
「それでも…このままよりはいい」
その言葉は人間の苦痛、怒りを込めたようでレイも返すことが出来なかった。

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Daemonium Bellum RE 設定 Ⅱ

この書き込みは企画「Daemonium Bellum RE」の設定その2です。

・堕天使 Angelus Lapsus
天界から追放/逃亡した天使のこと。
追放された個体は大抵片方の羽根を切り落とされている。
羽根を切り落とされたことにより“権能”を一部失っていることがある。
弱点は相変わらず首と心臓で、どちらかを破壊すれば倒せる。
天使に協力する者、悪魔に協力する者、第三勢力として動く者、人間に溶け込む者と立場は様々である。

・人間 Human
地上の主な住民。
数だけが取り柄で、文明レベルは古代オリエント世界みたいなイメージ。
天使と悪魔の抗争によく巻き込まれている。
天使や悪魔を崇めたり、彼らに協力したり、邪魔がったりと様々な立場の者がいる。

・天界
天使たちの本拠地。
雲の上に中世ヨーロッパ的な都市が広がっている。
“神”がいる場所でもあるのだが、“神”自身は姿を隠してしまって出てこない(らしい)。
少し前に地上の悪魔も巻き込んだ、天界の天使の3分の1による反乱のせいで人手不足気味。

・地上
悪魔と人間が住まう場所。
人間は古代オリエント世界みたいな文明を築いているが、その中やそこから離れた所に悪魔が住んでいる。

リメイク元の企画に参加した方なら分かると思うけど、だいぶ設定をパワーアップさせました。

相変わらず難しいだろうけど…参加したい人は頑張って!
何か質問などあればレスください。

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告白4

「待ってよ!」
その子の反応は予想外のものだった。足は止めたが僕には振り向く勇気がない。
「何のために呼んだと思ってんの?」
自分の思考回路にはない展開に何も答えられない。
「ねぇ、本当にわかんない?」
分からないものは分からないのだかれ仕方ないだろ。僕はその子に背を向け立ち止まったままだが、険しい雰囲気はひしひしと伝わっていただろう。
「好きなの、小学校の時から」
その子は手順を忘れたように早口で言った。おかげで驚くのが追いつかない。
「何言ってんの?」
出せた言葉はなんともぶっきらぼうだ。今思えばこれ程失礼な返し方はなかなかない。
「だから、ずっと好きだったの!あなたのことが!」
箍が外れたのだろう、その子の言葉は止まらない。
「あの時からずっとそう!私はあなたのことをちゃんと好きだったのに、あなたはどんどんと人と離れて最近じゃ自分から嫌われ者だなんて言って。私がどんな気持ちかわかる!?」
「ごめん…」
それしか言えなかった。
「誰に何を言われたかは知らない。でも私は、あなたのことが好き!だからもう自分で自分を嫌われ者なんて言わないで!私を、私の気持ちを信じて?」
人にこんなに好きだと言われたのは初めてだった。同時にその言葉は…
僕を悲しい嘘つきにした。

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告白3

それから何年経っただろうか、その子とは相変わらずマンションが同じで集団下校が無くなっても時々一緒に帰る場面はあった。それでもあれ以来大した会話はしなかった。というより、出来なかった。あの子のことを思えば、嫌われ者と一緒に帰ることさえ迷惑であろうから。
幸い高学年ではクラスが離れ、無理に振る舞う必要は無くなった。しかし染み付いた空気は恐ろしいもので僕が嫌われ者であることはものの数ヶ月で確定した。とはいえ今更それをどうこうと思うことは無い、ただ変わらぬ日々があるだけだ。しかし守るものがないのは決定的な違いだった。ただ自虐を繰り返すようになっていたことに当時は気が付けなかった。
「僕に彼女なんてできるわけないだろ」
「こんな嫌われ者を好きなやつなんていないよ」
この時、嘘をついているつもりなど毛ほどもなかった。それがその場の正解だったし、自分自身でも本当にそう思っていた。
「ねぇ、少し話せない?」
部活から帰るとその子がマンションの前で待っていた。どうやら急いで帰ってきたようで額に汗が見える。その汗が静かに頬を伝う様はそれだけで緊張感をこっちにも伝えてくれる。
「別に、いいけど」
僕が頷くとその子は何も言わずに歩き出した。少し面を食らったがついていく他に選択肢もなかった。
「こっち」
ようやっと振り向いたかと思えば、周囲を見つつ近場の公園へ手招くだけだった。よほど他人に見られたくないらしい。そのリスクを背負ってまでこの嫌われ者に何を話そうというのか。
「これ、一応手作り」
その子が手にしていたのは小洒落た袋に包まれたチョコレート菓子だった。
「え?」
「だから、これ渡そうと思って」
なるほどバレンタインか、教室じゃ渡しづらいとはいえ義理相手に随分と遠回りなことをするものだ。まぁそれがこの子の律儀さとも言えるが。
「わざわざどうも、先に帰ってたのならポストでも良かったのに」
これ以上この子の時間を奪う意味はない。そう思い左手で丁寧に受け取りはするが、なるべく足早に公園を後にしようとする。
「待ってよ!」

