僕らは今日も
立方体の夜に閉じ込められ
やみくもに出口を探す
平行
直角
正解はただひとつと
几帳面に夜を区切った君は
妖美な口元を歪める
単純な立方体さ
それなのに
どこにも出口が見つからないの
君はふと
温かい缶コーヒーをひっくり返して
焦げ茶の液体を床に流す
夜に溶けた
芳ばしい
懐かしい匂いを
真っ白に立った湯気は
あっという間に消え失せて
冷たい冷たい
ただの液体
それが床を伝う様を
僕はただただ眺めるだけ
君はまた
妖しい微笑みを僕に向け
缶さえも投げ捨てる
「私たち、境遇は似ていると思うんだ。たぶん、自由に色んなことできるのって、今だけだよ。」
瑛瑠が姫ということをとっても、英人が王子だということをとっても、戻ってしまえば公務に追われるだろうことは予想するに易い。四人のうちの二人がこうなのだから、望も歌名も似た境遇だろうことも簡単に想像できる。
「それに、みんなのこともっと知りたいもん。」
その言葉の裏には、眼と同じ想いが滲んでいるようで。瑛瑠は言葉につまった。
「それはいいが、言外に含む意味としては気が早いな。」
「そうだね。言っておくけど、まだ春だからね。」
しっかりと、湿った空気を追い払った男子ふたりはご飯を食べ進める。
ふたりともそういうとこあるよね,とむくれた歌名に、瑛瑠はやっと笑う。
そう、まだ気が早い。
「はいはい。これあげるから元気出して、歌名。」
揶揄うように言い放ち、お弁当の中にある、ほうれん草のベーコン巻きを歌名の口に入れる。
ぱっと顔を輝かせた歌名に、瑛瑠も笑いを堪えられない。
望も欲しがったのは、また別の話。
雨は嫌い
濡れた靴下も湿ったブレザーの袖も。
暗くて重い雲も。
暗くなるのが早くなった帰り道の雨
なんて最悪ね。
前も見えない
後ろも見えない
ヘッドライトが魅力的に見えてくるわ。
傘を差すのが下手だから
涙と雨の見分けがつかなくなるの。
それだけはいいことかしら。
無言で出た教室
いつもはゆっくりなのに。
足が勝手に動いた久しぶりの感覚
息が詰まるのもきっと暗い雲のせいかな
今日はあなたの誕生日。
花を贈っても不思議じゃないかな。
腕の中にある12本のバラ。
目の前のあなたに贈る。
12は私のラッキーナンバーなんだよねっ
そう言ってあなたは嬉しそうにはにかむ。
知ってたよ。
12はあなたのラッキーナンバーだって。
だけどラッキーナンバーなんて嘘。
ダイスキだったらダイジョウブ!
好きな曲が歌ってる。
ホントにそうならいいけどな。
あなたとはただの親友。
それ以上の関係にはなれない。
だから。
どうか、この気持ちに気づかないで。
12本のバラには「愛の誓い」っていう意味があるらしいです!
愛は哀しい
君が突然呟いた
笑って流そうとしたけど
君は続けた
「こんなにも君が愛しくて愛(かな)しい」
そんなこと言われたらずっと寄り添いたくなる
じゃんか
だって私も君といると愛(かな)しくて
仕方ないんだ
いつか終わっちゃうんじゃないかって。
雨が降ったと思ったら寒さで雪に変わっていた
憂鬱な気分も雪になったと知って晴れてきた
なかなか見れない雪景色に心を染めて後ろ姿のマフラーの君を見送った
助手席を開けると、いつもバニラの匂いがした。
あまり好きじゃないから
バニラなんてわからないほど
君の胸に顔を埋めた。
朝買ったときは
あったかかった缶コーヒー
夜になって冷めきった
一昨日から空っぽの
立方体のウィスキーグラス
大して好きでもない酒は
ほっぽり出してまた明日
あったかいうちに飲み干そうと
心に誓う缶コーヒー