表示件数
0

ファミリア達と夏祭り act 2

「俺はホットでもいい。別にアイスも飲むけど」
「え~でもボクはナハツェが無理してないか心配だよ~」
キハと呼ばれた角が生えた子が、ナハツェにすり寄りながら言う。
「…ウザいから離れろ。紅茶淹れらんない」
ナハツェはブスッとした顔でキハに言う。
それでもキハはえ~やだ~と駄々をこねて離れなかった。
「まぁ…そこまで気にする必要なくね? キハはお前さんが好きなんだし」
猫とも犬ともつかぬ耳を持つ赤髪の人物が、ナハツェに向かって笑いかける。
「…そーだよー」
赤髪の人物の隣にいる長い青髪の人物もうなずく。
「…何なんだよ、カロンも、ピシェスも…」
ナハツェはあきれたようにため息をつきながら、手元のカップに紅茶を淹れた。
ぼくはそんな彼らの様子を見ていて、ふとキハの手に目が留まった。
「…キハ、何もってんの?」
ぼくの言葉で、周りのみんなの視線がキハに集まる。
「ほんとだ」
「あーそれさっきから気になってたんだよね」
「お前、何もってんの?」
ナハツェが尋ねると、キハは、ん? コレ?と手の中にある紙筒をみんなに向かって広げて見せる。
「じゃじゃーん! 夏祭りのお知らせ!」
は?と周りの者たちは呟く。
「…何の話?」
「夏祭りって…」
「てかソレどこから持ってきた」
ぼくもそうだけど、キハ以外のみんなは何のことか、全く分かっていないみたいだった。
それでも気にせずキハは話を続ける。
「今度ここの近くの公園で夏祭りやるんだって。だからみんなで行こう!」

0

陰陽師と夜の夏祭り③

「……陰陽師」
「ん? どうした」
「そろそろ夜が明けそうだ」
「……ああ」
東の空は白んでいて、じきに朝が来ることを伝えていた。
「陰陽師、ありがとう。楽しかったぞ」
「君が楽しめたならそれでよかった。でもいいのか? もっと回りたいところとかは?」
女の子は首をふるふると振ると、答える。
「いいんだ。もう満足だ。それにやっぱり人と会うわけにはいかない。私は一度死んでいるのだから」
「そうか」
「ありがとう」
「お礼はもう聞いたよ」
「何度でも言うさ」
「……そうか」
陰陽師は式神を式札に戻す。
「せっかく式神になれたんだ。何度だって連れてってやるからあんまり落ち込むなよ」
女の子はもういない。

0

陰陽師と夜の夏祭り②

「陰陽師、これはなんだ」
「手持ち花火だよ」
「花火……なんだそれは」
「きれいな火花を出す棒、かな?」
「ますますなんだそれは」
陰陽師は手持ち花火のパックを購入した。レジは無人なので、さっきと同じく代金はカウンターの上に置く。
「はいこれ。ここをこっちに向けて持ってね」
「こうか?」
「そうそう。じゃ、いくよ」
「え、いくって何ぃぃいいいおおおおおっ!?」
女の子の握っていた手持ち花火に陰陽師が着火すると、火花が勢いよく噴き出した。
「おお、おお、おおー! 慣れてくると、これすごくきれいだな」
「うんうん。……あやめて楽しいのは分かるけどこっちに向けないで」
「?」
無邪気な女の子は、火花がきれいなのが楽しくて危うく先端を陰陽師の方に向けそうになった。花火は人に向けてはいけないと言うのを怠っていた。
「こういうのもある」
陰陽師は次に小型の打ち上げ花火を取り出す。女の子に少し下がるように指示すると、陰陽師はためらいもなく着火した。
どーん、という破裂音とともに、夜空に散らばる焔が浮かび上がる。
女の子は最初こそその音に驚いていたが、すぐに花火の美しさのとりこになったらしい。
しばらくの間、無人の通りに破裂音とパラパラとはじける音が響いた。
「そして締めはこれ」
取り出したのはは線香花火だ。
「さっきのと比べて一段と地味だな」
「むしろその地味さこそが最大のとりえ」
「そういうものか。……あ、また落ちた」
女の子は次の一本に手を伸ばした。手元のほとんど焼けずに終わった線香花火三本に、新たに一本が追加される。
「そして難しい。なんで陰陽師のはそんなに長生きなんだ」
「なんでだろうねぇ」
男の手元には最後まで焼けた線香花火の残骸が一本だけある。現在二本目に挑戦中らしい。じぃっと見つめて、女の子は長生きさせるための技術を盗もうとした。結局は集中してじっとしていることくらいしか分からなかったが。
先ほどは地味とは言ったが、ささやかに表情を変える線香花火の焔も少女の眼には好ましく見えた。自分の眼にも同じ色を輝かせながら、女の子は自分の線香花火に集中しだす。
「……あ、また落ちた」

0

陰陽師と夜の夏祭り①

「陰陽師、これは何というものなのだ?」
「それ? それは“りんご飴”ってやつだよ。食べてみるかい?」
「いいのか? 売り物らしいぞ。勝手にとっていっては悪いのではないか?」
「お金は払うさ。……ほら、これ」
「……。どうも」
女の子は陰陽師からりんご飴を受け取るとしげしげと眺めはじめた。
「陰陽師、……これ本当に食べれるのか?」
こつこつ、とりんご飴の表面を軽くたたくと、女の子は困惑したように尋ねてくる。
女の子は棒に刺さった赤くて硬い球体が食べられることを知らない。
「食べられる、……というより飴だから舐める、かな。おいしいよ?」
陰陽師は自分の分の代金をカウンターの上に置くと、台からりんご飴を一本抜き取り自分の口へと運んだ。
「中には姫りんご。ほら」
舐めるのではなく齧ったそれの中身を見せる。陰陽師の歯形に沿って、白い果肉が覗いていた。
それを見て女の子も意を決したようにりんご飴を舐め始める。
「……甘い」
「君の時代では結構貴重なんだっけ、甘味って」
「貴族はともかく、庶民がたやすく口にできるものではなかった」
「よかったね」
「うむ、よかった。感謝する」
「どういたしまして」

0

酒売りの男

今宵は妖怪たちの祭日…

いつも悲しい顔をした心優しき気弱な妖怪
優しさゆえか、はたまたその顔のせいか
いつもいじめられていた

なりたい自分になれる酒を売る男が現れた
奴らに仕返しをしようと酒を買う
明るく強くなった妖怪
自らがされたことも忘れ、奴らを酷くいじめた
その姿をたった一人の友人に見られ、失望された
やがて、妖怪は自分を見失っていく…

気が付けば元の自分
酒を飲むのも忘れ、眠りについていた
そのままの君がいい
男はそう呟いた…

今宵は妖怪たちの祭日…