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告白2

「知らないよ、僕が聞きたいくらいだ」
幼さゆえか、当時の僕は少し怒った声色でそう言ってしまった。その子は驚いていた。まぁその子にしてみれば逆ギレだ、驚くのも無理はない。
「嘘つき!!」
言葉に詰まってからその子は涙目で僕にそう吐き捨てて走り出した。小学生低学年にしてはよく我慢した方だろう。もしかしたらその感情を表す他の言葉を知らなかったのかもしれない。それほどまでにその一言には怒り、失望、期待、全てが詰まっていた。僕は理解出来ないまでもそれを感じていた。だから僕は立ち止まってその子がマンションに着くまでそこで待つことにした。傍から見ればそれこそ痴話喧嘩に見えただろう。だが当時の僕にはそんなことを考える余裕はなかった。(もちろんあったとしてもおそらく答えは変わらなかっただろう)
「よっ、ストーカー」
翌日になり、相手はいよいよあだ名としてその言葉を使うに至った。昨日の今日で否定する気力すら無く、仕方なく付き合う。あの子の視線が冷たく刺さったように感じた。
「嘘つき」
あの子の声が頭の中でリフレインする。
「そうだよ、嫌われ者だもん、嘘ついてナンボだよ」
1日経ってようやく僕の答えが出た。僕は悪役になる。それがもっとも空気を読んだ、そして誰も傷つかない方法だから。何よりこれは当時僕があの子に嘘をつかない唯一の方法だった。

to be continued..

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告白

嘘をついたのは初めてだった。
と言ってもそれを嘘と呼んだのは後になってのことだが、紛れもなくあれは僕の初めての嘘だ。
「そうだよ、嫌われ者だもん」
小学生になり空気を読むことを覚えろと親に言われた頃だった。何も知らない私は小学生とはそういうものだと信じていた。みんなそうしていて汚い笑い方も気に触る発言も全て空気なのだと、私はそう信じてしまった。
「お前、もう女子にフラれたんだってね」
「え、そうなの?ってかもう告るとか頭おかしいでしょ」
「えー、その子可哀想〜」
根も葉もない話だった。確かに同じマンションの女子と一緒に帰ることはあったが、あくまでも低学年ならではの集団下校でしかない。しかし大して友達のいない僕がどんなに否定しても誰も信じてはくれなかった。それどころか否定する毎に話は大きくなり、時間とともに噂は形を変えていった。
「フラれても諦めてないらしいよ」
「ストーカーじゃん」
言った本人は覚えたての言葉を使いたかっただけなのかもしれない。でもその標的にされた身からすれば溜まったものじゃない。幼いながらにその女子と帰るのを気まずいと感じてしまう。
「なんで違うって言わないの?」
ある日の帰り道、その女子は迷惑そうに言った。その子がストーカーだなんだと言われることはないだろうがそもそもが根も葉もない話だ、身に覚えのない擁護や知ったか顔に何かと迷惑はかかっていただろう。
「言ってるよ」
空気を読んだつもりでなるべく軽く言った。その子は唯一真実を知っている子で、どんなことであっても嘘をつきたくはなかった。
「じゃあなんで話が大きくなるの?」
その子が僕をを疑っていたのだと察した。その時は傷ついたが、今思えばあの場で言ってないと一言嘘を言うだけでよかっただろう。たったそれだけでその子は諦めてくれたはずだ。信じて疑われるより、諦めて責任を押し付けられる方がよっぽど楽だ。

to be continued..

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指定席

三両目、一番前のドアから電車に乗る。
この時間はどの席にもいつも同じ人が座っている。
不思議なものだな、と思いながらもいつもの『自分の席』に座る。
四人掛けシートの窓側。進行方向と反対側の席。この席は朝日を眺める特等席だ。

単語帳を広げてもやる気が起きない。赤シートに朝日が反射して眩しい。あの朝日をうっとうしいと思ったのはこれが初めてだ。今まではぼーっと朝日を眺めながら音楽を聴くのが楽しみだったのに。頭に入らないアルファベットの羅列を眺めながら、私は何がしたいんだろう、と考える。
したいことが見つからない。行きたい高校が見つからない。好きなことも見つからない。学校に行って、部活に行って、友達付き合いも忘れずに。そうして家に帰ればまた次の日も学校だ。全て誰かに敷かれたレールの上を進んでいるようで、ぞっとする。私でなくても私という存在が成り立ってしまうのではないかと、矛盾しているような想像をしては一人で落ち込む。その頃には、気づけば手元の単語帳は閉じられていて、車内放送が最寄り駅に到着したことを告げる。

慌てて「すみません」と言いながら席を立つ。隣の高校生の男の人は軽く会釈しながら長い脚を折りたたんで、私が通れるように最善を尽くしてくれる。
電車から降りると笑顔でいなければならない。
いつも通り、後ろから軽快な足音がする。
「和花ちゃんおはよー」
「おはよー、今日寒いね」

悩みを悟られないように、明るく。



【和花 Sakura Nodoka】
中学三年生
吹奏楽部員
高校受験に悩む

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変身!!

相棒の良太郎が謎の怪人に体を乗っ取られた。
「良太郎!戻ってこい!」
しかしそんな呼びかけもなかなか届かない。
「呼んでも無駄、相当痛めつけておいたから当分目は覚めないよ!」
そんな無慈悲な言葉と共に攻撃されてしまう。
「…ぐっ…聞こえるか!良太郎!俺だ!」
「聞こえないよ!」
「うるせえ、お前になんか言ってねーよ!聞こえてるはずだぜ…お前、抑えてんだろ、それをよ!」
必死に呼びかけるが攻撃の手は一向に止まらない。もはやこちらの体力は限界寸前。
「だからよ…良太郎…もうちょっと踏ん張って…そいつを追い出せ!…できるよなぁ!…良太郎!」
最後の叫びの如く彼はその名を呼んだ。しかしそれが隙と言わんばかりに敵の刃は彼の左鎖骨を捉えた。
「いいから…死ねぇ!」
左鎖骨から右脇腹への袈裟斬りが見事に入り、断末魔と共に彼の体は倒れようとした。
しかしここでその敵が彼の腕を掴んだ。
「何!?ま、まさか!」
敵自身も驚いている。つまり…
「へへっ、やっぱな」
その瞬間、良太郎の体に彼が憑依し、敵の怪人が外へと追い出された。
「なんでだよ!なんで…」
敵怪人は正に困惑といった表情だ。
「バカヤロー、俺達がどんだけ一緒にいたと思ってんだ、いいか?今から本当の変身ってやつを見せてやる」

