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LOST MEMORIES CⅣⅩⅡ

はっとしたときには、目が覚めていた。
「夢だ……。」
人間界に来てから見る夢は初めてではなかったが、ここまで鮮明に残っているのは今日が初めて。身に覚えのない夢。
しかし、心臓がばくばくいっている。いつぞやの、チャールズによる心臓の労働過多とはまた違う、嫌な感じ。
見慣れた天井。ここは自分の部屋。額には生ぬるく濡れたタオル。
「保健室にいたんじゃ……。」
左手の薬指には、確かに英人に借りた指輪がはめられている。
上半身を起こすと、嫌な汗が背中を伝った。
目の前には白。瑛瑠のベッドのふちに突っ伏して眠るチャールズの頭。
体が重い。そして、状況を把握できていない。さらに、身に覚えがないとはいえ、夢の内容はパプリエールの過去に違いなくて。
壁にかかる時計を見る。午前2時。どおりで暗いはずである。目はその暗さに慣れ、いっそカーテンから漏れている月の光が眩しい。
濡れたタオルと突っ伏し具合からみて、ずっと付いていてくれたのだろうと察する。
彼こそ、夢に出てきた彼。やっぱり、初めましてじゃなかった。そう思う。しかし、瑛瑠はチャールズを忘れ、チャールズは瑛瑠に嘘をついた。なぜ。
さらに、エルーナを名乗るあの少年も、きっと知っている。しかし、あんな過去は知らない。狐のことも、知らない。
最後の浮遊感。あれは、投げ飛ばされたのだ。ジュリアという彼女に。

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LOST MEMORIES CⅣⅩⅠ

「レイの力なら、それを持ち上げることくらい朝飯前でしょ!
それを、外に、投げて!早く!」
レイは頷いた。石の上から飛び降り、それを撫でて集中する。
パプリエールは、ジュリアを見上げた。チャールズが優秀と言っていたこのお姉さん。パプリエールなんか及ぶわけもない力をもつと、間近で見ていて強く感じた。ひどく頭が切れる。
すぐそこで大きな音がした。思わずつむってしまった目を開けると、
「あとはお前の番だぜ、ジュリ!」
誇らしげに笑うレイと、雪を覗かせている穴。すぐ下にあった大きな大理石はない。
パプリエールは、抱き締められる力が強くなったのを感じた。そして、ジュリアの翼が大きく羽ばたく。
前からの強い風圧から守られながら、白が広がっていく。
「目の前すべてが白くなったら、逃げる。後ろは振り返っちゃ駄目。
必ず、逃げ切って。」
ジュリアがふたりに囁く。パプリエールとエルーナは頷いた。
「いい子。」
その直後、2回目の浮遊感と、目の前に白が広がった。
*

2

日々

絶対に会いたいって思うより

会えたらいいなって思う方が

なんだか幸せな様な気がする

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孤独

自分を隠す仮面をつけた
ただ息を潜めて過ごした
なのに救われなかった
今日もまた無力に
浮かんだ文字を消して
結局自分から離れられずに
仮面を外せなくて

鏡を見てもわたしはいない

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LOST MEMORIES CⅢⅩⅥ

だめ。危ない。
不意にパプリエールは思う。
さっきよりも、爆発音が近い。
行っては、駄目。
「レイ!上!」
先に声を出したのはジュリア。レイは上へ跳び跳ねた。「上を見ろ」ではない。「上へ逃げろ」という指示である。
そしてそこへ、大きな大きな大理石の塊が直撃。どうやら神殿の一部。中央方向からのプレゼントである。
「くっそ、あのババアっ……!」
「みんなは何してるの!?」
毒づくレイは、その石の上へ見事着地。ジュリアは中央を見る。
再び狐の鳴き声がする。
ジュリアは叫んだ。
「レイ、その石で入り口つくって!」
「は!?」
上へ顔を向けるレイは、頓狂な声をあげた。

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風の吹く日は

風が強い日はどこか遠くを想ってる。
動く城の魔法とか、青い空のその向こう側とか。
出会いの意味さえ、僕らにはきっとないけれど。
音楽は耳元でまた僕の心を微弱に揺らしてる。

例え僕がいなくなっても
世界は知らんぷりで回るだけだけど。
君がいなくなったら
世界どころか夜も開けないだろう。


歩いて行けばきっと君に会えるかも。
だから僕は靴紐を結んで
風の吹く日は、あぁ風の強い日には
あの秋の日思い出して、少し寂しくなってる。


外の香りが好きな僕は窓を開けて、
君の暮らす街のことや、今日の飯のことなんか考える。
雲ひとつない。風が押し流していった。
ただの絵の具みたいで、いつもより空っぽに見える。

誰でもかけるラブ・ソング
わざわざ歌うまでもないけれど、
風に押し潰されて。
世界のどこかの君に届くように。


歩いて行けばもしかしたらもしかするかも。
だから僕は水溜まり潰して。
風の吹く日は、あぁ風の強い日には
あの秋の日みたいな夕暮れ、少し待ってる。



歩いて行けばきっと君に会えるかも。
だから僕は靴紐を結んで
風の吹く日は、あぁ風の強い日には
あの秋の日思い出して、

歩いて行けばもしかしたらもしかするかも。
だから僕は水溜まり潰して。
風の吹く日は、あぁ風の強い日には
あの秋の日みたいな夕暮れ、帰り道照らしてる。

いつもより甘美な空。君を思い出してる。

風の吹く日は

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自分隠し

私は嫌われたくなくて鎧をつけた

鎧をつけても、私は嫌われた

自分を好きな人がいれば、嫌いな人がいて当たり前

結局は素直でいても、鎧があっても同じなんだな

それでも私は、鎧の安心感を選んでしまう

いつか、心を開ける人に出会えますように

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即興詩。

くらくらするくらい
ずっと向こうまで 雲
あお空が少しだけ 遠いよ

(ちょっとだけ、お久しぶり)
(秋の便りが届いたので、)
(少しずつリハビリです)

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そろそろ

もういいだろう
このきっかけだ。
今しかきっと変われない
さよなら と
突き放してくれてありがとう
私はお前でさえ知らない場所を
見れるんだ。
この気持ちが
音にのって耳に届けばいい
悔しがればいい
私はお前の元に帰らない。