私を無視しないで…
私はずっと見ているんだよ
気づいてるんでしょ?
なんで無視するの?
なんで構ってくれないの?
なんで?なんで?
そんなに無視するならもう知らないよ…
「どうしてそういう話になったのかも気になるし、妙に訳知り顔な望も気になるし、英人くんのはしょりすぎな説明も気になるのは私だけなの?」
たしかに、自分のおかれた状況が歌名の立場なら、どれほど理解不能だろうか。
「ちゃんと説明するから、今はご飯食べません?
みんなまったく進んでいませんよ。」
瑛瑠が苦笑して呼び掛けると、それぞれ顔を見合わせて思わず笑みをこぼす。瑛瑠は、この前も歌名と昼食を逃した。今日は休み時間内にちゃんと食べたい。
机を動かすまでもなく、向かい合うでもなく、顔だけ見えれば良い。そんな感じで、やっと4人の昼食が始まった。
「ところでさ。」
歌名が口にトマトを放り込む。
「私たち、情報がほぼない状態で送り込まれたのは同条件だと思うの。」
いきなりの展開に、疑問の面持ちのままとりあえず頷く。
「プロジェクト?って英人くんは言ってたけど、仮にそれが本当だとしても、建前上イニシエーションなわけで。
現時点で言われてるのは視察と情報共有だけ。……だよね?
それって、緊急性は低いってことじゃないのかな。」
拝啓
葉っぱは紅く色づいてるのに
風は冷たくて寒い日が続いています。
まだ、冬になりきれていないこの時期が
まだ、完璧でない私みたいだ。
でも、あのとき貴方は言ってくれました。
完璧なんて求めたって仕方ない。
完璧な人間なんていやしないよ。
人間臭い人間が一番愛らしいよ。
無理をしないで君は君のままで。
貴方の言った言葉はありきたりで、綺麗事で。
でも、笑って流せないくらいによく分かって。
今年も貴方のいない冬がやってきます。
貴方は今、何をしているのでしょうか。
では、いつか会えるのを楽しみにしています。
敬具
これはある世界線での話。
イエス様は、処刑される少し前、弟子たちに冠を贈りました。金、銀、真鍮、青銅、石や草など、素材は人によって違いました。
そしてイスカリオテのユダには、
花を挿した豪奢な月桂冠を贈りました。
月桂樹の花の花言葉
「裏切り」
どんなに大声を出したって届かないんだから
って言う前に、一旦叫んでみよう
さあ、準備はできてるかい?
起立!
礼!!
さーけーべー!!!
涙をのんでラジオを聴いた夜
カーテンの裏にはどんな空があっただろう
夢現に見たそれは、真のことか、夢が見せた幻か。
ラフレシアの花言葉
「夢現(ゆめうつつ)」
毎日毎日他人と自分を比べて優劣をつける
つまんねえよ くだらねえよ
他人は他人に「君はここにしかいない」
そう言うけど
そう言いながらも
他人を傷つける
毎日毎日他人と他人を比べて優劣をつける
そんなに楽しいか? それに意味はあるのか?
他人は他人に意味を求める
意味を求めるけど
自分の行動に意味は
ない
その現実から目を背けて
今日も他人と自分を 他人を比べる
つまんねえよ くだらねえよ
やめてくれよ お願いだから
そう言われた歌名は、小さく肩をすくめた。何で知ってんのなんて返すのだから、そうだのだろう。
やりとりを眺めていた瑛瑠だったが、望がこちらに顔を向けてくる。
「そういえば、ふたりの“わかっているところまでの話”って、具体的に何だったの?もしかして、被ったりしている?」
たしかに瑛瑠が図書室で調べていたことは地域についてであるが、英人と話していたことは違う。
英人が、首を横に振った。
「いや、このイニシエーション自体についてだ。」
望が、少し目を光らせた。
「へぇ……それで?」
「何らかのプロジェクトの一環、またはその延長じゃないかという結論に至った。まぁ、あくまで仮説だが。」
英人のその言葉に、相づちの意か納得の意かは図りかねたけれど、少し唸って顎に手をあて、考え込んでしまった。
「……そんな難しいこと話してたの?全然デートじゃないじゃん。」
歌名は信じられないようなものを見る目でそんなことを言った。
いざって時は逃げるんだ。限界まで粘って(もしかしたらもう少し行けたかもしれないけど)、それでどうしようもなくなって逃げた奴を誰が責められるっていうんだ?それを責めるなんて、お前らそいつ以上に我慢できる?いじめっ子はいじめ耐性低そうだから、半分の時間でリスカしそうで不安になるぞ。いや、意外としぶとく耐えるかな?
そんなことはどうでも良いんだ。重要なのは、逃げるって行為が『悪』じゃあないっていうことなんだ。
と、ここで熱が冷めてきたんで、結論。
逃げるは無敵。ゲームでも射程の長い弓で逃げながら攻撃するタイプの僕が言うんだ。間違いない。
少年Aをいじめていました。Aは、転校してしまいましたが、その直前に、アザミの花を私にくれました。しかし、よく見るとそれはゴボウの花でした。何故こんなものを?
彼は今や、立派な人格者です。
ゴボウの花言葉
「いじめないで」「人格者」
Aは何を言いたかったんでしょうね…
綺麗な綺麗な
藍色の想い出
鮮やかに
瞼の裏で
よみがえる
いつのまにか
こんなに色が褪せて
醜い
色は移る
今も
嘘みたいに
色は消えて
まだ諦められずに
散ることもできない
「ちなみに望さん。どんなことを聞いているんですか?」
今でなくとも、いずれ聞く話ではあるのだろうけれど聞かずにはいられなかった。
先週、瑛瑠の開いていたページを見て心得顔だった光景が甦る。何かしらの関係があると踏んだ。
望はふっと微笑む。
「この地域のこと。」
考えることは皆同じようだ。瑛瑠は、図書室の地域文化の角に自分がいたことを思い起こす。違うのは、その手段。
「焦らすなあ。何か掴んだんだ。」
楽しそうに言う歌名に、望は困ったように笑う。
「あんまりハードル上げないでよ。被りネタでないことを保証はできないから。
歌名だって何か探っているくせに。」
鍋の中身はやたらと黒い
どろどろしたおもいなにか
火にかけると熱を帯びていき
そのうちグツグツと煮詰まって来たか
と思うと突然熱をどこかへやってしまう冷めてしまったおもいはなんとも堅く
触れると切れそうなほどヒヤリとした
冷たい感触 冷たいと思った
そんな重い想いを思うと
いつも体が重く冷たく
人肌ほどの温度が
酷く恋しく愛おしいのだ