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赤い蝶が舞う

「なんで僕がこんな目に」
「葉山ドンマイでも意外と楽しいから部長も面白いよ」
初瀬にフォローされながら僕は重い足取りで階段を上がりとある教室へ足を踏み入れる
旧校舎の4階で1番右隅にある名前の無い空き教室で文化研究部の部室である
なぜ僕がここに居るかはまた別の機会に
何故かと言うとそろそろ会議の時間なのだ

「よしそれでは今年の文化祭の展示内容を決めたいと思う何か意見のある者」
声の主は 折紙 舞姫
女性にしては低いが通りの良い声が教卓から放たれる
首元辺りでバッサリ切られた髪に小柄な見た目は活発そうな女の子という感じの風貌なのだが
全身から近寄り難いオーラを放っているのがなんとも言えない
僕と同じ1年で隣のクラスの要注意人物というのが
彼女に対する男共の認識だ
「おい 葉山聞いているのか」
「あぁ、展示ね展示、聞いてる聞いてる」
「はぁ 適当で良いと言ったがやる気ある奴で頼むとお願いしたはずなんだが....」
辺りを見渡しお探しの人物が居ないことを確認し
ため息をひとつ
「顧問は」
「部員探しの続きらしいよ」
「アレに任せていたら碌な人材が入らんな部員の方もこっちで考えないと小規模な展示しか出来ないな」
折紙の肝の据わり方も大概だが門田先生の信用の薄さの方も大概である
しかし折紙 舞姫という人間は
誰にでもぶっきらぼうな上
中学時代は空手で全国1位で戦闘力も抜群ときた
彼女に近寄るだけでもハードルがかなり高い(心理的に)
「それで過去にどんな展示をやったとか活動資料みたいなのは無い訳?」
「知らん、何せ顧問の私情で無理やり動かされ始めるような部活だ過去の活動記録なんてあっても役に立たないのは目に見えている」
「先代の部員が可哀想になるから止めろ」
「姫ちゃん毒舌だねぇ」
顧問 門田 善次郎
部長 折紙 舞姫、副部長 初瀬 紗夜、補欠 葉山 健也
というのが現 文化研究部の部員の面々である

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赤い蝶が舞う

大概人が持っている物は輝いて見える
私以外の世界は全て眩しい
葉山 健也
彼はきっと私と同じ世界の人間だと思う
そうあって欲しい
「ねぇ、葉山は誰かを羨ましいと思う事ある?」
「恥ずかし話俺は皆んなが羨ましいよ初瀬が居なきゃ3年間ぼっち確定だったしな感謝してるよ」
葉山は畏まってそう言った
「いやいや、私だって危うくぼっちコースだったんだよここ(泉西)に来たの私だけだもん」
「そうなんだ、まぁでも初瀬ならどこに行っても大丈夫なタイプだよ」
違うそれは私でなく私が作った私だ
全ては私が私を嫌いが故に作り出した偽物に過ぎない
「そんな事ないよ へへ」
笑っている私はどんな顔をしているだろう
綺麗な笑顔だろうか不自然でないだろうか
私はありとあらゆる事を気にして生きている
それ故に損をして来ている事を自覚しながら
私は恐怖の殻に包まれている
「じゃ俺そろそろ帰るけど初瀬はどうする?」
「委員会の仕事あるから今日は残るよ」
「そっかじゃあまた明日な」
「うん、では少年また明日も学校来いよコノヤロー」
「あぁ 少年は明日もきっちり登校してやるよコノヤロー」
笑顔で私のおふざけに付き合ってくれる彼を見て最近思う事がある
多分彼は笑顔でいる事が増えたはずだと
これは勘で出来る事なら当たって欲しくない
彼の殻を破ったもしくはヒビを入れたのが私であるという、いや正しくは偽物の私が彼の殻を破ったもしくは破る助けになったという事実
廊下を歩く彼に夕日が差し込んでいる
今の葉山は私にとって少し眩しい、と思う

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赤い蝶が舞う

入部希望期間が締め切られた
結局僕はどこにも所属しなかった
初瀬はというと
「えっ?私?私はね、文化研究部ってのに入ったよ」
いつもの笑顔はとっくに戻って来ていた
それに何となく安心した僕は文化研究部なる存在を知らなかったので聞いてみた
「何それ、そんなんあったの?」
「あるある、まぁ私も勧誘受けるまで全然知らなったけどね、へへ」
僕達が知らなかった訳は
僕らが入学するまで休部していたらしく
現在部員は初瀬含め1年2人だけの部らしい
「で、そんな限界集落みたいな部にどうやって勧誘された訳?」
「顧問の門田先生がね文研が動かないと野球部の顧問にされるから助けてくれってプラカード作って校舎を徘徊しててそれに捕まったの」
「シュールな話だな」
門田 善次郎
2年C組の担任で担当教科は国語
陽気さにかけては泉西校教員の中でもトップクラス
一応初瀬の話じゃ文化研究部の顧問らしい
見た目は完全に用務員の先生なのだが格好がスーツなので実に不自然で男女問わずそれをイジれるくらい気さくな人で生徒からの人気も男女問わず集めており多分教師の人気投票でもあれば1位は堅いのではと密かに思っている
大方野球部の顧問にされて試合や遠征とかで休みを潰されるのが嫌だったとかそんなとこだろう
疲れたと休みをくれが口癖なくらいの人だし
「門田先生入部希望者が2人居るって分かったら泣いてたって聞いたよ」
「なんて大人だよ....」
「はは、まぁまぁ人間っぽくて好きだけどね」