お爺さんが、カブの種を蒔きました。
「甘い甘いカブになれ、大きな大きなカブになれ」
甘い甘いと思われる、大きな大きなカブができました。
お爺さんが抜こうとします。
「うんとこしょ、どっこいしょ」
けれどもカブは抜けません。
お爺さんはお婆さんを呼びました。お婆さんが言いました。
「いやあんた馬鹿かい?根本を踏んづけてちゃあどうやったって抜けないに決まってるさね」
別れ話の最中も
ずっと
君の癖 恥ずかしそうに動く君の指
気になってた。
さっきのさっきまでは
僕のものだったのに。
「それじゃ。」って言った君も
泣いていたのはどうして?
それを見て出た
涙に栄光
捧げよサタン
今年いちばんのメダルを僕に。
鴨盛りからの連想ではないが、詐欺のカモにされているのかな、などと思いながら本を開く。まず目に飛び込んできたのは、幸福になるための三か条という文言。
・他者に親切にしても見返りはないか、あったとしても忘れたころにささやかなお返しが来るだけです。短期的に確実な見返りが欲しい場合はクレームをつけましょう。
・この国は女性原理で動いている女性的な社会です。女性は守り、守られるという助け合いに喜びを感じ、助け合いのコミュニティを侵害しそうな存在を排除しようとする生きものです。男らしさにとらわれ、一匹狼でいたら出世はできません。自分に合った派閥を選び、自分をおびやかす存在は、つげ口、いじめなどで撃退しましょう。
・理想を語る人間を相手にしてはいけません。理想を語る人間は理想が実現しても満足できない異常者なのです。目の前の現実を処理することに長けた人間を応援しましょう。
しばらくぱらぱらやって顔を上げると、ギャルふうが感想をききたそうな表情でわたしを見ていた。
「信者はどれくらいいるの?」
「日本人の半数以上が信者です」
「そうか」
冷やを飲み干し、明日にでも教会に行ってみるよ、とわたしはギャルふうに言った。老後もこの国で暮らすつもりだからだ。
昼近く、ラジオをききながら散歩をしていると、熱燗の恋しい季節になった、なんてアナウンサーが言うもんだから、行きつけの蕎麦屋に入ってしまった。テーブル席が埋まっていたので座敷に上がる。わたしは座敷だとつい正座をしてしまいあまりリラックスできないのだが、老舗の美味い店なのでよしとする。座敷の残りのテーブル席も熱燗とつまみを待つ間にすぐに埋まる。
従業員に、相席を頼まれる。焼き海苔をつまみながらちらり。ギャルふうの、はたち前後の女性。鴨盛りを注文すると、バッグからファイルを取り出し、読み始めた。
冷やに切り替え、そろそろ盛りを注文しようかと考えていると、鴨盛りを食べ終えたギャルふうが声をかけてきた。
「あの、このへんのかたですか?」
「ええ、そうです」
わたしはこたえた。気軽に声をかけられるのは老人の特権である。
「わたし、アキバ教秋葉原本部のシスターです。教会の教えを広めるために今日はこの地域をまわってまして」
「カトリックではないので」
わたしがそう言うとギャルふうは、「キリスト教とは無関係です。こちら教典なのですが、どうぞご覧になってみてください」と、革装の本をわたしによこした。
大口を開けて笑う人間のフオルムに
知らぬまに猿の姿を重ねては
自分は半分口角を上げて
あまりに寂しい優越に浸るのであります。
これっぽっちも共感のできない人間を
「世間」という言葉を上手く使っては
追い出して高らかに笑う人間に
悪魔に向けられるよりもずっと濃密な嫌悪感を
ひしと感じるのであります。
俺はニンゲン□□□□
誰か隙間に文字を埋めてくれ
のどかな月夜に世界を疑い
人間というものに薄気味悪さを覚える
俺にニンゲン□□□□
誰かレッテルを貼りたくってくれ
心から愛する人に出会っては何故か
嫌に人らしく見悶える俺を詰り立てて
犬や猫のように本能で生きたいと
いつからか夢に見るわけは
理性は罪で、信頼も罪で
純粋と不純とは血の繋がった言葉であり
罪の対義語はいつだって
陰に隠れて姿を見せぬこと、
