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少年少女色彩都市某Edit. Passive Notes Walker その⑦

タマモは追加で新たに小さなインキ弾を数十個、やや大きめのインキ弾を数個生成し、理宇の身体が僅かに傾いた隙を通してエベルソルに叩き込む。まず腕を叩き落とし、頭や肩を重点的に狙うことで動きを制限する。
「ん! ありがとうございます!」
理宇が飛び退くのとほぼ同時に、タマモは予め用意していたインキ砲弾を蹴飛ばし、エベルソルに向けて転がした。
「俺の弾幕の残りは十分、つまり攻撃はもう来ない。対するこちら、この砲弾。コイツはまさに『破壊力』。スローで確かにテメエに向かい、防ぎようも無く轢き潰す! っつーわけで……さらばクソ文化破壊者!」
動きを止めるための弾幕が止むのと、砲弾がエベルソルに直撃したのはほぼ同時だった。
砲弾はエベルソルに当たった順に腕、頭、胴、脚、尾と消し飛ばした。
「わー……あんな恐ろしい攻撃できたんですね」
「俺としては、お前のインキの使い方に驚いたよ。ああいうの、アリなんだな」
「できてるしアリっぽいです。……ところでタマモ先輩?」
へたり込んだままの理宇が尋ねる。
「何だ?」
「その……運んでいただけると」
「……まあ、そりゃ内臓損傷してるだろうからな」
タマモは理宇を抱き上げ、肩に担いだ。
「あ、そう運ぶんです?」
「ん、流石に腹押す形はマズかったか? 負ぶってやった方が良いか」
「いやぁ…………そうですね、それでお願いします」
「了解」
背負い直し、歩き始める。
「……お疲れ、後輩。よく頑張った。寝てて良いぞ」
「光栄です……すみません、ご迷惑おかけします」
その言葉を最後に、理宇は意識を手放した。

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Daemonium Bellum RE:ふぉーるんらぼらとり その③

「……で。なんでだ?」
あの男性……彼の言葉から察するに、悪魔氏は、先ほどまでの軽い口調とは打って変わった真剣な口調で青年に問いかけた。
「俺に用があるなら、俺だけラチりゃ良いだろ。……ぁいや俺ラチってきたのも許してねーけど。羽根カスとヒトカスはなんでここに居る? 言っとくが悪魔にだって知識として『常識』はあンだよ」
長剣の刃を見ていた青年は身体の動きをぴたりと止め、ゆっくりと悪魔氏の方に向き直った。
「えっと、そうですね……見ての通り俺は片翼の“堕天使”なわけですが」
「あァ、そうだな」
「やっぱ俺って、追放された側なわけじゃないすか」
「そりゃテメェで反旗翻してンだからな」
「普通恨みません?」
「お前個人は?」
「いや特に……俺も馬鹿な事したなーって。けどせっかく見つけたんで、物のついでってことで」
「ヒヒヒ! お前良い性格してンねェ!」
「おい貴様! 誰が物のついでだと⁉」
天使氏の言葉には2人とも無視を決め込んでいた。
「あ、ついでにそっちの“かよわきいきもの”は?」
「それはほら、天使って暴力的なところあるじゃないですか」
「ウン」
「だからほら、無力な人間が一人いれば、無法出来なくなるなって」

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視える世界を超えて エピソード6:月夜 その⑧

「あの子、思ったよりタフだよ。…………いやしかし、下手とは言ったが案外悪くないぜ、あの子のやり方」
「え」
「あの滅茶苦茶な振り回し方、ロクに刃を入れられてないモンだから全然斬れてないが……」
「刀使ってるのに斬れないんじゃ意味無いんじゃ?」
「お前想像してみろ。たしか真剣の重さは1㎏くらいって聞いたことがあるが、それだけの重量がある金属の塊を叩きつけられるのを」
鎌鼬は顎に手を当てて少し考え、得心したように手を打った。
「当たっても硬度で弾かれる可能性のある斬撃と違って、打撃は当たりさえすれば絶対に、中身を揺さぶって影響を残すんだ。最低限得物を振り回せるだけのパワー、最大威力の先端をぶつけられるだけのテクニック、相手に捉えさせないだけのスピード、相手が死ぬまで戦い続けられるだけのスタミナ。全部あれば『無い』戦法じゃあないのよ」
種枚の言葉を聞きながら、鎌鼬は少女の方を見下ろす。少女は両膝をつき、肩で息をしていた。
「……全部あります?」
「……少なくともスタミナには不安があるかな」
種枚がのろのろと立ち上がる。
「おい馬鹿息子」
「……何すか」
「ちょいと転ばしてやって来な」
「師匠はどうするんです?」
「何、殺しゃあしないよ。あの子の獲物だ」
鎌鼬に目を向ける事も無く指示を出し、種枚は屋根から飛び降りた。

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少年少女色彩都市某Edit. Passive Notes Walker その⑥

(さッ……すがに、難しいよなァ…………アイツのやり方ってのは)
援護射撃を送りながら、タマモは相棒たるロキのことを思い出していた。
(アイツの才能『展開の演出』。たしか『より面白い物語を演出するために、持ってるもの全部使って場の全体を都合良く操る』みたいに言ってたか。……面白い展開って何だ?)
弾幕が腕を更に1本吹き飛ばす。
「やッべ、テンポ狂うじゃん」
呟き、弾速を僅かに下げる。
「向かって左、1本減ったぞ!」
「ん、了解です!」
短く答え、敵の攻撃をいなしながら、隙を見て理宇は横から来る拳を両手で受け止めた。その腕に組み付くと、エベルソルは振り解かんとその腕を大きく振り上げ振り回す。放り出されまいと歯を強く食い縛りながらも、理宇の口角は、にっ、と吊り上がっていた。
(私がトドメをお願いしたのに……当然だ。私が前にいれば、タマモ先輩は誤射の危険から敵の芯は狙えない。だけど今なら!)
理宇の取り付いている腕を振り下ろそうとしたエベルソルの身体が大きく傾ぐ。理宇は素早く離脱し、タマモの目の前に回転しながら着地した。
「見事な着地、10点満点」
「ありがとうございます……っと」
2人に向けて伸びてきたエベルソルの腕を、理宇は片手で受け流した。続いて伸びてくる腕の攻撃を、次々捌いて行く。
「うッわァ……これ、近くで守られてると圧がすげェな」
苦笑しながらガラスペンを取り出し、巨大なインキの塊を空中に生成する。
「せっかく後輩がカッコイイところ見せてくれたわけだし、こっちも1発大技決めてやらねーとなァ……」
10秒以上インキを垂れ流し続けて完成させた巨大な砲弾で、エベルソルに対して照準を定める。
「おいリウ! 隙見て躱せ!」
「え、無理です!」
「……分かった。隙はこっちで用意する」