「変身!」

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白と黒と青き星〜第10話 疑考〜

転校生は本当にそのまま俺たちの部屋までやってきた。
具体的なことが何一つ決まっていないためひとまず客間に通すことになった。
「ここが新しい寝床か」
さも当然という顔で部屋の戸を開ける姿ももう誰も驚かない。
「布団はそこの押し入れにあるから」
美空は口調も含め、すっかり順応している。芸能界への偏見かもしれないがある意味さすがだ。
「そしてカレーの匂いがするこっちがキッチン、その先がリビングにあたる場所か」
仮宿がどんなところか分からないが壁を2枚近く挟む位置のキッチンにあるもう冷めたカレーの匂い、そしてその配置を察知したのだとしたら大した嗅覚と想像力だ。
「よくわかったな、仮宿も似たような間取りなのか?」
「いやもっと狭い。少なくともこんなに部屋数はなくて、1kくらいかな?」
やはり既視感などの前提情報なしでこの間取りを当てたのか、五感のどこが鋭いのかまだ分からないが確かに光の力次第では十分に体育科編入可能な域だ。

じゃああの時感じた違和感はなんだ…?

「雑魚寝っていうのもやってみたかったんだー」
俺が分析しようと考えている間に客間には布団が広げられ、転校生が手足を広げ横になっている。とぼけているのか…それともやはり何かを隠しているのか…
「顔怖いよ、ジョー」
大幡に声をかけられて我に返る。
どんなに違和感があってもここまで疑う必要はない、あったとしても今じゃない。
「そんなに考え込むなんて珍しいね、いつもなら考えるより先に行動するのに」
行動しなかったというより行動出来なかった。この転校生から感じる得体の知れない何かを前にすると…

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白と黒と青き星〜第9話 正体〜

「教えてもらおう、ただの一般高校出身じゃないだろ?」
戦闘訓練を受けた4人に囲まれても自信に裏打ちされたようなその不遜な態度は揺るがない。
「別に大層なものを隠してるわけじゃない」
「やけに素直だな」
「別にやましいモノじゃないし、まぁ入学できないと困るから試験官とかに隠したってだけ」
嘘やハッタリにも見えるが、だとすれば手際が良すぎるようにも感じる。
「具体的には言わないのか」
「言ってもいいけど、見た方が早いから」
「どういうことだ?」
「明日の訓練で見ればわかるよ」
全員が理解出来ないまま俺と美空の間を押し通るように転校生は歩き去っていく。
「お、おい」
こちらの静止はまるで意に介していない。
「あ、そうだ!」
こちらの声とは無関係だと伝えるかのようなマイペースな間で転校生は振り返る。
「俺の分の布団はもうあるのか?あったら宿舎行きたいんだけど、朝わざわざ行くには仮宿は遠いいんでな」
「え?あぁ、まぁもう一個くらいならあるけど」
「よし、じゃあ今日から泊まる」
「は?」
全く慣れることのない突然の連続。内容云々よりもその突然さに反応するのがみんな精一杯だ。
「布団あるんだろ?なら宿舎に入らせてくれ、どんな正体を期待してるか知らないがお互い損はないはずだ」
唐突なのをいいことに丸め込まれているような感覚に駆られるが、実際その内容は理知的で、まるで転校生の手のひらで踊らされているような感覚にさえなる。
「わかった…ただ布団があるだけでまだ俺らの荷物とかの処理をしてないのは覚悟してくれ」
「それは別に構わない、なんせ俺の目的は」
『2日目のカレー』
インパクトが大きすぎて思わず復唱してしまった。

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白と黒と青き星〜第8話 生活〜

「それはな…彼たっての希望だ」
「え?」
4人は全員が耳を疑った。教官の声と言った内容が一致しなかったのだ。
「彼が先程、明日公表の予定を今晩に早めてくれとわざわざ申し出てきた。当然俺も拒否したのだがな…」
教官の顔はいつになく赤く、語尾にも少し恥ずかしさが見え隠れする。
「どうしても2日目のカレーというものが食べてみたくなってね」
既にタメ語なことよりもその内容のチープさに驚いた。
「カレー…」
他の3人も理解が追いつかない様子だ。なぜ教官はそんな理由を受け入れたのだろうか、それとも別の理由が…?
「そこで仕方なく急遽お前たちを招集したという訳だ」
恥ずかしさも落ち着いたのか、ため息まじりに力なく情報をまとめた。
「つまり、今晩から彼も宿舎に入るのですか?」
ここでこの質問を冷静にできる大幡はやはりズレている。
「どちらでも構わない。告知を早めただけで編入に関する諸々の手続きは明日付だ」
「なるほど、ありがとうございます」
今日でないにしても、告知と手続きが同日というのは十分早く感じた。それほどに彼の転校は極秘かつ迅速に対応しなければならなかったのか…
「寝泊まりは別に仮宿舎でもいいんだけど、明日朝のカレーは彼らのを食べたいな」
ここまでブレないのはもはや尊敬に値する。
「遅くに悪かったな、要件は以上だ。聞きたいことはあるか?」
「いえ、特にありません」
大幡が俺達の顔を確認しながら答える。
「では、明日からは新たなメンバーも加えてまた訓練に励むように」
「はい!失礼します」
綺麗に揃った4人の礼に合わせようとさえしない転校生も言葉だけは倣っている。
「さて、教えてもらおうか君の正体」
教務室を出るなり4人で転校生を囲んだ。

