『6日目参』
みゆりは仕事を早く切り上げ森矢邸へ向かった。
やはり厳かな雰囲気である。
「よく来てくれました、ようこそ。」
風麿はいつも通り迎え入れてくれた。
「さぁて、何でも聞いてください。何でも答えましょう。」
みゆりはゆっくりと口を開いた。
私が聞きたい事は五つあります。
一つ、何故私にそこまで良くしてくれるのか。
一つ、神見ると具体的に何が起こるのか。
一つ、何故一昨日私を此処へ連れ込めたのか。
一つ、神とは何なのか。
一つ、貴方の目的は何なのか。
以上です。
...カチリ...カチリ...カチリ...
時計の針は子の刻を示した。
自らの持ちもの見ずに
他人を気にして何になろ
比較の上に成り立つ幸せは偽物だ
不幸を糧に綻ぶ幸せは偽物だ
比べなくって大丈夫
私の腕の中はもう
充分に満たされている
貶めなくって大丈夫
私の掌は何時だって
欲しいものを掴み取れる
『6日目弍』
「あ...あの?みゆりさん?」
「はわわわ...ワ...ワタシハダイジョーブデス。」
薄暗い灯明は部屋を暖かく艶やかに照らす。
すぐ横では風鈴が規則的に音を奏でていた。
「みゆりさん、すみませんが......」
希望は捨てておくのが吉な時もあります。
ナイフは残酷に投げられたが、みゆりの冷却装置は有り得ない速さで稼働した。
「はい、分かりました。理由を聞かせてください。」
「いいですね、話します。
その理由とは、貴方が神を見たからです。」
みゆりには理解出来なかった。
みゆりは詳しく聞きたいと思ったが生憎もう明け六つだ、仕方なく帰った。
風麿は、何も言っていないのに送ってくれた。
別れ際に、
「すぐに決める必要は今の所無いですが、なるべく早く決めて貰えると助かります。
聞きたい事があったら何でも聞いてください、家にも何時でも来てください。」
と耳打ちした。
P.S.まだまだ続きます。
『6日目壱』
こんな日に。
こんな日に限って仕事がおかしい時間で終わった。
その時、寅七つ。
「ごめんなさいっ...!こんな時間っ...!」
「いいのですよ、それくらい重大なのです。」
風麿はいつものように微笑んで言った。
「疲れているようなので茶でも煎れて来ますね、少しお待ちください。」
みゆりは、床にへたれ込んだ。
机を挟んで風麿とみゆりは座った。
目の前には氷入りの蕎麦茶が置かれている。
蕎麦茶を一口飲んで風麿は口を開いた。
「それでは、始めに結論から申しましょう。」
「みゆりさん、一緒に暮らしませんか。」
その言葉は余りにも自然に、そしてフラットに、まるで滝が流れ落ち水飛沫が舞い踊る様に出た。
そして、みゆりの頭は文字通り【処理落ち】した。
P.S.今日も続きます。
先生は言う、「人は欲求をコントロールできます。」僕は言う、「先生、お金や快楽を求め違法だと知っているのに、あらゆる手段を駆使して自分の欲求を満たそうとする人がいます。」先生「自分の欲求を満たすために、倫理的、法的に反することをする人は人間ではありません。」
制限のある世界へようこそ、なんて謳い文句、誰が嬉しいんだ。
ため息すらも飲み込まれそうで、ただひたすら耐え続けて朝を待つ。鳥の鳴き声だけはどこも同じで安心するのもつかの間、撃ち落とされるそれは、とても現実を感じさせるような色味をしていた。
大切に集めていた貝殻もきっと踏みつけられたし、悲しくて悲しくて零れた涙はびんに詰められ並べられた。
大切なものが欠落したこの世界は、ほんの少し遅れて回り続けるんだ。
最愛の人は目の前で消えた。声にならない声でさえもまたびんに詰めるんだ。少し緩む口元が余計に胸を締め付けた。
人は生まれ落ちたその瞬間に、存在価値を付けられ、大切に育てられた意味のある人間は、死ぬことにすら意味を問われるんだ。
簡単になんて死なせないよ。君は意味のある人間だ。
アナタはなぜそんなに切なそうな顔をするの?
いつもは楽しそうに 温かな声で笑うのに
アナタはなぜそんなに哀しそうな顔をするの?
みんなから愛され この心も満たしてくれたじゃないか
アナタはなぜ満足気な顔で居くれてないの?
アナタはなぜ幸せな顔だけをして居てくれないの?
アナタにも足りないものがあるの?
…
みんなの闇に寄り添うあまり
自分の光を手放していないかい?
その声を枯らしてまで
他人(ひと)の心に希望を咲かせようとしていないかい?
アナタの幸せがワタシの生きる理由なら
ワタシは命を落としたくはないよ
貴方がキラキラ懸命に生きてくれるなら
ただそれだけで
私の命も美しく輝けるのよ
夢物語
開いた頁は何もない
薄くなった夢に笑った
しがみついた
夢物語に
僕が抱いた幻想に
立てば景色は高く 歩くこともできるのに
動けない僕は幻影だった
夢物語に潜んだ影は もう遠く
なんだって できたのに
なんだって できるのに
夢物語
燃えた頁が消えていく
忘れてしまった夢が笑った
すがらなくなった
夢物語は
僕が否定した現実
虚像に奪われた可能性を 再び掴んで
僕は新しい景色を見れた
夢物語のラストページを閉じて
いつだって 希望は持てるでしょう
いつだって 君達と変わっていく
白い華が空に散る
蒼穹が奪うは君の記憶
ドコニモナイ コノ感情 ねぇ
僕は君を忘れたのかな
白い華が僕の頬に落ちて
色を失った霞んだ記憶
ドコニモナイ イツカノ面影 どうして
僕は色を見れなくて
笑えない明日が来るなら
白夜で暁を割ってよ
僕は今も
壊れられないから
君の記憶は朝焼けに焦がれる 紅に燃えた美しいmagic
僕が壊したら 君は変われるかな
何も無くなった昨日は明日の涙のせい
僕は少し 忘れていく
遠い色 君と二人で霞んでいった
僕だけが哭いてる
君達が紡ぐ代わり映えのない世界の上で
昨日見た幻想 今日すがった幻影
何も変わりはしなかった
僕は記憶を失っていく
何かがまた遠くなっていく
微かな声が頭の奥でしたんだ
僕の代償
鮮やかな色を思い出した