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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 6.ハルピュイア ㉕

「…まぁ、な」
彼はくく、と笑って続ける。
「例えそうなろうとも、友達だし…いやだからこそ、か」
そしてちらと斜め後ろに目をやった。
「…あとそれを望んでる人がいるし」
耀平の視線に気づいたらしき黎が、慌てて目をそらした。
「確かにねー…黎ってボクら以外にあんまり友達いないし」
「いやお前も基本おれら以外にに友達いないだろ」
…が、学校行ってねぇからしゃあないだろ、とネロは自分をいじってきた耀平に対して口を尖らせる。
「…そうなんだ」
「…何か悪い?」
わたしの何気ない言葉に、珍しく黎が反応した。
「あ、いや…別に」
「ならいいけど。…別に、こっちは最初ただの抑止力のつもりだったから。それがいつの間にか…」
話の途中で、何か言いにくいことでもあるのか彼の言葉が途切れた。
「いつの間にか…⁇」
その続きは?と言わんばかりに耀平はうつむいている彼の顔を覗こうとした。
「…耀平、それ以上やると軽く首絞められるぞ」
黎が言いたいことに気付いているのか、師郎は苦笑いしながら耀平をとがめた。
え~と笑いながら、耀平はネロと一緒に黎の顔を見ようとしていた。
…わたしは、異能力者はやっぱり只者じゃないんだと思いながら、彼らの平和な光景を眺めているばかりだった。

〈6.ハルピュイア おわり〉

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あゐうゑ

 あが東京に出て、軍人になったころ、姉のゐは高利貸しに嫁いだ。
 ゐが第一子、ゑを生んだ年、あは少将になった。
 少将になったあは甥のゑの顔を見るため、暮れに里帰りした。
 田舎のひとたちは、久しぶりに会うあが何を言っているのか、まったくわからなかった。
 あは、国をまとめるには共通の言葉が必要なのですと説明したが、もちろん通じなかった。
 やがて国は足なみをそろえ、戦勝国となった。
 もう、あの言葉がわからないという者はぜんたいのななわりくらいだった。
 あの言葉がみんなに通じるようになったころ、国は敗戦した。
 ゑはがっこうで名前を書くときは誰に教わったわけでもなく、えと書くようになった。

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苦い 甘い 

なんとなく目をそらした
ちゃんと言えたらよかったのに
なんて
後悔したって仕方ない

誰かが言ってた
初恋はかなわないと

誰かが言ってた
ミルクティーは恋の味って
だったら
失恋は
カフェオレの味だな

甘くてどこか苦い
ミルクティーほどやさしくない味

それでも
今日も飲んでいる

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祈り

神様なんて居ないんだ
どこにも。
救いの手なんて無いに等しくて

結局自分の足で立ち上がるしかない。



それが出来ないのなら
落ちるのは当たり前なんだよ



だからどうか神様。
こんな私を絞首台に送ってください。

最後の祈りを捧げて
また歩き出すから
その先に絞首台を用意してください。

きっと足取りは軽いです

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アノヒ

機嫌悪そうな ストローの転がし方
満足してなさそうな 昼下がり
ごめんね 上手くやれなくて
チャンスなんかもうくれないかな

ねぇ、久しぶりに楽しいことしよう
言ってくれてありがとう
だけどどうしよう なにをどうしよう
フタリキリ アノヒ ドコカ ユキタイネ

お洒落なギターのひとつも弾けなくて
満足させられない 真夜中に
ごめんね 上手く歌えなくて
今度こそ ちゃんと言葉にするから

ねぇ、久しぶりに嬉しいことしよう
言ってくれてありがとう
だからああしよう ここをこうしよう
フタリキリ アノヒ ウソミタイ ナノニネ

アノヒの君と
アノヒの僕は
今でもずっと アノヒにいたいね。
なんて独りで書いてる なんてイタイね。

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SEPTEMBER

途切れそうな発車bellで
滑り込んだ9番ホーム
今、髪と心だけふるわせて
ワサビ色の電車 見送った

SEPTEMBERはさよならの駅
恋に乗り遅れた人たちが
SEPTEMBERに立ち止まって
次の出会いを待っている

daytimeの一瞬 この駅は
0番ホームまで見渡せる
今、折り返し電車が遮った
カラシ色したワンピース

SEPTEMBERははじまりの駅
隣には似合いの誰かさん
SEPTEMBERに君は変わった
新しい人と出発するんだ
SEPTEMBERは恋のターミナル
皆んなこの駅で折り返す
SEPTEMBERでゼロになって
僕が次の電車に乗っても