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白と黒と青き星〜第7話 真相〜後編

「失礼します。AA0X期部隊4人ただいま参りました」
教務室はSTIの中でも特に無礼があってはならない場所だ。4人も見事に角度の揃った敬礼を見せる。
「こっちだ」
教務室の奥、教官室から聞こえる教官の渋い声。声のトーンからはまだ内容が見えない。
「はい」
1歩ずつ緊張が高まっていく。
「失礼します」
代表して大幡が扉のノブを捻る。内開きの扉は教官室の中を少しずつ見せる。机、カゲに関する資料の束、教官の姿、そしてもう1人。
「こんな時間に呼び出して悪かったな、もうみんな気づいてると思うが今日呼んだのは彼のことだ」
やはり…
見慣れない人の気配はとても異質で、いつもの緊張感とは違う空気が彼からは発せられていた。
「転校生の井上正大だ」
彼の身に纏う異質な空気の正体はそのやけに尊大な態度で全て物語られた。自信に裏打ちされたその真っ直ぐな目は覚悟を見せる。大幡にはそれがかつての五代、津上と同じ目に見えて少しだけ懐かしい気持ちになった。
「彼は都内の一般高校出身という異質の経歴でな、STIに関する説明が必要だった関係で中途半端な時期の転入になった」
「一般高校…あの、もしかして今日の出撃って…」
疑っていたと自ら言うようなものだがずっと引っかかっていた答えを前に津上は聞かずにはいられなかった。
「察しがいいな、今日の出撃で他部隊の応援を呼ばなかったのは1部隊の方が情報指揮が統一できて説明に都合が良かったからだ」
あの議論の時間を返せ、そう言いたくなるほど教官の回答は淡白だった。
「ところで教官、今回はどうしてこんな時間に…お言葉ですが転校生の件でしたら明日でもよかったのでは…」
言葉遣いに気をつけながらもかなりストレートに聞くあたりはさすが美空といった印象だ。
「それはな…」
先程までの淡白な口調から一転した教官の重く低い声は自分達の予想をはるかに越えた真相を告げた。

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白と黒と青き星〜第7話 真相〜前編

翌朝の分のカレーを残して4人は食事を終えた。
早めに終わらせたのは9時を回るということと、食事の後に美空も含め、もう一度議論するためだった。
「急かして悪かったな」
「全然、どうせ私抜きだと話が上手くまとまらなかったんでしょ」
当たらずしも遠からず…
言い方はムカつくが美空も2人が迎えに現れた目的をおおよそ捉えていた。
「話が早くて助かるよ」
こういう時津上の優しい性格は話がスムーズで助かる。
「単刀直入に聞く、今日の出撃に違和感はなかった?」
「何?ジョーが何か言ったの?」
「ひとまず直感で答えてくれ」
津上のズルさだ。優しい顔から真面目な顔に変えるだけで説得力をもたせられる。
「違和感も何も…ただのバディ単位の出撃だったよ」
聞いてたのかと思うほどジョーの言ってたことと一致する。ある意味これがバディの所以なのか…
「確かに形式は珍しくない、でも…」
そう言いかけて時計を気にした。10時に迫ろうというところ、明日も普通に授業だ。ここでさっきと同じルートを辿り直す時間はない。
「でも?」
「でも俺らの出撃内容を鑑みると素直にそうは思えないんだ」
少しだけジョーに目線を送り、助けを求める。
「え?あぁ、色々見てみるといつも通りってわけではなさそうなんだ」
「ふーん、それで?その何が気になるの?」
まるで他人事といった態度だ。まぁそう思うのも自分たちの結論があるからなのだが…
「そこが本題なんだ…」
【AA0X期部隊、直ちに業務室まで来るように】
聞いていたかのようなタイミングで呼び出しの放送が入る。

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白と黒と青き星〜第6話 団欒〜

その夜、美空の帰りを待ってから食事とした。その時間はもう8時を越えていた。
「任務からライブでお疲れ様」
大幡はいち早く戸の音に気づいて声をかけた。
「ありがとゆいな、なんか今日2回目だね」
「確かに」
そうして2人とも笑っている。
「ご飯できてるよ」
おかえり、という言葉の代わりにそう言えるのはご飯を作った人の特権だなと五代は思ったが、津上の前で言葉にはしたくなかった。
「ご飯!お腹ぺこぺこ〜」
美空は目を輝かせて部屋に走ってくる。
「だからって荷物を俺に投げるなよ」
美空のライブ機材は光の力に依存しているため専属スタッフでも扱える人は限られる。そのため、こういった単発のライブでは個人で管理することが多く、荷物がおおいこともザラだ。
「って…なんでみんなの分まで?」
食卓を見てさすがに美空も空気と状況を察したようだ。
「俺らもまだ食べてないんだよ」
荷物をそっと床に並べながら愚痴をこぼす。
「そういうのは早く言ってよ、なんか私が勝手みたいじゃん!」
“勝手は事実だろ”
この意見はおそらく3人共通だ。
「カレー、冷める前に食べちゃおうぜ」
津上が言うといつも通りの食事の時間と思える。やはりこういう普段通りの団欒はいいものだ。
任務に対して疑問を持ったからか…改めてバディの楽しさを感じたからか…
今日は特にそんな感傷に浸ってしまう。
「これが期間限定なんて…やっぱ残酷だよな」

