太陽は真上にきている。心地好い風が吹いた、乾いた風が。
何処からともなく、揚羽蝶が舞ってきた。そして、藤の笠に留まる。其れに気が付いたように眼を上に上げたその白い横顔は、聡明だった。藤の歩が止まると、蝶は飛び立ってしまった。紫苑色の帯に、無地の名の通り藤色の着物と、艶やかな黒い蝶は良い対比となり、魅せた。
「"揚羽蝶 芳しき花に 誘われつ
それ見て思う 夏来たるらし"。」
思わず口から出た其れは、藤を笑顔にした。
早くて明日、この世が滅びます。
刻一刻と地球へ向かって来ているという小惑星の映像をバックに、テレビの中のアナウンサーは顔を青くして告げる。可哀想に、原稿を持つその手は震えていた。
それにしてもいきなりな話だな、私はどこか他人事のように思う。ぶっちゃけ午前七時の脳で受け止めるには、事が深刻すぎたのである。
「えっ、今朝は『おめざめジャンケン』のコーナー、ないのかよ」
おれチョキで勝つ気満々だったのに、とかなんとか抜かしながら、ボサボサ頭の彼が起き出して来た。先ほども思ったことなのだが、あの小惑星、彼の寝癖の形に似ている。不可思議なカーブを描いているあたりなんか、特に。
「ねえ、明日、この世が滅ぶんだって」
あんたはどう思う?私の隣に腰かけた彼の髪を撫で付けながら、問う。良く言えばいつも飄々と、悪く言えば所構わずヘラヘラしている彼も、『終わり』は怖かったりするのだろうか。しばしの沈黙の後、彼は言った。
「そんなことよりさあ、今日、海へ行こうよ」
私は目を瞬かせる。地球滅亡を『そんなこと』呼ばわりとは恐れ入るが、話がまったく噛み合っていない。あんたねえ、私の話、聞いていたわけ?詰め寄ろうとする私を制し、彼は続ける。
「とびきりお洒落をして、海へ行こうよ。弁当も持って、車でさあ。海岸で弁当を食べながら、色んな話をしよう。その後は一旦車の中に引っ込んで、日が暮れるまで気持ちいいことをしたいのね。それで、夜が来たら海岸に戻るわけ。そうしたら、おれと、」
ここで一呼吸置き、彼は私に口付け、言う。
―――おれと一緒に、せかいから逃げてください。突然やってきた『終わり』なんかに、きみを、奪われたくない。
それは慈しむような、懇願するような、うつくしい笑顔だった。思わず滲んだ涙を誤魔化すように、私は彼を抱き締める。私は、私の奇跡を、抱き締める。
「ちんたらしていたら、置き去りにしてやるんだからね」
うわあ、怖え、ちゃんと靴紐を結んでおこう。怖いだなんてまったく思っていなさそうな彼の笑い声を聞きながら、私も笑うのだった。きみとであえたこのせかいが、わたしはそうきらいでもなかったよ、って。
そんなことよりさあ、弁当のおかずは何がいい?
LINEで初めて話せた
でも初めて話したのはLINEの小さい枠のなか
LINEならこんなにはなせる
現実は朝のおはようございますも言えない。
先輩、もう卒業してしまったけど
またLINEでたくさん話しましょう。
絶大言わないけれど。
本当はずっと片思いしてました
誰にでも相棒はいる
TVにはリモコン
靴下にはもう一つの靴下
時計の長針には短針
近くに相棒はあふれている
僕の運命の相棒も割りに近くにいるのかも?
逃げて
逃げて
逃げて
そこには何も残ってなかった
やりたかった夢もとっくに捨てちゃって
好きだった事も捨てようとしてる
逃げて逃げて逃げて逃げ癖がついた
また、分岐点だ ‘逃げる’ か ‘進むか’
逃げても何も残ってなかった……だから
黄色い月が、もやの向こう
小さく登るのを眺めてた。
浮かぶように、ゆらり
泳ぐように、ふわり
うさぎの餅つきだなんて
云ったのは誰だろう?
真ん丸なのか、
それとも歪なのか、
わからない
丸を描いて
黄色い月が、もやの向こう
小さく登るのを眺めてた。
今日も僕に小さな幸せが入ってた
そんなのいらないって僕は言った
僕は小さな幸せを噛み締めた
あなたは知らないでしょ
私がそれをあげてる意味を
私ができる事はそれくらいだから
僕は今日、ブロッコリーの花言葉を知りました。
冷たいガラスに添った指を見ていた
きみのことがきらいだった
危うげな視線
雲模様は雨予報だ
純白はかすんじゃうってわかっているつもり
理性じゃ飛べない
心は不透明だ
天秤を捨ててほしい
できないってわかっているつもり