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HAPPY END

「ねぇ知ってる?
 この木の下で成立したカップルは、
 将来結婚できるんだってさー」
そう言って彼女はアイスをかじり、「つめたっ」と目を細めた。
『何を馬鹿馬鹿しいことを…』
と言いながら僕もアイスをほおばった。冷たい。
「え、でも悠、好きな子いるんでしょ?」
ふふん、知ってるぞ、とでも言わんばかりに片手で髪をかき上げる。さらりとした黒髪から甘い香りがして、つい目を逸らしてしまった。
『いや、興味ないって』
声が震えた。気付かれないといいな、と願うばかりだった。そして幸運なことに、彼女は僕の震えた声に気付いていないようで、「いやあ今日は暑いねー」と呑気に呟いている。
『梨花は信じてるわけ?
 てかその話、なんで僕に』
「まぁまぁいいじゃんかー」
アイス食べ終わっちゃった…と悲しそうに棒を眺める。『僕のあげようか』と言う言葉が喉まで出かかって、理性で抑え、なんとか平静を装う。
「応援してるんよ?これでも」
『何を?』
「いやだから、悠の恋だよー
 ずっと無愛想でそーゆーの興味ないとか
 言ってたのにさー」
『あぁ…』
「応援してるから、教えたの」
『そうか…ありがとう』
「言うこと聞いたげるから何でも言いなよー
 もちろん今だけだけどね笑」
彼女が帰り支度を始める。肌がジリジリと焼けてくる。心の中で葛藤する。どうしよう、と思う。
『さっき言ってた結婚できるってやつ、本当なん』
「えーどしたの?そー言われてるってだけやけど
 みんながそうなったら素敵だよね」
彼女はうっとりした目で遠くを見つめる。
「少なくとも私は、それを実現したいんだ
 これ内緒にしといてね」
そういってふふふ、と笑った。
『どういうこと…?』
「私昨日ね、好きな人にここで告白されたの」
頭を鈍器で殴られたかのような、ずしんとした痛みに襲われた。もちろん心理的な痛みなのだが。
「だから結婚できたらいいなぁ、なんてね」
高校生が何言ってんのって話だけどさー、と彼女ははにかむが、僕には表情筋を動かす余裕さえなかった。



幸せが、終わった。