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鏡界輝譚スパークラー あとがき

どうも、企画「鏡界輝譚スパークラー」の企画者です。
先週金曜日の24時をもって、当企画は“とりあえず”終了いたしました。
ご参加して頂いた皆さん、本当にありがとうございます。
今回は設定を詰め過ぎて難しめの企画になってしまったので参加してくれる人が出てくるか不安でしたが、「ここってどうなってるんですか?」と聞いてくれる参加者さんや自分なりに設定を解釈する参加者さん、設定の穴をオリジナル設定で埋めてくれた参加者さんなんかがいて、あながち難しい設定も悪くないんだなって思いました。

…で、今回は企画の裏話を語りたいと思います。
この企画は高3の時に思いついた物語がベースになっていますが、これには元ネタがあります。
それは、「アサルトリリィ」というメディアミックス作品で、自分が高校生の頃から好きな作品です。
「アサリリ」は謎の巨大生命体に可変武器で立ち向かう少女達の物語なのですが、出会って暫くして「アサリリライクな物語を作りたい!」と創作意欲が湧いてきた結果生まれたのが、この企画のベースでした。
ただ「アサリリ」と全く同じではいけないと思い、例えば男子も戦うとか、武器は変形しないとか、地名は実在のものではなく微妙に違うものを使うとか、色々変えました。
その結果生まれたのが当企画でした。
自分が「アサリリ」に出会わなければこの企画はできなかったので、「アサリリ」には感謝です。

あ、そうそう。
タイトルの「スパークラー」って企画者の造語のつもりだったんだけど、試しに「sparkler」って言葉を調べてみたら実在する言葉だと分かりました。
「花火」や「宝石」、「才人」と言った意味があるそうです。
「花火」のように命を散らして戦う「才人」達の物語…
そして「宝石」にちなんだ名前のスパークラー達。
大分適当に決めたとは言え、こうして考えるといいタイトルだったなと思います。

ちなみに今後こう言った企画を開催するかどうかは未定です。
正直これから忙しくなりそうだし。
でも他の人が企画開催したら参加したいな!

では今回はこの辺で。
遅刻投稿も大歓迎です!
あとまとめもその内作ります!
それでは、テトモンよ永遠に!でした〜

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白と黒と青き星〜第5話 料理〜

「あ、まずい!そろそろ行ってご飯作んないと」
その一言が膠着した会話、場を一気に帰る方向へと向けた。正直先に片付けを終えておいてよかったと思った。
「もうそんな時間か」
「確かにちょっとやばいね」
STIは中高一貫全寮制、全学年が住んでいるため、風呂や食事処は班別(部隊別)に使用時間の割り振りがある。出撃や授業でその時間に着かない場合は届出をする必要があるのだが、今回は任務自体は十分に間に合う時間だったので届出はしていない。
「ごめん、今日はちょっと手抜き料理になるかも」
別に当番制でもなんでもないのだがいつも料理は津上の仕事になっている。
「全然いいよ、ってか手伝えることあったらやるし」
津上がいつも料理担当ではあるが俺も大幡もできない訳では無い。ただシンプルに津上には敵わない。
「ありがと、そしたら具材切ったりとか頼むかも」
『了解』
癖づいたその掛け声は3人がやることを共有した合図でもあった。そうして走って寮に着く。それでもこれといって息をあげないのはやはり訓練の賜物だ。
「あ、もう調理室空いちゃってる」
「ってことはもう時間始まってるじゃん!」
どんなに焦っても調理室の前ではきちんと立ち止まる。
『AA0X期部隊、調理室使用します』
中学時代から叩き込まれた集団行動の基礎は必ず守る。ある意味での儀式のように。
「とりあえず煮込むとこまで出来ればあとは部屋でもなんとかなる!急ぐよ」
津上の掛け声で3人はそれぞれの仕事を開始する。
津上は鍋に火をかけた後、肉を適当なサイズに切っていく。ジョーはじゃがいもをブロックに切り、大幡は人参を半月切りにしていく。
時計は刻一刻と時間を刻む。
アラームが鳴る。
それが片付けの合図だ。
「よし、あとは部屋で仕上げだ」
津上がそう言って火を止め、鍋を持ち上げた。
ジョーと大幡は急いで片付ける。
「よし、急いで帰るぞ!」

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白と黒と青き星〜第4話 懐疑〜後編

「本題?」
「そう、今回の件には何か裏があるんじゃないかなって」
そう言った大幡の表情はかなり真剣だ。
「裏なんて大袈裟じゃないか?ほら、双子田万川って県境だろ?管轄の問題で他部隊と折り合いがつかなかったとかさ」
なぜ俺がこんなに誤魔化すのか自分でも分からないがこの反応はかえって2人の議論を加速させた。
「だとしても澁谷分校には先輩達がいるはず、なのに招集がないなんて…」
「まるで僕ら0X期部隊だけで輝士班の仕事をさせたかったみたいな感じ」
2人の会話はどんどんと何かの答えに近づくように、掛け合いの間合いが短くなっていく。
「もしそうだとして何のために?どの仕事も少人数でやる意味はないし、あり得るとしたら見せるため…とか?」
安直とわかってはいたが2人のペースに呑まれ、つい口走ってしまう。しかし2人のリアクションは至って真面目で調子が狂う。
「見せる…」
「そうか、デモンストレーション!」
俺だけがまた置いていかれる。
「え?」
「デモンストレーションなら確かに同期というテーマ性を持たせた意味も、美空のスケジュールを狙ったのも色々筋が通る」
その大幡の具体的な言い方に初めて内容の輪郭が俺にも見えてきた。
「美空の遅刻は手順を見せるため、そのためにブッキングのあった0X期部隊が招集された」
「でもなんで隠すんだ?STIの成果というならもっと大々的にやるべきだろう」
いつしか出撃準備室に置かれた机に向かい3人の議論は加熱していた。
「余程の要人への紹介か、それなら同期のみで構成する理由がないな」
「一つの代で全ての仕事をこなせることを見せる…でも集団を養成する目的とはイマイチ合わないな」
出した意見どれもが決定力には欠けていた。そうした完全な膠着状態を破ったのは津上の一言だった。
「あ、まずい!そろそろ行ってご飯作んないと」

