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夏休み 1 「あたり」

昔から運はいい方だった。
「おお、またあたりかぁ!良かったな!」
そんな話をしたのも一度や二度ではない。
ところがここ最近は別な方向に「あたり」が出ている気がする。
例えば、嫌な仕事にあたる、夕飯の刺身にあたる…何でなんだと思いながら過ごしていた。
おかしい。運は良かったはずなのに。
今までの皺寄せがきているとでもいうのだろうか。
何だかもやもやしつつも、誰に相談もできずにいたが、今日の一件で友人に相談することを決めた。
今朝出かけようとしたところ、バン!と音がして、頭頂部に軽く痛みを感じた。
振り返ると、足元にノートが落ちていた。どうやら上の階で落とした奴がいるらしい。
証拠に、数秒後には小学生くらいの子供が慌てて出てきて、頭を下げながら謝罪された。
これだけなのだが、この一件はかなり危機感を覚えた。
もし、これがノートじゃなかったら。…例えば植木鉢とかだったら。
自分は、間違いなく死んでいただろう。
そう感じて、その場で友人に電話した。
友人は黙って話を聞いていたが、途中から様子がおかしくなった。
「それって、親に相談したりしてないよな?」
「え、してないけど?」
「わかった。今から迎えに行くから、何があっても親には言うな。絶対!」
そこまで言って電話は切れた。
その後、車で迎えに来た友人は顔面蒼白だった。
「お前さ、『アタリ様』って覚えてるか?」
「え、あの祠?確か子供の頃に取り壊されてなかった?」
「そうそれ。アレの解体やったの、お前の父ちゃんなんだよ。地元のお坊さんとかの反対押し切って取り壊してさ。でもお前の両親はピンピンしてるし。もしかしてとは思ったけどまさか…」
友人曰く、アタリ様の祟り?らしい。
初めこそいいことがあるが、どんどん悪い方向へ進んでいくという。そして親はその呪いを子供、つまり自分に押し付けたのだと。その日はそのまま友人とお祓いを受けた。今は何事も無く過ごしている。
しかし、両親は違ったようだ。お祓いの日、ちょうど事故の電車にあたって大怪我をした。
留守電には「何で、お前があたっていれば」と恨み言が届いたが、今はどうしているだろうか。

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百舌鳥と愉快な仲間たち_1

「あ゛ーっ!!また引っかかった!!また検診か!週に何回やれば気が済むんだよ!!」
冷房の効いた部屋にブケファルスの大声が響く。
「くっそ…面倒くさい…お前もそう思うよな?俺が検診のときお前留守番だぞ?」
ブケファルスはケースに入った自分のレヴェリテルムに激しく同意を求めた。昔からブケファルスには自分のレヴェリテルムと会話しようとする癖があった。
ピンポーン
突如部屋のインターフォンが鳴る。
「…ん?」
扉を開けると、少年が3人。左は髪のつんつんした不良っぽい容姿で、真ん中は小さくて目が大きく、右は大きく妙に居心地悪そうにしている。
「よぉ!あっ違ぇ、初めまして!」
「僕たち、ドムスの方から君に会ってって言われたんだ。ラニウス・ブケファルスだよね?」
「…その、突然すみません…」
突如左から順に三者三様すぎる挨拶をくらい、ブケファルスは大いに戸惑った。
「えー…えっと…とりあえず、上がるか?」
三人は互いに顔をみやる。
「マジで!?よっしゃお邪魔します!」
「やったね!冷房がこっちまで届いててさっきから涼しかったんだー」
「ええ…そんな無遠慮な…あっお邪魔します」
ブケファルスにとって、初めての同期との交流である。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ:告鳥と悪霧 その⑨

