想定外のことが起きる
それが人生
想像もしてなかった壁にぶち当たったり
急な大雨だったり
でも悪いことばかりでもない
悪いことが9割だけど
それが人生
だからやめられない
生ききろう
イヤホンの隙間から入ってくる音が
クラスのざわめきや扇風機の音だけではない気がして。
ふと、突っ伏した体を起こして、窓の外をみると、
さっきまで晴れていたはずなのに、
バケツをひっくり返したよう
という表現が良く似合う雨が降っていた
あの雨の中、外に飛び出して、
大声で叫びたい。
あの雨の中、外に飛び出して、
びしょ濡れになりたい。
雨の音できっと僕の声は誰にも届かない
雨の雫できっと僕の涙は誰にも気づかれない
だから、僕をこの場所から連れ出してよ
雨に濡れてなにもかも忘れたい気分なんだ。
俺は都合のいい人間だ。
信じるものがコロコロ変わる。
明日何があるか決まってるなんて面白くない。
だから、運命なんて信じない。
俺がこの高校を選んで、貴女と出逢ったのは、
運命なのかもしれない。
同時に、強く抱き締められる。いつぶりだろう、父に抱き締められたのは。
あまりにも急なことで、驚きはしたものの、のんきなことに思いを馳せてしまう。
ふと思う。やはり、何か裏がある。たかが成人の通過儀礼でここまで取り乱す親がいようか。母は最後まで姿を現さなかった。メイドはいつも通りのようだったのに。
やはり付き人を問いただすしかない。
「……すまない……」
唐突に聞こえた小さい声。音にするつもりではなかったらしいそれを、パプリエールは聞こえなかったフリをした。
ゆっくり父の胸を押して離れる。
「次にお父様とお会いするのは、成人の儀でしょうか。立派に成長した姿を見せられるよう、努力します。」
にっこりと微笑んだ。
そして、扉へ踏み出す。あれ以上父の愛情に触れては、出ていくものも出ていかれなくなる。
父の変わらないその愛を再認識できただけで、今は十分だった。
振り返らずに足を踏み入れることは、思っていたよりも簡単だった。
君の一言に振り回されてばかり
ばかり馬鹿な
ぼく
悪い噂に振り回されてばかり
ばかり馬鹿な
ぼく
君と目が
合うだけ
ただ少しのあいだ
ひとりじめできた君の笑顔に
期待させられてばかり
ばかり馬鹿な
ぼく
火をつけたのは君なんだから
罪は君が償わなくちゃ
「寒い?」
「ううん。」
「暑い?」
「何もわからない。君って誰?」
「僕にもわからない。でも、僕と君はよく似てる」
「なんで分かるの?君は自分の顔がわかるの?」
「わかるよ。この部屋にはないけど、僕は鏡を見たことがある」
「カガミ?」
「知らない?世界を映してくれるもの」
「わからない。でも、いいものなんだね。カガミがあれば世界を見渡せるんだもの。」
「うーん…ちょっと違うかな。でもひとつ言えるのは、鏡に映る自分は左右反対の顔をしてる。」
「反対に映るの?」
「そうだよ。」
「じゃあカガミは嘘つきだね。」
「そうでもない。今見えてるものだけが正解ではないし。その気になれば正解なんてクルクルひっくり返せるからね」
「オセロみたいに?」
「そう。周りが黒になれば黒になるし、白になれば白になるんだ」
「オセロみたいだ!」
「そうだね。でも本当は、黒と白意外にもいろんな色があるんだよ」
「へぇ…君の世界はいいね。いろんな色が見えて。」
「そうかもね。ところで、この黒の白の薬は何?」
「わからない。でも。ほんとに黒と白かな?」
「さぁね。モノクロだからわからない。もしかしたら紺とピンクかも。茶色と黄色かもね」
「やっぱり、君の世界は羨ましいな。いろんな色が楽しめて」
「見たくない色も沢山あるんだけどね。」
「ねぇ。オセロ、する?」
このことを、一体どれくらいの人物が知っているのだろうか。王室の行事ほど大袈裟にやるものもなかろう。それなのに。
自室へ戻るも、悶々としてしまう。今から、書物庫へでも行ってみようか。
いつの間にか窓は閉められ、風は入ってこない。メイドだろう。自分のもやもやした気持ちを吹き飛ばしてくれるものは何もなかった。
書物庫へ向かったものの、結局鍵がかけられていた。たまたまなのかもしれないが、それでさえも父の、イニシエーションとやらの中にいるようで、パプリエールは辟易していた。
父は確かに何かを隠している。ただの"通過儀礼"ではないような気がしてきた。
しかし時間は無情にも過ぎていく。すべては付き人を質問攻めの的にしよう。
夜が近づき、覚悟を決め、父の部屋へ再び向かう。その決心は、王宮以外での生活を知らない姫だから成せる技でもあった。
「ついておいで。」
パプリエールの存在を認知すると、立ち上がり言う。
「そこの本棚を、押しておくれ。」
ある予想をもって押すと、下に続く階段が現れる。地下にある隠し部屋といったところだろうか。
キャンドルに灯をともし、続くよう促す。
あまり歩かずして、扉が現れた。扉というより、枠,といった方が正しいような、そんな扉。そして、枠に囲まれたその空間が光っている。
「もう、時間だったか……。」
そんなことを、父は呟いた。父の方を見ると、うっすらと目元が光っている。
パプリエールは無意識的に視線をそらした。
「ここが、人間界に繋がる道ですね。」
確認だ。横ではうなずく気配がする。
「私、行きますね。」
何処かで会った気がするような朝だ。
同じ朝なんて二度と明けはしないのに、まいにち無為に眠り込んでいる。
人生なんて、こうして過ぎてゆくのを勿体ないとも知らないまま…
雨戸の外側に雨粒が叩きつけられている音で目を醒ましたよ、おはよう。
父は応える。
「そりゃ、イニシエーションなのだから、10年前の、お前と同じような年の子は経験している。」
どうしてあのときもっと詳しく読まなかったのだろう。悔やまれる。
10年前の文献。人間界には関する記述。……思い出せない。
もう父は普通の顔である。
「さて。それでは、決行は今夜だ。」
文献どころの話ではない。
「はい?」
思っていた以上の間の抜けた声が出る。
「あの、お父様。おっしゃっている意味が…」
「満月の夜、人間界に通じる道が開く。来月までここにいるだけの猶予はない。」
――はめられた。
瞬間的に悟った。断る権利もなかったということだ。断る暇をも与えられず、いかなければならない状況に追い込む。酷い手口である。しかしまんまとひっかかってしまったのだから仕方がない。
パプリエールは、父の手の上で踊らされることに決めた。