あまぐもが流れてゆきます
偏頭痛と気怠さをのせて
洗濯物の心配と自転車で来たことへの後悔をのせて
恋人たちの想いと家族への気持ちをのせて
恵みと喜びをのせて
経験した者にしかわからない
はかりしれない恐怖と苦しみをのせて
かなしみといたみをのせて
記憶とぬくもりをのせて
流れてゆきます
こうしてあまぐもにのった感情たちは
くじらぐもにのりかえて
空のおくのいいにおいのするひかりのほうへ
むかってゆきました
今年もまた
あまぐもが流れてゆきます
たくさんの愛の上を流れてゆきます
今日は一年のうちで
一番楽しい一日
やっとあなたにまた逢えるの
そして
今日は一年のうちで
一番哀しい一日
だってあなたとまた別れるの
さかなが泳ぐ夜空のもとの
くたびれた大賢者のもとに
瞳がすずらんのような双子
シシ「ロロがしあわせになれますように」
ロロ「シシがしあわせになれますように」
大賢者「願いごとがそれかい?」
ロロとシシは 互いを見て、
大賢者を見て、頷いた。
いったい どんな魔法があれば、しあわせになれるのだろう。
マジックアイテムを持っていない方の手で繋がる双子
その後ろ姿を眺めながら、大賢者は大きなあくびをして さもしい気持ちを呑みこんだ。
形を命を持つものは
常にいつか滅びるという
どこでやってくるか分からない未来を抱え
生まれ落ちる
少女は夢を見た
色鮮やかに包まれ誰も傷つかない明るい世界
きっと誰もが幸せになるはずな教科書の中の幸せを具現化したような
そんな世界を
感覚は徐々に凍りついてゆく
全ての感覚は重量はおろか自身の意思からさも解き放たれてゆく
巡る記憶のページ
少女が積み上げて来たもの
切り捨てて来たもの
壊してきたもの
あらゆる柵から解放された感覚はそれらで埋め尽くされていく
満足、絶望、恐怖、後悔
少女が抱いた感情に名前は無かった
それが良いか悪いか少女自身しか知らない
冷たい
不意にそう思う
感覚が失われた今少女が感じる冷たさとは
人間たちの心であろうか
今こうして少女が伏している事自体
冷たい心を持った生き物達が居たから
誰もがそう思う
それでも誰1人として少女を認識しようとはしない
そこに最初からあった置物のように
いいや
存在そのものをこの場から彼ら彼女らの認識から
少女は除外されている
今この瞬間ここで去りゆく少女は
自分が目の前を歩く無数の生き物たちの認識から消えた事を悟った
誰にも賞賛されない気づかれさえしない
そんな孤独でいつかの未来だけに意味をもたらすかもしれない薄い薄い可能性だけを少女は自身の無限の未来を
可能性を犠牲にして手に入れた
とてつもなく割に合わない
戦果を最期の温もりと共に優しく送り出し
少女の夢は終わった
ある時ある場所にて。その少年は、友人数名と学校からの帰り道にいた。
少年がふと気付くと、道の脇に一匹の黒猫がいた。
「あ、ネコ……」
「ネコ?どこに?」
「ねこはいます?」
「ミームか?」
どうやら少年以外には見えなかったらしい。その黒猫が、とても不自然なことなのだが、ニタリと笑った。さながら、童話に書かれたチェシャ猫のように。
「……ごめん。今ちょっと急に用事ができた」
「お、また用事か」
「お前よく用事召喚するよな」
「なに、今更止めやしねーよ。さっさと行ってきな」
「うん、ありがとう。それじゃ、また明日」
少年は友人達と別れて、黒猫とは反対側に、体力不足故にときどき歩きつつも、走りに走った。そして、三方を塀に囲まれた行き止まりに行き着いた。
『クックックックックッ………。わざわざこんな始末しやすい場所に来てくれるとは、何とも親切じゃあないか、魔法使い様ヨォ?』
先程の黒猫が現れ、話しかけてきた。しかも、人間のように二本足で器用に歩きながら。
「うう、何なんだよお前ら……。確か、ファンタズムとか何とか……」
『阿呆。ファントムだ。お前らはそう呼んでるんだろう?え?』
「そうそれ。何で僕ばっかり虐めるのさ……。せっかく人間からのいじめも無くなって友達もだんだんできてきたっていうのに……」
『そんなこと知ったことか。さて……』
いつの間にか周りの塀の上には、何匹ものネコが集まっていた。
『冥土の土産に名乗ってくれよう。我こそは猫を統べる〈ケットシー〉!闇に生きる王、不可解の魔獣!これから貴様を殺す者なり!』
ケットシーが周りのネコに呼びかける。
『さあお前達!歌え、【人を殺す歌】!死肉は好きにくれてやる!』
その合図と共に、ネコ達が一斉にニャアニャアと鳴き出した。何十、何百と重なり、不快なハーモニーを生み出すその鳴き声に、少年もたまらず耳を塞ぐ。
「うう、頭痛がする……吐き気もだ……。何だよこの鳴き声……。一体何匹居るんだよ、このネコ共は」
『お前には知る必要の無いことよ!しかしこれだけは教えてやる!この歌は音の重なり合いによって特殊な周波数を生み出し、貴様らのような人間の脳味噌と肉体を直接に殺す、必殺技なのだ!魔法を使うといったところで、所詮は人間!このままくたばりやがれェッ!』
あれから一週間、気付いたことが二つ。一つ、あの賢者から貰った指輪の力にはある程度の制限が付けられているようだ。倒したモノを傀儡にできる、だかそれはあの鎌で倒さねば行使できない。
まったく、うまいこと細工しやがって。
二つ、あの賢者の警告していた精神の摩耗はあまりデメリットにはならないこと。倒したファントムを食べればそこら辺は解決するようだ。しかもそれなりにうまいときた。でも普通、あんなものを食べろと言うのは普通の人には酷だろうしあの警告は正しいのだろう。
学校も早々に切り上げ、今日の狩場を探すことにした。これはあの日からの日課になっている
この一週間で何人かの魔法使いとも会った
しかし、全員潰してやった
弱すぎて話にもならないレベルだった
語る気すら失せる程度には
あの賢者は何が目的であんなのを...