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白と黒と青き星〜第4話 懐疑〜前編

「おかえり、お疲れ様」
「お疲れ様、ナイスコンビネーション!」
出迎えてくれた同期2人の姿に思わず驚いた。
「どうした?出迎えなんて珍しいな」
「うん、びっくりしちゃった」
正直美空のリアクションの棒読み加減の方がびっくりだ、まぁ理由は想像つくけど。
「とりあえず美空はライブ行きな、スタッフさんもう待ってるよ」
「まさかそれを言うために?」
「まぁね、スタッフさんを中に通す訳にはいかないし」
「わかってるってば!みんなお節介なんだから」
美空はわざとらしく不満そうな顔を見せつけるようにしてから通用口のある1階に向かった。それに合わせて俺は諸々の片付けを始める。
「で?任務直後の同期捕まえて何の話だ?ただ労いに来たって訳じゃないだろ」
「さすが、話が早いね」
棚の向こうで姿は見えないが声だけでも津上のあけすけさが伝わってくる。
「今日の出撃、ジョーはどう思った?」
「どうって別に…いつも通りのバディ単位だろ?」
「確かに珍しいことじゃない。でも相手は種族不明の大型、それにしては2人の配置も戦略的とは言えない」
今度は大幡の声、冷静で理論的。
“いや、配置は美空の遅刻のせい…”
訂正したいが彼女にその様子は見えていないので口は挟まないでおく。
「変異変態も踏まえれば部隊出撃でもおかしくないのに私達は群発対応という名目で避難誘導だった」
「目標は大型だったし群発対応自体は輝士班の仕事として間違ってないだろ」
「内容自体はね、でも大事なのはそれを目標の対応よりも優先したってこと」
待ってましたと言わんばかりにスラスラ訂正される。
「優先した?まさか」
「いや、順次立てるとそれが1番筋が通るんだ」
ルールとして手順は以下の通り
発生確認→避難勧告(自衛隊配備)→輝士班招集(ウォール展開)→避難誘導
輝士班の招集はカゲの種族等の判定によって人数が決まる。大型の場合は対象範囲が広いため複数部隊を招集し部隊別に担当分けをするのが一般的だ。そう考えると確かに群発対応とはいえ1部隊しか呼ばず分離するのは異例と言える。
「確かに異例だけどそれがなんなんだ?」
丁度話がまとまりかけたところで俺は片付けを終えた。
「そう、そこが本題」
「本題?」

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白と黒と青き星〜第3話 帰還〜

【目標沈黙、侵食、群発共に確認されません。これより避難民の帰宅整理に移る】
『了解。輝士班2名帰還します』
【了解。出口4.5番を開放します。そこから出撃ルート4.5番で帰還してください】
『了解』
2人は揃えてそう言い、通信を切った。
「帰ったら…どうせ説教だな」
「だよね〜…」
指定された出口に向かいながらのんびりと話す。
「まぁ怒られるの大半お前だけどな」
「なんでよ!手こずったのも最後連携やめて勝手したのもあんたじゃん!」
「よく言うよ、放っから俺を風穴としか扱わなかったくせに」
「それは…」
自覚はあったようで少しホッとしている。
「でも!最後のセリフはいらなかったかなー」
「うるせぇ!」
自分でも突発的に出た癖のようなものでそれなりに後悔してたのでいらなかったと言われると耳が痛い。
「あ、でも私このままライブだ!」
美空は用事を思い出して笑顔になった。
「じゃあ説教は1人ずつ、つまり時間で怒られる量はわかるな」
パッと出た笑顔が一瞬で曇る様は滑稽だ。
「説教を中断してライブに行けば…」
「やめとけよ、ライブも大事な仕事だろ、みーたん?」
高田美空は光の力をアイドルにも使う。
愛称は[みーたん]
元来のスタイルと戦績も相まってかなりの人気だ。
「出口だ、ちゃんとライブ行けよ?」
ジョーはそう言い残して止まることなく出口に入った。
「わかってるよ、私だって行きたくないわけじゃないし…」
美空ももう言い返す相手がいないとわかりながらも言ってから出口に入った。
「おかえり、お疲れ様」
「お疲れ様、ナイスコンビネーション!」
出撃ルートを抜けた先で迎えてくれたのは2人の同期だ。
・津上利樹(つがみとしき)
・大幡有日菜(おおはたゆいな)