「ビク太郎、ズー坊。お前らの出る幕は無ぇ。大人しく下がってろ」
カズアリウスの指揮で、他の2人は後退した。
「おや、君のような雑魚一人で相手するつもりかい? 思い上がるのはやめた方が良いと思うがねぇ」
研究者の男が揶揄うように言う。
「うるっせ。馬鹿にすんなよ? これでも“以津真天”のアタマ張ってんだ。1つ、俺の本気ってやつを見せてやるよ。アリエヌス壊されて泣くなよ?」
「確約はできないね。本当にそうなったなら、嬉し泣きするかもしれない」
「ほざけ」
そう吐き捨て、カズアリウスは彼のレヴェリテルム“Calcitrare ungula”を変形させた。変形機構が起動し、踵部分に長さ20㎝程度の折り畳み刃が展開する。
「……随分と短い刃だ。大型を相手するには力不足だろう?」
「そうかもな。まァ食らって判断しやがれ」
足裏のブースターを起動し、カズアリウスはアリエヌスの頭頂より高く飛び上がると、右脚を伸ばしたまま足裏が直上を向くほどに振り上げた。
「蹴り殺せ――」
ブースターを再点火し、振り下ろす動きを超加速して、アリエヌスの脳天目掛けて踵落としを叩き込む。
「Calcitrare ungula”ァッ!」
ブースターからは凝縮された高火力エネルギー砲が放たれ、それを推進力としてアリエヌスが盾のように構えた腕に踵のブレードが突き刺さる。勢いは衰える事無く蹴撃が完全に振り抜かれ、腕の一部を大きく抉り抜いた。
「……なるほど、なかなか悪くない威力だ。ブースターの出力断面積を敢えて絞ることで、威力密度を上げているわけか。……だが、大型の敵を相手にするにはあまりに小規模過ぎるな」
研究者の言葉に、カズアリウスはニタリと笑う。
「別に良いんだよ。端ッからそいつ殺すことなんざ狙ってねェからな。“以津真天”が何を目的にした部隊だと思っていやがる」
カズアリウスは空間天井を指差す。ブースター役のエネルギー砲は天井を貫き、地上にまで貫通していたのだ。
「『大型相手の時間稼ぎ』だぜ。俺の仕事はもう終わったんだよ」
地上から爆発的破壊音と振動が伝わり、天井を揺らし小さな瓦礫片を落とす。
「選手交代だ。“うち”の最高火力を見やがれこの野郎」
カズアリウスが言ったその瞬間、天井が粉砕され、一つの影が飛び込んできた。

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空想少年要塞都市パッセリフォルムズ:告鳥と悪霧 その⑧

アリエヌスの拳が、3人に向けて振り下ろされる。
「クソが! “カルチトラーレ=ウングラ”!」
カズアリウスの履いていた金属製脚甲の脹脛に仕込まれた加速用ブースターが一斉に起動し、超高速の蹴りが拳を迎撃する。
「この……ッ! だらあァッ!」
ブースターの出力を上げて跳ね返し、足裏の噴射機構からエネルギー砲を撃ち出して反撃する。
「この野郎ォ……俺のレヴェリテルム“Calcitrare ungula”は、ただの機動用ブーツじゃねェぞ」
カズアリウスが右脚を上げ、足裏をアリエヌスに向ける。
「出力を調整すれば、こうしてビーム兵器にもなれる」
研究者の男はビデオカメラを構え、戦闘の様子を撮影観察していた。
「なるほど。しかしまぁ……可哀そうな能力だね。その”蹴爪”という名のレヴェリテルム……その程度の出力で得られる機動力は、レヴェリテルムの標準性能で得られるだろう?」
「うっせ、俺ぁこいつが一番性に合ってんだよ。大体、動力も翼も無しに空飛べるわけ無いだろうが。常識でものを言え常識で」
「始めて見たね、『常識』なんてものを語るアヴェスは。君達は想像力の傀儡だろう?」
「生憎と人格もありゃ教育も受けてきた生命体だ。そこまで目出度い脳味噌はしてねぇよ」
「興味深いな。これからも実験に協力する気は?」
「お断りだ!」
“カルチトラーレ・ウングラ”の足裏から放たれたエネルギー砲を、アリエヌスの腕が受け止めた。ビームは腕部装甲に弾かれ、ダメージを与える事無く内壁に衝突して終わる。
「出力はあまり高くないのだね?」
「高くある必要が無いからな」

