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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 4.フェアリー ⑧

「まぁまぁみんな、そこまで疑わないの」
「でも…」
「―不見崎(みずさき)さんは何もしていない、なんにも、ね?」
笛吹さんは眼を細め、満面の笑みでそう言った。
すると、さっきまで敵意や嫌疑が滲んでいた彼女達から、それらが急激に薄れていった。
「…そう」
取り巻きのうちの1人がぽつりと呟いたところで、授業開始のチャイムが鳴った。
ちょっと前まで殺気立っていた彼女らは、何事もなかったかのように自席へと向かっていく。
「いやー、大変だったねー。何かゴメンねー、あの子たち…」
笛吹さんは笑顔でわたしの方を向いた。
「ねぇ笛吹さん―」
ふとさっき思ったことが、思わずわたしの口をついて出かけた。
「あ、先生来たから続きはあとね。…放課後、誰もいないときに話しましょ」
何かに気付いたのか、笛吹さんはわたしの言葉を手で遮った。
その顔は相変わらずの笑顔だ。
わたしは、モヤモヤした”何か”を抱えたまま自席についた。
さっき笛吹さんが友達たちを制止した時、その細まった目が微かに光ったのは、ただの見間違いじゃなかろうか―

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大好物

君が食べていた
レモンシャーベット
いつのまにか
ぼくの大好物になったんだ
甘酸っぱい匂いが夏を連れてくる
ある日の恋

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いつだって

もう一回 もう一回
泣きそうな 震える声のあなた

冗談みたい
枯れた大地には 涙の潤いは苦しすぎるよ
予測のつかない フィクションみたいな毎日
いつだって 不確かさ

幻みたい
呆れた顔した僕を 冷めた視線が突き刺す
予測のつかない 感情の激しい動き
いつだって 嘘でいいさ

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カフェラテ

かがんだ君の胸元にどきりとし
ふと思い出した夏休み
永遠に続くと思ってたな
おちつかない感じで君は僕を見て
レンラク待ってますとつぶやいた

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恋に落ちて

 男がロバに乗って旅をしている。男は預言者である。なんてことはなく、腹の突き出た、ただの中年男である。
 人間はなぜ自由意思があると思い込んでしまうのだろうか。それは可能性を妄想することができるからだ。
 そんなことを考えて、にやにやしているところに、質素な身なりの、まあまあの美女が現れる。男はロバから下り、手綱を引きながら女に近づく。女が微笑む。
「乗るかい?」
「いいの?」
「そのつもりだろ」
 二人はロバに揺られながら、話を始める。
「おじさんは何の仕事してるの?」
「油を売ってる。さぼってるって意味じゃないよ」
「油商人ジョークね。……わたし、旅行が好きなの……海外行ったことある?」
「台湾とニューヨークに行ったことありますね」
「わたしはない」
「ないんかい」
 不意に女が口をつぐむ。男が振り返ると、女は懇願するような目で男を見てから口を開く。
「わたしの身体に油をかけて火をつけて」
 男は動揺して、「なぜ」と問う。女は続ける。
「この世のすべての不幸はわたし発信なの。わたしが死ねば不幸の種が消える。一人の犠牲で世界が救われるの。お願い」
 男は女を見つめて言う。
「俺は世界より目の前の愛する人間を優先する」
 表情から、女のハートに火がついたのがわかる。
 男が満足して前を向き、崖っぷちに来ていることに気づいたときにはもう手遅れ。男と女はロバとともに谷底に落ちていく。

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LOST MEMORIES 番外編「嘘」

 毎度のことと言ってしまえば毎度のことなのだけれど、相も変わらずチャールズは瑛瑠の機嫌を損ねていた。
 瑛瑠の部屋の扉をノックする。
「お嬢さま、すみません。からかいすぎました。出てきてはくれませんか?」
 理由もまた、毎度のことながらチャールズのからかいによるものなのだけれど。
 そして瑛瑠もいじけてしまって答えない。
「レモンティー、ありますよ。」
「……。」
「アップルパイ、食べませんか?」
「……。」
 チャールズは苦笑いをする。自分のせいなのはわかっているけれど、こうも拒否されてしまうと、困ってしまう。
「……どうせまたああいうことするんでしょ?」
 やっと瑛瑠の声が聴こえる。
 チャールズは苦笑する。
「もう、しませんよ。私がお嬢さまに嘘をついたことがありますか?」
 瑛瑠は、少しの間を作り、
「……ある。」
 そう一言だけ言い捨て、また黙り込んだ。
 瑛瑠が出てくるまではもう少しかかりそうだと、チャールズは苦く微笑んだ。

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きもちが

伝わらなかったり
伝わったように
なかなか分からない
お互いの距離は
ちかいところにいるのに
繋がらない気持ちだった

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アイスキャンデー(バニラ味)

いきなりかぶりつくと歯茎に染みて痛いから
ゆっくりなめて溶かしていく
溶け過ぎちゃダメだから慎重に場所を変える
舌は冷気で張り付きそうだ、スリリングに

いい感じに溶けてきたら、おそるおそるかじってみる
口に広がる冷たい空気と
甘ったるいバニラの風味が心地よい
シャリシャリ系もふんわり系も
おいしけりゃ何でもウェルカムよ
夢中で食べるのは最高だけど
下の方がよく溶けるから気をつけてね

棒に不安定に残ったアイスをなんとか食べ終えた
少し惜しく思って
木の棒をついしゃぶってしまう
もちろん木の味がするだけ
でも、
そこまで楽しむのが、アイスキャンデーの掟
だと言ってみたりする夏の午後4時半 塾の帰り

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裸の俺様

はなれたところで
だまってタバコに火をつけるきみの
かみが靡くのをみてる
のみかいの帰り
おし流されるように
れんらく先も聞けないまま
さいていな家路をたどる
まンションのエレベーターは4階で停止