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白と黒と青き星 〜第2話 戦闘〜バディ編

「美空!お前何のつもりだ!」
飛んできたクナイは駆け巡った思考の中から1つの答えだけを指し示した。
「まぁ確証があったわけじゃないけどね」
クナイに遅れて本人が笑いながら降りてくる。
「でもデコイの可能性は高いと踏んでた。だから俺に本体を譲った。違うか?」
徐々に回復するカゲの体や触手に斬撃を入れながら問い詰める。
「半分正解、でももう半分はほんとにジョーじゃなきゃ本体に太刀打ちできないって思ったからだよ」
全く都合のいい言い方だ。実際俺の刀型P.A.ですら傷をつけるのが精一杯だったから結果的には正解だけど…でも今そんなことは問題じゃない。
「なぁ、お前ならコアの位置がわかるんだろ?」
「だからわかるわけじゃないって!見当はつくけど…」
「俺よりわかるならそれでいい、交代だ」
「はぁ?聞いてなかったの?私のP.A.じゃ歯が立たないんだってば!」
「お前はコアを打て、それ以外は俺が諸々やってやる」
お互い投げやりな言い方をするが、その真意は伝わっている。バディとは極めて不思議な関係だ。
「無理言って…まぁジョーが言うなら信じられるけど」
美空はクナイでカゲの体を抉っていく。ジョーはその傷を維持し、攻撃を全て捌く。
【初めからこれが出ればいいのだが…】
隊長はその様子を賞賛しながらも少し頭を抱える。
「あった!」
隊長のそんな感情を余所に美空はクナイがコアに当たった感覚に声を上げた。
「ぅりゃーー!」
ダークコアとP.A.がぶつかり甲高い音が響く。コアへの衝撃にカゲの体が反応し、硬直する。
「ダメ…硬い…」
クナイが刺さったまでは良いがそれより奥に進まない。美空が助けを求めるように後ろを覗く。そこに、彼の姿はなかった。
「ジョー?ねぇ!」
辺りを見回すが彼の姿は見えない。
「上だ、バーカ!」
美空は死角からの声に驚き上を見た。
「どけっ!押し込んでやる!」
美空は彼の姿を目で追いながらクナイから手を離し、後ろに後ずさりする。
「ダァーー!」
ジョーの繰り出した足先は見事にクナイを捉え、先程までよりも深く差し込む。ダークコアの中心に到達した瞬間コアが砕け、その破片が爆散した。融解するカゲの体に足を取られ尻もちをついた美空に
「ラストは貰った」
ジョーはそう言ってサムズアップを見せた。

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白と黒と青き星 〜第2話 戦闘〜五代ジョー編

校長から高田美空への説教はジョーの元にも届く。
「あいつ…またやったのかよ…」
大型のカゲに乱斬りを浴びせるその手が止まりそうな程力が抜ける。しかし呆れながらもそれが彼女なりの合図だというのもジョーにはわかっていた。
「俺もそろそろちゃんとやるか…」
袈裟斬りで大きな傷をカゲに刻み、その反動を使って後ろへ飛び間合いを取る。これが彼なりの必殺技への儀式だ。鞘こそないが納刀に等しい逆手持ちでP.A.を持ち無行の位で呼吸を整える。
スーッ…ハァー…
“相手は中長距離攻撃が主体で近接戦もその応用に過ぎない。加えて触手も向きがあり他生物同様に上からの攻撃には必ず隙がある。残るはコアの位置だけど…”
…タッ…タッ…
小さいが確実に近づく足音。
「行くか」
そう呟いて走り出す。迫る触手を捌き、時に切りながら空中へ飛び上がる。触手の届かない高さまで飛んだところで姿勢を整える。落下が始まる。触手の迫る速度は先程までの比では無い。
「アァーー!」
P.A.は完璧なタイミングで振り下ろされ、次々に触手を切っていく。そのまま刃は本体を捉える。先程の乱斬りとは違い確実に刃が入る感覚。刻んだ傷が開き、さらに深いところまで刃が入っていく。進むほどにコアらしきものがはっきりとした点になっていく。しかし、当然コア付近は固く、刃の勢いも抑えられていく。
“もう少し…届け…”
その意志が止まり始めた刃を進める。刃先から今までと違う何かがジョーに伝わる。
“届いた…!”
カゲの体に足を突き刺し、体勢を取る。
“回復する前に打つ!!”
再び大きくP.A.を持ち上げる。
「ぅらぁーーー!」
彼の最も得意な斬り方で振り下ろす。
間違いない手応えでコアが真っ二つに割れ爆散する。しかしどこか様子がおかしい。
“おかしい…コアを破壊すれば体が融解するはず…”
「まさかデコイ…!?」
一瞬で考えうる全ての可能性が頭を駆け巡る。
「さすがバディ、私の期待通りだよ!」
背後から軽薄とさえ取れる愛嬌全開の声とクナイが飛んでくる。そのクナイは俺の肩口を掠め、カゲの体に突き刺さった。
「美空!お前何のつもりだ!」

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白と黒と青き星 〜第2話 戦闘〜高田美空編

地下に張り巡らされた出撃ルートを通り
指定された2.3番出口から2人は地上に参上する。
目の前には大型テネブリス。その異質な存在感は圧巻だ。
「これが今回の獲物ねぇ」
「映像見とけよ、共有されてたろ」
大型のカゲを前にしても2人のやり取りは変わらない。
しかしその目はきちんと臨戦態勢だ。相手の出方に気を配り、しかし緊張や気後れする様子もなく隙がない。
『輝士班2名より、これより攻撃を開始する』
報告などの事務作業は相変わらず一言一句ズレがない。
【了解。詳細情報を通達します】
その通信を聞きながら、2人は目を合わせ、口角を上げる。
『全開放』
2人は光の力を全開放し、走り出す。
その走力は常人のそれではなく、100m以上あるカゲとの距離を3秒もなく詰める。
【目標は全長14mで大型に分類。特定の形状を維持せず種族は不明。コアの露出も確認されません。本体の攻撃は主に触手による中長距離攻撃、近接戦は不明。侵食分身の攻撃は…】
走りながら2人は詳細情報と自分達の視覚情報を照らし合わせる。
『了解』
「んじゃ、私はまずこの厄介な侵食くんの数を減らしますか」
「なら俺は本体ってことか」
「さすがバディ、でっかい風穴期待してるよ〜」
そう言いながら2人は各々に別れ、それぞれの目標に向かってその武器を振るった。
高田美空はクナイを駆使して無数の侵食分身(カゲの侵食によってカゲ化した存在)を次々に倒していく。その姿はまるでステージで踊っているアイドルのようにさえ見える。それほどに綺麗に、的確に相手のコアを突いていく。
「ここでファンサ!」
背後のカゲに向かってクナイを投げる。
しかしカゲもバカではなく、その距離があればコアへの命中を外すことだってできる。
「あ!しまった!外した!」
クナイはカゲの体を掠めてそのまま飛んでいく。
そのためカゲは姿勢を変えず美空に迫ってくる。
「…なんてね」
飛んでいったように見えたクナイは方向を変え、カゲのコアを背後から貫いた。そのまま宙を舞うクナイが周囲のカゲを一掃。帰ってきたクナイを掴み、
「千の偽り万の嘘、これも私の武器だよ」
そう言ってクナイに口付けする。
【美空ぁ!!!!】
「うひぃ…」
当然こんな戦い方では校長からお叱りの通信が入る。
「あいつ…またやったのかよ…」