ふと後ろに気配を感じ振り向くとあの大賢者がいた。
「派手にやってるみたいだねぇ桜ちゃん。でも少し休んだらどうだい?戦いずくめじゃないか」
「...それは私の勝手だろう?それとその桜ちゃんをやめろ」
「えー、かわいいのにぃ...まぁいいや、今日来たのはキミに警告するためだ」
この期に及んで何をまた
そんな風に思っていたが、次の一言でそんな考えの全てが吹き飛んだ
「ファントムが大群を率いてこちらの世界に向かっている。標的は、キミだ」
「...」
「キミはヤツらを狩り過ぎたようだ、ファントムはキミを種の存続を賭けて全力で向かってくるだろう」
狩り過ぎだと?たかだかザコ数十体で?
全く馬鹿馬鹿しい
だが、無尽蔵に狩れるのは魅力的だ
「それはいつ来る」
「明日だねぇ」
「面白い...!」
こんなに沸き立つのは久しぶりだ
「...まったく、キミは本当に面白いよ...」
帰ろうとする私の後ろでそんなようなことが聞こえた気がしたが、すぐに気にしするのをやめた
「…中止になった最後の公演をしたい」
目の前の1人の少女は、力強く言った。
「本当に、それで良いのかい?」
これで確定させちゃったら後には戻れないよ?とわたしは尋ねる。
「いいの、これがわたしの叶えたい願いだから」
少女は毅然と答えた。
「ふーん、そうなの」
じゃぁ分かった、とわたしは答えて、1つ指を鳴らした。
すると、宙に1冊の軽そうな本が現れた。
落ちてきた本を手で受け止めてから、わたしは少女にそれを手渡した。
「はい。ご注文の品だよ」
少女は作られたばかりのマジックアイテムを恐る恐る手に取った。
「…これ、どうやって使うんです?」
少女は本をパラパラしながら呟く。
「そんなの、わたしにも分からないけど?」
「え」
わたしの回答に、少女はフリーズした。
「…まぁ、分からないって言っても、そのマジックアイテムで魔法を使う方法とか、使える魔法の種類が分からない程度だからね。変身機能は念じれば使えるってのは分かってるでしょ」
相手が勘違いしないように説明したが、少女は呆然としたままだった。
「…とりあえず、色々と試してみると良い。どんな魔法が使えるのか、どうやったら魔法が使えるのか」
キミの望みを叶えられる魔法が使えることは確かなんだから、とわたしは諭した。
…暫くの間、少女は手の中のマジックアイテムを眺めていたがふと顔を上げた。
「…ありがとうございます」
そうかい、まぁ頑張って、とわたしが答えると、少女は一礼してその場から去っていった。
「…最後の公演をしたい、か」
少女の後ろ姿を見届けてから、わたしはぽつりと呟いた。
「やっぱり、人の願いは十人十色だね〜」
だから面白いんだけど、とわたしは1人笑う。
「そういや、この国では今日、願い事を短冊に書く行事があるんだっけ」
そんな夜に、短冊に書かれた願いを文字通り叶えてやるのも面白いかもしれない。
…なら。
わたしは日傘片手に地面を蹴り上げ、舞い上がった。
…どこかにいる、魔法使いの“原石”を探しに行くために。
待ってくれていた方、お待たせしました。
企画「魔法譚」の開幕です。
7月10日24時まで、のんびりと楽しみましょう!
冷めたパスタも悪くない
クルクルと巻いて固まったまんま
裸眼 vs. 色眼鏡
捻くれたハート
チンして温めて溶けだすチーズ
隣に微笑む誰かがいて
フォークからほどけるその瞬間
やっと言えたね
いただきます