出会い別れ重ね
寂しさに目覚め
白黒の日々を今日も生きてる
悲しみに耐えて
苦しみを隔て
その中で強くなれ たらいいな
嗚呼 夏が過ぎ去りて
秋の香薫る清涼よ
貴方の元へと舞い戻りたいと存ずるけれど
もう秋の風が吹く頃ね 貴方ももう忘却の彼方
春の濡れた羽衣は 乾いたけれど
この想いは夜長想いても尽きぬ
されどもう運命の歯車は回ることを知らぬまま
もう報われる事なきと分かっていても
とめどなき秋の川
かの方と過ごす夜が芋名月など
なんのご褒美であろうか
私は貴方の名月でありたく
かの方の名月ではござらん
嗚呼貴方は黄紅葉
我のことなど秋風の刹那でしょう
秋水に手を浸し 仰ぐは秋高し
ひとたび貴方と二人紅葉見
それももう夕紅葉となりにけり
嗚呼 天高く馬肥ゆるこの頃
夜半の秋に見るは錦紅葉
我 秋波を身に纏い
貴方と二人 中秋の名月身を重ねて
月の日に重ならぬことを祈り
秋暁を貴方と迎え
そんな紅葉の賀を貴方と開きたいと存ず
されど それは儚き月の迷い夢にござり
まことは悲秋であった
貴方の元へと歩み紅葉を散らす我
黄紅葉と紅葉 互いに寄り添いたきにけり
そして秋旻を見上げ 花紅葉誇る野山の錦
嗚呼 この世で我の願い叶わぬのなら
彼岸で貴方ともう一度巡り会いたき
彼岸の夕暮れ 夕日に祈る 我と貴方の幸を
もう────秋水に身を委ねる時でございます
貴方を 彼岸の向こうからお慕いいたします
「秋の哀しい心、ねえ……。」
黒板に残る字を見て、ふと瑛瑠は呟く。先程の授業は国語であった。
そういえば、最近は秋桜を見かけるようになったっけ。
「歌名は、秋を哀しく思います?……歌名?」
瑛瑠はランチボックスを開けながら、向かいにいる歌名に尋ねる。勿論、チャールズお手製だ。
何やらがさがさとやる歌名は瑛瑠の声など聞こえていない。
「歌名、それは何?」
歌名が持つのはビニール袋。そして、いつものお弁当箱が見当たらなかった。
「一回、やってみたかったんだ!」
取り出したのはおむすび。
見ててね,そう言って、仰々しく包まれたおむすびを手に取り、奇妙な開け方をし始める。
瑛瑠は思わず凝視してしまう。
「じゃーん!海苔がぱりぱりのコンビニおむすび!」
呆気にとられた瑛瑠は、無惨な姿に成り果てた包みを手に取る。
「の、海苔が乾燥したまま入ってたってことですか……!?」
忘れがちだが、パプリエールはお嬢さまなのである。
「ふっふっふ、科学の進歩は凄まじいのよ!
