君の笑顔の魔法に救われたんだよ って
君の柔らかなことばたちが好きだよ って
君が触れた笑顔、君が好きだと思ったこと、全部全部、嘘じゃないよ。
どうしようもない夜も、ひかりの差す朝までは生きていきたいから。君に届かなくても、僕は唄うよ。
深い深い海の底に
悲しい少女(ピエロ)がいました
少女(ピエロ)はみんなに嫌われて
海の底で眠りました
どうしてだろう
あなたを見ると
胸が苦しくて
辛く当たってしまう
こんなこと
言いたくないのに
海に眠る眠り姫は
沈みながら悔やみました
どうせこの後悔も
眠れば消えてしまうのに
もう一度願いが叶うなら
楽しかったあの頃に
もうあの優しさを
手放したりなんかしないから
殺したりなんかしないから
たくさんの魚たちと
一つになった眠り姫
私たちは海を抜けて
またあなたに巡り合う
あなたと出会っても
もうあなたに触れられない
嬉しいのに
悲しくて
私はもうガラクタ同然
海に眠る眠り姫は
世界と一つになりました
もうあの優しさも
感じることができないのに
もう一度叶うなら
楽しかったあの頃に
もうあの愛を
拒んだりなんかしないから
壊したりなんかしないから
母に会いたい
父に会いたい
でも眠ってしまえば
もう会えない
巡り巡ってあなたと出会い
私たちはまた一つになる
少女(ピエロ)は必死にもがきました
あの頃に戻るために
演じきれなくてもいい
上手く伝えられなくてもいい
もう一度
あなたに会いたくて
海を抜けて
森を抜けて
あなたに会いに行くよ
もうあの優しさを
手放したりなんかしないから
もうあの愛を
拒んだりなんかしないから
心臓が早鐘を打ち、背筋には生理的嫌悪からくる冷たさが撫でる。
大賢者は自らの魔法で起こした変化を視認して、ふぅと息を一つ吐いた。
「改めてみると圧巻というか……いや、君の前では不謹慎だったかな。とにかく、これらすべてがファントムって言うんだから、敵もなかなかの数を揃えたものだね」
大賢者はクッキーをもう一度取り出して食べていた。精神力を急激に消費したせいで蒼白になっていた肌色が見る見るうちに回復していく。おそらく精神力補充用のクッキーとかなのだろう。
「……大賢者が使った魔法って何なんだ?」
精神力を失ってないくせにすでに生きた心地がしないイツキが絞り出すように尋ねる。大賢者はぺろりと唇を舐めると、淡々と答えた。
「今目の前に現れた秘匿ファントム軍に探知ジャミングが施されていた。魔法でも直視でも見ることができないという驚異のステルス性能さ。それで私はそれを破った。やったことはただそれだけ」
ただし、と大賢者は続ける。
「イツキ君にはなかなかダメージが大きかったみたいだね。まあ自分を殺そうとやって来る敵が奇麗に整列して並んでるんだ。いわば”未知の敵兵工廠”に足を踏み入れたようなもの」
実際には敵はここで生産されているわけではないけど、敵の本陣は間違いなくここだろうね。大賢者はあくまで淡々と語る。3万の前哨隊で魔法使いたちを疲弊させ、ここに残った知性化したファントムで敵を”効率的に狩る”。故にカギとなるこの本隊の存在を秘匿したかったのだろうと。
「これが……全部、なのか……?」
イツキの口からこぼれるように言葉が漏れた。大賢者はすぐにイツキが何を言いたいのか察して、その答えを述べる。
「そうそう。ざっと見た感じ向こうの1/3程度だから……1万くらいはいるのかな」
知性を持ったファントムが鋳造品と比べてどのくらいの戦力比があるのか分からないが、3倍は軽く凌駕するだろうことは想像に難くない。
「だから排除しなくてはいけないんだよ」
大賢者は二つ目の魔法陣を作成し始めた。
***
#11更新です。イツキ君は正気度判定しましょうね。
魔法陣から放たれた光は激烈で、数瞬ののちイツキが目を開けると、まず見えたのはフロントガラス越しに見える海だった。その様子は表面上先ほどと変わらず平穏そのもの。
――いや。
いいや、イツキはどこか違和感を覚えることに気づく。
見慣れた海のはずなのに安心感が一切感じられない。なぜか波立っていない海水面は太陽の光を無機質に跳ね返し、先の見通せない真っ黒な海が口を大きく開けて待ち構えている。
生きた空気が徹底的に排除され、自分たちこそが異質な侵入者だと強制的に自覚させられるような感覚。生命の存在が全く感じられず、なぜか自分たちが生きていると知られてはいけないという強迫観念に囚われる。
それはまるでUFO内部に忍び込んでしまったかのような不安感。眠れる獅子の檻に放り込まれたかのような恐怖。
なんだこれ、と思うより先に、違和感の正体に気づいてしまった。
それはさっきまで明らかに存在していなかった、水平線上から続く何条もの線。
その一つを辿っていくと、自分たちの足元の海上にも広がっていることを確認できる。どうやら線は線からできているのではなく、黒い点がいくつも連なってできているようだ。
黒い点。
目につくと今度はその黒い点ばかりが目に入る。広大な海を縦横無尽に走る点はどこまでも続き、追いかけていくと水平線まで続いている。碁盤の目状に形成された、点の集合体。
いくつも、いくつも、いくつも、いくつも。それは途切れることなどなく。
気が付けば、海のすべてを黒い点が覆っていた。
まさか、という呟きは声にもならない。
だって見たくもないのに見てしまった。確認したくなかったのに、危機本能がそれを求めてしまった。
黒い点の一つを凝視して、知ってしまった。
人も自然も成しえない、本来この地球上に存在してはいけない何かが残した怪奇。
見てはいけない世界のバグを見てしまったかのような気持ち悪さ。
その一つ一つが、すべて同じ形をしたファントムであることに。
こんなんじゃだめなわたし、に気づいてしまったら
悔しくて 泣、泣、泣
どんどんなりたくないわたしになってしまう
むかついて、胸くそ悪くなって
それでも僕が悪だから
黙って息を止めて僕の気持ちを抑えこむ
悪いのは僕だからといい子ぶって
嫌なことを聞きたくないから
耳を塞いだけれど
聞きたいことも聞かなくなってしまった
悪いことを見たくないから
目を閉じたけれど
嬉しいことも見えなくなってしまった
まあ
当たり前なんだけど。
キミが私を荒らすなら
私はもうそれでもいいと思ってるの
掻き乱してボロボロになって
壊れて涙すら出なくなっても
なんだかまだまだキミを愛したまま
疲れたまま
ああもう嫌いだ
決心のつかない心がまたキミを求めてる