終に私は知り尽くしてしまったからなのです。
死は安楽にて生は罰
いずれわかるにして 嫌に早すぎたペシミズムに
近くてございます。
俺はニンゲン□□□□
俺にニンゲン□□□□
俺ぞニンゲン□□□□
俺がニンゲン□□□□
「なんと今日、流星群が見られるらしくてさ」
気象予報のコーナーで言ってたよと時雨は付け足した。真面目な時雨は毎日ニュースをまめにチェックしている。意外にも世間にさといのが時雨だった。
「流星群! 私まだ流星群どころか流れ星一つ見たことないです」
一回くらい見てみたいなーと美月が目を輝かせる。
「僕は流れ星くらいは見たことあるけど、流星群はないなぁ」
「私は一回だけ見たことありますよ」
「そのときはどうだった? やっぱり綺麗だったの?」
玲も星を眺めることがあるのかと思いつつ、結月が質問する。
「小さいころに見たんであんまり覚えてないんですけど、正直なところあんまりすごいとは感じませんでした。ぶっちゃけただの流れ星でしたよ。ぽつりぽつりってかんじで、子供心にはやっぱりもっと一斉に星が降ってるところを見たかったんでしょうね」
「……そんなもんなんですか?」
ぽろりと零れるような声で結月が呟いた。シャッター連続開口写真のような壮大なやつを期待していたのだろう。
「まあ、そんなものらしいよ。”流星群”とはいってもたくさん降るって意味じゃないんだって。一時間に二、三個程度の流星群なんてざらみたい」
「二、三個!? 夢がないですね……」
今スマホでささっと調べたらしい時雨の言葉は美月の流星群のイメージを破壊して余りあるらしかった。
パンッという乾いた音が三人の注目を集める。結月が手を打ち鳴らしたのだ。
「まあでも美月は流れ星見たことないんでしょ? ……そうだな、新月で空は快晴とあることだし、今夜は天体観測といこう」
悪だくみをするときの顔とはまたちょっと違う気もするが、おおよそ小学生たちが浮かべているそれと大差ないよな、という感想を抱いたのは時雨だ。好奇心が止まらないといったような無邪気な笑顔である。もちろんそのことは口には出さず、代わりに肯定の意を示す。この話題を出した時点で結月がこの提案をしてくれることを期待していないわけではなかった。
「……それって警察に補導されたりしないかな」
「我々の身分を忘れたのかね」
美月の心配は結月の次の言葉で粉々に吹き飛んだ。
「ふぅー、終わった終わった!」
「お疲れ様です」
「うん、お疲れ~」
「お疲れさまでした」
人通りがそれなりに多い駅前の大通り。陽も落ちかけ、街の構造物のいたる所から影が急速に伸びる時間帯。街一帯から夕方が去っていくなか、四人の中学生がお互いを労っていた。
警察に属する対AI特攻隊。その隊員の結月、時雨、美月、玲は今しがた任務を終えたところである。
AI洗脳者がショッピングモールで暴れまわっていると連絡を受け出動したのが午後四時あたり。あばれながら逃走する対象に手を焼きながらもなんとか仕留めることができたのがついさっき。ほどなくして警察がやってきて現場を引き渡してこの任務は完了となり、いまは帰路へとついているところだ。
今回の任務は比較的厄介であり大分時間がかかってしまった。腹をすかせた四人は途中で肉まんを買い食いなどしつつ、他愛もない話に花を咲かせていた。
「……そういえば皆、今日の夜は何があるか分かる?」
時雨が思い出したようにその話を振ってきたのはそんな流れの中でだった。
「今日の夜?」
「なんかあったっけ」
玲と結月がそろって首を傾げる。
「なんと今日、流星群が見られるらしくてさ」
学校のチャイムは
高らかに
軽快に
それでいて
残酷に
恐ろしく
鳴り響く。
休み時間の始まりを告げる
授業の終わりを告げる
チャイム。
残酷に
残酷に
鳴り響く。
ねえ、かみさま
どうしてこんなにも上手くいかないのでしょうか
ねえ、かみさま
どうしてみんな夢があるのでしょうか
ねえ、かみさま
ねえ、かみさま
どうしてわたしは生きているのでしょうか