あとね、スイーツも美味しいらしいの!今日の帰り寄ってみない?」
きらきらと効果音が鳴るレベルには目を輝かせている瑛瑠に、歌名は笑いかけた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さっき瑛瑠さんが話してたのって、このことだよね?」
黒板の白い字を消しながら望は言う。投げ掛けた言葉の相手は、教卓へプリントを置きに来た英人で。
「少なからず、今は哀しいなんて感情とは程遠いだろうな。
こういうの、何て言うか知ってるか?」
――食欲の秋。
「今日、柿持ってきた。」
「……食べたい。」
望は一言そう返し、『哀愁』をそっと消した。
コンビニのおにぎりを剥くのが苦手だった
寒空の下
震える手を抑えて
君がそっと剥いてくれた
ちょうど一年
ガサガサに乾燥した指に走った
一筋の皹は
君の頬を張ったあの日から
キエナイキエナイ
その目を僕は
いつか忘れてしまうのだろうか
その時が僕の
死に際ならいいな
ケシタクナイ
哀愁なんて
そんな仰々しいものじゃない
黄昏を眺めてるからって
黄昏れてる訳でもない
たったひとつの
ほんの小さな
その欠落を
埋めずに
ずっと
僕は
あの日からずっと
僕は食べられない
剥いてくれる人を
僕は手放したから
コンビニのおにぎりを剥くのが苦手だ
蛙が鳴かないことに気づいたこと。
トイレのスリッパが一つだけ誰かのサンダルになっていたこと。
担任の先生が小指に指輪をつけていたこと。
いつしか風邪が治っていたこと。
一昨日買ったコンビニのおにぎりの消費期限が昨日だったこと。
隣の席の人が長袖だったこと。
日記を六日間つけ忘れていたこと。
すっかり一人で夕飯を食べるのに慣れていたこと。
あいつが実は好きな子には優しかったこと。
あの子のノートの端が円く濡れていたこと。
お気に入りのシャーペンの芯が切れていたこと。
英雄なき世界、
哀愁と後悔と思い出と、
人が変わったような戦士達と一緒に、
いつものように、一人欠けたいつものメンバーで、
コンビニのおにぎりを食べながら、
乾燥しきった心と悪意が駆け巡る世界で、
「必ず見つけ出す」
その約束を胸に、
その日、若き戦士が一人、
英雄の影を追う決意と覚悟を
「わっ!お弁当食べ損ねた!てか、私の話長くてごめん!」
やっとお腹が空いていたことに気付く瑛瑠だったが、楽しい,と思う気持ちが強く、どうしても笑えてきてしまうのだった。
今までの意味深な表情や言動、英人の“聞かなかったことにして”発言も納得がいく。歌名から直接聞くべきだと気を回してくれたのだろう。
午後の授業は酷だぞ、そう思うとまた笑みが零れる。
あたふたする歌名を引っ張った。
「行こ、歌名!」
国語は得意なの。
本を読むのも大好きなの。
だから言い訳なんて数多に浮かぶのに。
どうしてだろう。
君の前だと
一言も言い返せないの。
私って小心者なのかしら、、、。
瑛瑠は考える。
ウィッチは瑛瑠のこと、ウルフは望のことだろう。
力を貸してくれ、とは。
「私は、エアヒューマンです。」
にっこりと。さっきも聞いた内容であるが。
「……防御型、ということですか。」
瑛瑠は呟く。繋がった気がして、一つずつ確かめる。
「副委員長になったのは、」
「攻撃型とは相性がいいから。」
歌名引き継ぐ。
「長谷川さんの近くにいたのは、私が特殊型だから……?」
「大変だったよお、瑛瑠鈍いから。」
くすくすと笑う。鈍いなんて初めて言われた。
「英人さんが大丈夫って言っていたのは、歌名がいたから……。」
「実はガーディアンでしたっていうね。」
歌名が副委員長になったのは、委員長のストッパーになるため。望の近くにいたのも同様に、だ。
「朝のは、私に二日間の状況を伝えるためという目的も含まれていましたね?」
“風邪って聞いたよ”は、“風邪ってことになってるよ”の裏返しだ。
予鈴が鳴る。
皆さんこんにちは!
先週告知していた三題噺のお題が揃いましたので、改めて発表しますね。
お題は「乾燥」「哀愁」「コンビニおむすび」の三つです。nebla、フロー、ぼーの、三人ともご協力ありがとう!
ルールは三つのお題をすべてポエムのなかで使うこと。よければ「三題噺」をタグにいれてやってくださいな(括弧、#等不要です)。
期間はとくに設けませんが、今月末をひとつの目処としてまとめを作ろうかと思っています。参加はほんとに自由、みんなそれぞれ好きなものを好きなように描いてくださいね。一人でもたくさんの参加、お待ちしております!
シャア専用ボール、出題者一同