REMEMBER 君との夏は忘れない

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青の地面

三階まである学校が
二階まで水浸しになったから
筆箱を舟にしてカーテンを帆にして
水の町へ漕ぎ出した

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世にも不思議な人々56 受け継がれる人その1

ここはヨニヒト次元の能力者達が住む街から数十km離れた山の奥地。表向きは隠れた名勝だが、その実裏では年間数十人とも言われる自殺の名所である。
その自殺の名所に、一人の少年がやって来た。年齢はおおよそ十五、六ほど。悲しいほどに無表情だ。
彼が崖から飛び降りようとしたとき、
「おい少年。何をしている」
謎の老爺が声をかけてきた。
「見ての通り自殺しようとしているのです」
「何故だ」
「この世界に絶望しまして」
「なんの災禍も経験せずして、何が絶望だ。笑わせる」
「何と言おうと僕は本気です」
「まあ待て。私がお前に生きる意志をくれてやろう。きっと死に物狂いで生きようとするぞ?」
「やれるものならやってみてくださいよ。僕は本気で死のうとしていますから」
「良かろう。ならばこれから、お前が『アコン』だ。次こそはお前が野望を果たせ。そして、」
その老爺は、崖の方に歩いて行き、
「叶うなら、お前はお前の道を行け」
「え?」
少年がその意味を聞こうとしたときには、老爺は既に飛び降りていた。

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諦めよう
そう思ってもあなたの声が聞こえてきたり
あなたが近くにいると
あなたのことで頭がいっぱいになってしまう

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Waiting

耳に刺さる静寂
書き殴った言葉の羅列
太陽の様に明るい街灯
形に成り損ねた気持ちが
僕の思考を邪魔する
君を待っていた
いつまで経っても来ない君を

晴天の夜空
隣の家の物音
真夜中のバイク
届かない想いを乗せて
僕の心は回っていく
君を探している
いつの間にか消えた君を

頭の何処かでは分かってたんだ
変わったのは私の方だって

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ピーナッツクリーム

誰かの声に怯えて 黙ってる
孤独を自由と言い替えた
俺の場合は言い訳に分類されて
恋だの愛だのやかましさにもだえて

ピーナッツクリームを肩からへそにかけて
塗りたくっていくような感覚を
君にどうやって伝えるか 上手く伝わんないかな

ピーナッツクリームを肩からへそにかけて
乗せるように塗る感覚を
君にどうやって伝えるか 下手に伝えたくないな

誰かの声に怯えて黙ってる
明日が来るとか来ないとかいう
論点をずらしては深く潜っていく
あどけない身体 汚して

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改札

チャージのことを茶事って呼ぶの
小さな扉から始まるこの旅に
季節の花と和菓子を添えて
四畳半を抱きしめたい

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包む

何かにつつまれたくて
でも包んでくれるものがなくて
心が寂しくなる
アァ誰か
私を包んでくれ

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自分

毎日人ごみの中でふらふらさまよってる

僕は何者なんだろう

「大勢の中の一人」ではなく

「一人一人の集団」として見られたいと願うのは

僕の勝手なエゴなのか

今日も人ごみに紛れて

自分とはだれなのか

自分に問い続ける

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理不尽という名のわがまま

ちかくにいるときはさ、もう、うっとしくて仕方ないのよ。あんた。

でも離れちゃうとさ、もう、頭の中があんたばっかり。ほんと、うっとしいのね。

・・・やっぱ隣にいて・・いつもの話、聞かせてよ。