夏の夜はあたたかな匂いをしている
手をつなぐのもわずらわしいほど
たくさんの音と温度がまざりあって
とろりと身体にまとわりつく
その感覚もきらいじゃない
人は、
形のないものを信じて生きる。
例えそんなものはないと言われても、
どこかでそれを信じている。
いつか、いつかまた、
あのハルジオンのようになれたなら。
死際に
人生のこれまで
ノートに書き殴る
生まれた日の事
あなたと出会った事
あなたが先立った事
2、3ページで済む
大した事のない日々
残りのページは
来世にとっておくから
次はあなたが書いてよね
こんにちは 青空の香り
さよなら 夕焼けの味
ありがとう 幸せの香り
ごめんね 涙の味
言葉に宿った想いが
優しいクッキーになりました
おひとついかが?
目の前は想像のできない一本道
昨日歩いた道と今歩いている道は
似たようで違うでしょう?
ほら、そこに咲く花は昨日はなかった
頑張って育てた花が
実らないこともある
一日中雨の日もある
どれだけ嫌でも
自然と足が動くの
明日という未来に向かって
太陽が昇り
夕日が出る。
僕らはそれを綺麗なものと呼ぶ。
ある人からは
とても怖いものと呼ばれる。
『あの日』を思い出して
悲しくなるらしい。
怖くなるらしい。
私達が体験をしていない『あの日』。
どれほどの怖さだったのだろう。
太陽が昇り
隣にいる貴方が生きていることが
幸せで平和だった。
太陽が沈み
隣にいる貴女と昼寝していることが
幸せで平和だった。
いつか忘れられる前に
僕たらは
あの日を受継ごう。
例え反対をされても
この事実は消えることのないものだ。
そして
消えることのない痛みなのだ。
ドーナツ屋の片隅で
ふざけあっている
恋人たちもやが
淋しい大人になってゆく
二人の跡がくっきり
亜麻色のソファに
老夫婦が座って
薄いコーヒーすすってる
Ah, 明日に目をつぶって
きみのうなじを味わうだけの
この恋を愉しみましょう
この店もいつからか
さびれてしまった
長い列に二人で
並んだのもの遠いあの日
Ah, 心にぽかり空いた穴
躰をくぐらせ、浮き輪にして
この夜を泳ぎましょう…
Ah, ドーナツ屋の片隅で
誰もが忘れ去った夏の片隅で
ひどく愛し合いましょう
朝ごはんを頬張る君の笑顔がこびりつく
蒸し返したさようならなんて
味の薄いオムレツよりも虚無で
なんとか言えよ なんとか言ってくれよ
掴んだ胸ぐら 乱れた桜
肩に乗った頭をそっと抱き寄せる
おやすみ、の意味が違うように感じた
それはきっと
夏祭りのあとの汗ばんだ空気
フランクフルトのマスタードの風味
横を駆け抜ける子供たち
鳥居の前でようやく
僕だけが逆方向に進んでいることに気づく
もういいよ もういいんだよ
銃声みたいな叫び声 誰かが気にしたSNS映え
誰もが亡くした心をあの子だけが持っている
それはきっと
好きな人に笑顔でいてほしいと願うのは
自分がいるのに泣かれると
ああ
自分では貴方の全てを埋めることはできないのか
とショックを受けてしまうから。
でも私が死んだときには
泣いて泣いて
頭おかしいんじゃないのってくらい
泣き叫んで欲しい。