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桜木ノア 最終話

「私はここでどうにか生きてやるつもりだから」
4月。彼女は自己紹介の際に、そんな決意表明をしていた。
あの時はまるで理解出来なかったそのセリフも、今なら分かる気がする。
彼女は今も戦っている。
人から理解されにくいあれこれと。
けれど、電話越しに聞こえる彼女の声は、文化祭前後と比べれば随分柔らかくなっていて、安心した。

……さて、白状しよう。

俺は、桜木ノアのことが、好きになっていた。

そんなはずない、と自分の心の中を何度も確かめたのだが、桜木の存在が俺から離れることはなかった。『無理だ、勝てない』そう思って俺はこの気持ちを素直に認めることにした。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
大事なのは桜木ノアという女子生徒が、今も、そしてこれからも、自分の中に折り合いがつくまで戦っているということだ。
そしてそれを、ほんの少しであろうと知っている人がいるということだ。

桜木ノアという女子の存在が、心の中に残っていることを切に願う。

(終)

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疲れ果てた君へ 世界を開く扉の鍵は君の隣に

終わらない理想を探す旅に疲れ果てて
今休んでいるんでしょ?
止まらない理想と現実の乖離
誰かの言葉に道は無い
己の言葉を見つけ出すために 捨ててきた日々じゃ
何も出来ない事を僕は知らなかった
明日の作り方は既に
隣に沢山転がってたのに

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あだ名にかんするアンケート

先生からの質問
 なぜあだ名をつけたりからかったりするのですか?

生徒の回答
 自分の身近な存在にすることで安心感を得たい。

 自分と同レベルか下のレベルにおとしめて安心したい。

先生からの質問
 あだ名をつけることはいいことだと思いますか? また、あだ名で呼ばれることにていこうはないですか?

生徒の回答
 学校の外で自然発生的に生じたあだ名であるのなら仲間同士の絆を深める効果があるのでいいと思うし抵抗ももちろんない。校内だけのつき合いであればマウントをとって安心したい者の攻撃性がエスカレートするのにブレーキをかける効果があるのでこれもよし。

 学校の外で仲間うちでつけ合うあだ名に抵抗はない。学校内部においてつけられるセンスのないあだ名には抵抗があるが、そもそも一方的にあだ名を押しつけてくるような人間とは親しくならないのでどうでもよい。

先生からの質問
 中学校はあだ名禁止ルールはありませんが、中学生になったら友だちをあだ名で呼びますか?

生徒の回答
 中学に入ったら受験勉強で忙しいのでそんな面倒なことは考えない。

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コメディアンになることにした。なのでもう会社には行けない。これからどうやって食べていこう。まあ何とかなるさ。とりあえず朝飯を買いにコンビニへ。

したら書籍コーナーにコメディアンに関する本があるのを発見。手に取り、ページをぱらぱら。

 緊張からの緩和が笑い。緩和からの緊張は恐怖。

 自己客観化のできていない人間の演じるコメディは狂気でしかない。

 人間、未知のもの、理解のできないものには違和感を覚える。違和感は恐怖反応として表れる。無知な人間は冗談をきいても違和感しか感じない。無知な人間に冗談を言っても怖がられるだけである。

 神はコメディアンである。真のコメディアンとなったあなたは神である。

 神じゃなくてコメディアンになりたいんだけどな。本を戻し、おにぎりとお茶を購入してコンビニを出ると、高級そうなセダンが駐車場にぬるりと入ってきた。
 助手席から降りてきたのは元カノだった。僕は元カノに近づき、「僕、コメディアンになるんだ」と得意げに言った。すると元カノはこうこたえた。
「あらちょうどよかった。いま新人のコメディアンをさがしてるとこなんだ」
 元カノはそう言うと、バッグから名刺を取り出し、僕にくれた。何とか劇場支配人とあった。
「劇場の支配人なんて凄いね」
「あの人がオーナーなの」
 振り返り、運転席の男を指差して元カノは言った。男はぼんやり、煙草をくゆらせていた。元カノが、いつだったか好きだと言っていた俳優に似ていた。
「あさってオーディションがあるの。直接劇場に来て。その名刺の住所のとこ。絶対来てね」
「もちろんだよ」
「じゃあ指切りしましょ」
「なぜ指切り」
「だってあなた平気で約束破るじゃない。はいっ、ゆーびきりげんま……んっ? あなた小指短くなーい? つき合ってたころ全然気づかなかった。小指がこういうふうに第一関節より短い人って人見知りか空気が読めないタイプなんだよね。平気で約束破るわけだわ。小指が短いってことは胎児期に細胞分裂が盛んでなかった証拠なの。しかも左右で長さが違うじゃない。細胞分裂が正常に進まなかったできそこないなのね」
 買いものをすませた元カノはセダンに乗り込むと、男から煙草をもらい、吸い始めた。元カノが煙草を吸うのを見るのは初めてだった。
 セダンが駐車場を出て行くのを見送り、帰路についた。オーディションには多分、行かないだろう。元カノの言葉に傷ついたからではない。僕は喫煙者が嫌いなのだ。

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存在しないものたち

傷付いたことのない人
傷つけたことのない人

誰一人救われない言葉
誰もが救われる言葉

矛盾のない世界
嘘のない世界

誰もが認めるヒーロー
誰もが認める悪役

泣いたことのない人
笑ったことのない人

イジメのない学校
いじめしかない学校

誰もが美しいと感じる花
誰もが醜いと感じる花

誰にでも好かれている人
誰にでも嫌われている人

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空想辞典 1P

王緑石ーおうりょくせきー

【分類:鉱石】
発見者:ビル・スモーキル・パナル
1898年発見      
発見場所:グナディエス山 アルキミス遺跡

普段は灰色だが、光の反射によってエメラルドグリーンに輝く。その美しさから、「石のクレオパトラ」と呼ばれることもある。
古代文明、アルキミスの王の寝具にあしらわれていたといわれる。

別名:龍目岩(りゅうもくがん)

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ステキすぎて

熱くなっちゃダメさ みんな落ち着いて
ドレッシングを 甘めのやつを
卵割って 嫌いな数学と 向き合って

ポテトサラダ、ミルクもお願いね
昨日の穢れ、まだ頬に あるよ
ココア飲んで 未来の空白を 漂って

ステキすぎて 眠れないんだ
錠剤を増やして欲しい
呻き続ける 低空駆け巡った
ステキすぎて 死にそうさ

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怖れ

怖れってやつは
あまりにも自然に
不自然な感情を連れてくる

僕らは怖れと戦ってきた
あるいは火を焚くように
あるいは武具で身を固めるように
あるいは言葉の剣を持つように

全てが虚構みたいな世界
四畳半のラ・マンチャの男は
槍をふりふりがなりたてる
かかってこいと叫んでる

いつだって残るのは静寂だ
僕はその静寂に耐えきれず
そっと口笛を吹いたりした