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鏡界輝譚スパークラー 白と黒と青き星〜第1話 出撃〜後編

「2人とも、いけるな?」
出撃準備室に校長もとい澁谷分隊長の声が響く。
「俺はもちろんいけるよ、まぁ遅刻女はどうか知らないけど」
「うるさいなぁ、ライブだったんだってば!」
世にいう学生男女のノリだ、何故か男女というのはイジり合うことでしかコミユニケーションを取れない。しかしこんな学生に頼らなければならないというのもまたこの地球の不思議な現実だ。
【本部システム、作戦第2フェーズへの切り替え完了しました】
通信越しに聞こえる本部隊員の報告が聞こえる。
「了解。という訳だ、2人とも出撃準備だ」
その言葉を受け2人は目つきを変え、目を合わせ、タイミングを合わせて首に提げたチップのスイッチを入れる。
『解放』
このチップはSTIの学生証であると同時にスパークラーの光の力を制御するものだ。スイッチを入れるとその光の力が解放される。
2人はチップのついたそのネックレスを外し、チップを用意されたP.A.に挿入する。するとP.A.にある画面に
[AA0X02 Log in] [AA0X03 Log in]
とそれぞれ表示され、
一方は日本刀程もある刀身の刀型、
もう一方は苦無(くない)型
に形を変える。
【AA0X02、AA0X03、2名のログイン確認しました。ルート2.3番開放します】
通信の音が聞こえるが、2人は反応1つせず、変形したP.A.を素振りしている。
『AA0X02 五代ジョー、AA0X03 高田美空、両名出撃準備完了。出撃ルート確認しました』
訓練の時間に言い慣れているため、口を揃えるのは自然とできる。
【了解。出口2.3番開放します!】
「頼んだぞ2人とも」
2人に聞こえるかギリギリの音量で呟く。
「行くぞ」「行こっか」
2人も互いの目を見て合図する。

『出撃!』

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白と黒と青き星 〜第1話 出撃〜前編

STI校内、そして防災庁特定特殊生物対策班の施設内に警報が鳴り響き、対策本部は警報と共に電源が入る。
「東鏡都瀬田谷区に大型デネブリスの出現を確認。政府より緊急事態宣言発令に伴うプラン11要求!」
「了解。瀬田谷区全域の河川及び公道にフォトンウォール展開、住民避難を開始します。」
「陸自班、空挺班は東鏡I.Cを中心に第1種戦闘配置!」
指示を出す澁谷分隊長は私たちの通う東鏡第1分校澁谷校の校長でもある鳴海晃司。かつてスパークラーとして第1線で活躍したエースだった男だ。今もその戦術眼は衰えることを知らない。
【空挺班より報告します。目標は現在双子田万川駅周辺を侵攻中。幸い侵食は国道246号線、都道11号線に囲まれた範囲内で抑えられています】
「その範囲なら住民避難完了しています」
通信と本部隊員の声が次々に飛び交う。
【澁谷分隊、全隊員配置完了。目標捕捉しました。】
「了解。総員、飽和攻撃体勢に移れ!」
隊長はその全てを聞き逃すことなく、的確な指示を出す。
【『了解』】
【空挺班、攻撃準備完了。いつでも打てます】
【同じく陸自班、いつでも打てます】
「GPS誘導弾発射準備完了。いつでも打てます」
さすがに特殊自衛隊。行動は迅速で乱れがない。
「住民避難完了のため、政府の承認は省略。飽和攻撃開始。打てぃ!」
隊長のその合図で発射、着弾の轟音が鳴り響く。
先程まで見えていたモニターはその爆撃の衝撃のためか、それを防ぐためか映像が途切れている。
その轟音は数秒間続き、その間も本部は忙しなく誰かしらが動いているが音は掻き消される。
その中で隊長は何か言伝を受け、少し口角が上がる。
「飽和攻撃終了。モニター、復旧します」
そのモニターに映ったのは爆発によって先程までとは少し形状が変化したデネブリスの姿があった。しかし本部の面々に動揺する様子はなかった。
「実弾、光弾共に全弾命中。目標のコアに損傷、認められません」
「結構。第2フェーズ移行への時間は稼げた」
そう言うと通信をアナウンスに切り替える。
「全隊員に告ぐ、これより作戦を第2フェーズに移行する。総員、配置に着け!」
隊長は再び通信をSTI校内の出撃準備室に切り替え、問いかける。
「2人とも、いけるな?」