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生まれ変わって撞波再くん

ガンガンガンガン…
はぁはぁと僕は息をしながらもこの長い鉄でできた階段を登っていく。
ふと顔を上げると陽の光が入ってくる。さっきまで雨が降っていたのになと思いながら最後の階段を登る。
〜第一章〜
 ここは、この街にある結構高めのビル、と言ってもどこもかしこも錆びていて、誰もいないので時々空き巣が入ることもあるのだが、ここにはもう一つ噂があるそれは、「自殺の名所」とも呼ばれている。
僕は大空 撞波再(おおぞら つばさ) 17歳。家は母子家庭だったけれど小学生の頃突然母は姿を消してしまった。そこからはおばあちゃんの家で過ごしている。
僕は、屋上のはじまで行きふと下を見下ろした。
…やっぱり高いなぁ
でも、こんなバカみたいな世界と今日でおさらばできるんだと思うと、もう何も考えられなくなった僕は目を閉じた。
この世界で最後に言うことは?
…バカだな。こんなこと聞いても対して答えることがないのに。
まぁ、一つ思うとしたら…。
母さんにもう一度会いたかったよ。おばあちゃん今までありがとう。
僕は最後にこう思い、飛び降りることにした。
って言っても高いなぁ。本当に飛び降りたら死ねるのかな?
あぁ覚悟が決まんない。ここで出てくる僕の優柔不断はクソみたいだ。
さっさと死ねるんだぞ、次の地平線へ飛んでいけるんだぞ。さぁ、早く降りろ!
「これでもう、何も感じない そんなこと思っていませんか?」
「うわぁぁぁぁぁ!」
声が聞こえた。そんなはずはない。だって足音もしなかったから。
僕はぎこちなく後ろを向く、そこには綺麗な瞳をした男の子が立っていた。

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プロ野球物語〜タイガース編〜②

国際情勢がきな臭くなり、中国との戦争という暗い影が日本国民に忍び寄りつつある時代に帝都・東京に続いて商工業の中心地大阪でも球団が産声をあげた。
そんな大阪のタイガースが生まれた後も名古屋や東京をはじめ全国各地にプロ野球(当時の名前では職業野球)のチームが生まれた。
そうして合計8球団で春秋の2部でシーズンを戦い抜いたのが日本初のプロ野球だ。

余談だが、そんな大阪タイガースにも巨人やドラゴンズの前身となる名古屋軍と同様に球団を応援する専門のテーマソングが開幕前後の時期に生まれた。
しかし、他球団のテーマソングはチームの運営会社や時代の変化に応じて曲そのものが変わったが、このタイガースの球団歌は約90年経った今でも冒頭の1番の歌詞の最初の単語から六甲おろしという名で親しまれて歌い継がれているのだ。

閑話休題、そんな生まれたばかりの球団を初年度から支えた主力選手の一人に藤村という男がいる。
彼は野球王国・広島県出身でのちに記録することになる数々の功績からプロ野球選手最大の名誉と呼んでも過言ではない永久欠番という特別扱いを受けることになるのだ。
この永久欠番とは、特定の背番号を過去につけた特定の選手の偉業を讃えてその選手以降にその背番号を使わせないという制度で、その背番号は球団によって異なる。
しかし、タイガースではこの制度により欠番となっているのはいるのは10、11、23だ。
ところが、この藤村選手の背番号10を除くといずれものちに日本を覆う悪夢の様な戦争が終わった後の平和な時代で活躍した2人の選手のものであるのだからプロ野球黎明期のタイガースを支えた藤村選手の功績の大きさは計り知れない。
藤村は投手と野手の二刀流という、のちの令和の世では世界的に有名な日本人選手しかやっていないけれど当時としては当たり前のプレーを通じて、日本プロ野球に残る初めての記録をほぼ総なめする形で球界を沸かせた。
藤村が打撃の人ならばタイガースを支えた投手のエースに景浦という選手がいる。
しかし、のちに起こった戦争に軍人として参加するも生き残って戦後も野球界の発展に向けて最善を尽くした藤村とは対照的に、その戦争で亡くなった景浦は平和や命の尊さを教える貴重な存在として戦後も語り継がれている。