瞼の熱と頬の涙をホチキスで留めて
いっそ君の心に巣食う病になりたい
ブラウスの内の純情を暴くように
スカートの中の秘密を覗くように
もう失うことも叶わない恋に泣く
僕の知らない誰かに似合う色の口紅
感傷的に干渉できない唇の奥の世界
片想いを片重いと書かないのは優しさのつもりかよ
ホチキスの針一つ立たせるのと同じくらい
人の心を繋ぎとめておくのは難しい。
木枯らしに舞うスカートを押さえるのと同じくらい
人の心を映すのは難しい。
感傷的?
いいえ、
現実を見ただけです。
自分に生きる意味はない。今、ここに存在する価値もない。まだ、諦めたくない。全員負けるゲームが終わった後で、新しいモノを作る。
現実じゃない学校でわたしはいろんなことを
学んだ
人のあたたかさに触れたり自分が優しくなれた
気がする
悩んでいる人がいたらほっとけないこの場所が
好きだ
だからわたしも
そういうひとになりたいと思った
きっとこの場所がたくさんの人の
居場所になってる
大好きで最高のわたしの生きる意味
「本当は、スカートとかワンピースの方がお相手は喜ばれるかと思ったのですが、お嬢さま自体そういった柔らかい雰囲気を持つので、ここは逆手にとってギャップを狙ってみました。」
ギャップとは。
「それでもやはりデニムでは色気がでないので、小物を使いこなそうと思います。」
そう宣言したチャールズはあっという間に瑛瑠を着せ替え人形にする。
「男性は揺れるものがお好きなので。あと、これもお忘れなく。」
イヤリングと合わせて、英人に借りているリングネックレスを付けられる。首元が制服より開いているせいで、しっかりリングが見える。
そして、髪をふたつに分けて編み込まれ、下で結ばれる。
最終的にキャスケットを被せられ、はいと渡されたバッグ。
「完成です。」
瑛瑠はもはや感嘆の声しかあげられなかった。
ブレザーを着て駅まで。
電車に乗るとなんだか暑くて。
着たり脱いだり面倒だなあなんて
苦笑いするのにも慣れてきた今日この頃
気温の変化が大きいですが
体調を崩したりはしていませんか?
私は少し鼻水と咳が出ます。
きっとすぐそこまで秋が近づいているから。
どうせすぐ治るのでご心配なく。
さっき冬物のパジャマを引っ張り出してきて、
ゆったり湯船に浸かって
ブランケットを被りながらたまごスープを飲みました。
貴方がよく買ってくれていたたまごスープ
なんだか懐かしく思えて
少し心にも秋風が吹きました。
暖かくして、体調には気をつけてくださいね。
そちらはもしかしてずっと暖かかったりするのかな?
「今日は温くていいわ」
と微笑んでいた貴方が目に浮かびます。
さあ、課題をやってきますね。
現実から逃げたって構わない。逃げなきゃ生きられない時だってある。
でも、逃げたっていう現実だけは逃げずに向き合ってほしい。
ベッドの足元に蹲るスカートと毛布に包まるその中身
この「愛してる」が嘘だなんてきっとお互いに知っていた
暖かければ誰だってよかった
でも今、こんなにも寒い
海峡にかかった大きな橋が
地球についた巨大な傷口に突き立てられたホチキスの針のようだ
僕らはこんなにも繋がろうとするのに
結局傷つけあってばかりいる
あるいはそれ以外に繋がり方などありえないのか
感傷的な振りをするくせに
傷つけるのには無頓着で
最低な僕たち
吊橋効果の終わりに
そうして橋は落ちた
ハローハロー
僕はここにいますか?
僕はこれからどこへ行くのですか?
僕はあの星を見失ったのですか?
ハローハロー
あなたはどこにいるのですか?
あなたはどこからきたのですか?
あなたはあの星が見えていますか?
ハローハロー
この唄が聴こえていますか?
一人で飲む紅茶は
あまりにも空虚で
温度が無い
カップに立つ
白い湯気のように
君は消えてしまったんだ
君が消えても
紅茶は冷める一方で
もう一度
そう言って
何度試したって
君は現れなかった
ただただ虚しく
冷めていくだけで
何度試したって
現れない
そんなこと
本当は
とうの昔に分かっていたんだ
もう一度
そう言いながら
やっぱり紅茶は冷めていく
湯気はどこかへ消えてしまう
湯気に甘い幻想を見るためにさ
今日も紅茶を淹れないか
ミルクにしようか
レモンにしようか
それとも……
いや、
何も入れたくない
風が吹いて
あなたの黒髪は乱れて
その顔を半分
隠してしまった
嘘。
本当に乱れたのは
僕の心。
「お似合いです、お嬢さま。」
太陽が昇り、姿見の前に立たされた瑛瑠。前日にコーディネートされた服を身につけている。
チャールズの選ぶ服だからか、多少の気恥ずかしさが拭えない。やはり薄い布だけのような服には、未だに多少の不安が残るが、今日のコーディネートはひと味違う。
さて、チャールズの選んだ服であるが。
トップスは黄色のシースルー。この上にはピンクのニットコートが合わせられている。そして、最大のポイントはボトムスであった。
「お嬢さまは初めてではないでしょうか。」
本人よりも断然楽しそうなチャールズが選んだのはワンウォッシュデニム。
確かに、こちらへ着てからも、ワンピースやスカートといったものしか着ていなかったが。
「お嬢さまはスタイルが良いので似合うと思ったんです。」
こういうところだと思う。
さらっと褒めたチャールズは続ける。
「そうと決まれば、トップスは黄色でしょう、春ですからね。そして、まだ少し肌寒いので、脱ぎ着できるように羽織るものを合わせたんです。こちらはピンク。いわゆる、大人可愛いってやつですね。下をデニムにしたので、上は可愛くしてみたんですよ。」
この人は何者だろう。
咳をしても一人
咳をすれば一人
咳をしたい一人
咳をしない一人
咳に気づく一人
咳を恐れ一人
咳に泣いて一人
季節の変わり目の教室。
天気予報の話をした
神事として扱われていた頃の話
きみはつまらなそうに
スカートの裾を払った
その仕草ひとつに
酷く感傷的になってしまった僕は
そんなつまらなさを変えたくて
帰り道 ピアスとホチキスを買って帰った
人物紹介
御影 結月
音楽を愛し音楽のために生きる15歳。
諸事情があり警察の特殊部隊に所属している。高校では軽音部のボーカル&ギターをしている。
中村 時雨
優しく真面目な16歳。結月と同じく警察の特殊部隊に所属している。高校では軽音部のベース。
川上 美月
結月を慕い、いつも付いてくる15歳。かなり早生まれなので敬語を使う。前の二人と同じく警察の特殊部隊に所属している。高校では軽音部のギターをやっている。