世界という悪夢ほど酷いものは無い。
個性があり自生が死んでいく。
自分の身体を蝕んでいく。
彼らは必死にもがこうとする。
だがその思いも儚く消えていく。
只今を生きとう。そんな日々。
そんな日々だ。
しばらく待っていると男子生徒三人組がやってきた。そして、そのうちの一人は松葉杖をついていた。そして、その松葉杖の男子がほかの男子に支えられ向かった先は、先ほどの女性の車だった。どうやら女性は松葉杖の男子の保護者で、車で迎えに来ていたようだった。松葉杖の男子が車に乗り込むと、女性が再びこちらに歩いてきた。そして女性はこう言い放った。
「それ、安い傘だし、ちょっと曲がっちゃってるから、あなたにあげる。」
またまた、予想外な女性の発言に驚き、僕は慌てて断ったが、また押し切られてしまった。そして女性は車に戻り、駐車場を去った。僕の握り締めている傘を見ながら思った。優しい人だな、と。見ず知らずの子供に傘をあげられるなんてすごいな、と。雨の音が響く中、ぼんやりと思った。こんなことが現実に起きるんだな、と。女性が駐車場を去った直後に、見慣れた車が駐車場にやってきた。車に乗り込むと親にこう尋ねられた。
「そんなにかわいい傘持ってたっけ?」
僕は親に事情を説明した。とても助かったし、迷惑をかけてしまったのでお礼がしたいと思ったが、その人の名前は分からないし、毎日送迎に来ているようではなかったので、もう会うことはできないかもしれない。そんな風に思ったことを親に伝えると、
「大人になってから今日の自分みたいな子を見かけたら同じことをしてあげればいいんだよ」と返された。その言葉に納得した僕は、この助けられた経験を、また誰かに返せたらいいな、と思った。
そんな、雨降る夕方のことだった。
なるべく居眠りをしないように、苦手なあの人と目が合わないように、周りの音を雑音に聞こえるように、意識し続ける時間が終わった。学校が終わり、親に電話をかけ、帰りの車を待った。今日は昼から雨が降っていたようで、周りが騒いでいた。そんな僕が雨が降っていることに気づいたのは、放課後になってからだった。だが、僕は生憎、傘を持ってきていない。親が学校に着くまでに15分から20分ほどはかかる。今日は日直だったので、ゴミ捨てもあるし、ゆっくり歩いていこう。濡れる、ということはこの際、気にせずにゴミ捨てを終え、駐車場まで歩いていた。歩きながら思ったのは、寒い、ということ。どうせ小雨だろうし、そんなに寒くはないだろう、という僕の詰めの甘い予想とは裏腹に、外の気温自体が低く、雨もまあまあ降っていた。傘を持っていない僕には、少し厳しい状況だった。
駐車場には着いたが、見慣れた我が家の車が見当たらない。どうやらまだ親は来ていないようだった。最悪なことに、駐車場には雨をしのげそうな場所はなく、仕方がないので木の下に入って親の迎えを待っていた。少し経つと、こちらに歩いてくる人影が見えた。雨で眼鏡が濡れるのは嫌だから、眼鏡をはずしていたので、ぼんやりとしかわからなかったが、どうやらほかの生徒に保護者と思われる女性だった。するとその女性は僕のすぐ近くまで来て、こう言った。
「お母さんまだ来ないでしょ。濡れちゃうからこの傘さして。」
見ず知らずの人に助けてもらうのは申し訳ないと思い、僕は慌てて断ったが、半ば強引に押し切られてしまった。その女性は、僕に傘を渡すと自分の車に足早に戻ってしまった。僕はお言葉に甘え、その傘をさして親を待っていた。
自分は恋愛恐怖症だ。
…と言ったが、人の恋路を見守るのは大好きだ。
片想いの人を見ると応援したくなるし、
両想いの人達の雰囲気とか
あの、なんともいえない距離感とかも好きだ。
(両片想いが一番好きだけどね。)
人を好きになるというのは素晴らしいことだ。
恋をしている人はとても素敵な表情をするし、
特別美しく、綺麗になる。
ただ、自分が恋をするのは怖い。
「恋」は、人を盲目にする。
良くも、悪くも。
私が告白した彼は、とても良い人だった。
すぐに返事をくれて、
周囲に言いふらしたりもしなかった。
振った理由も至極真っ当で、
好きな人がいるから。ということだった。
「顔とかは、気にしてないから。」
伏し目がちに彼はそう言った。
………言葉はいつも、裏返しだ。
本当に気にしていない人は多分、言わない。
彼は、気にする人だったのだろう。
…というか、まぁ、多くの人はそうだし、
もっとも、私は「ブス」だった。
この言葉を聞いたときは少しショックで、
自分の顔を鏡でじっと見つめたりした。
すると、どうだろう!
今まで普通だ(というかむしろ可愛い)
と思っていた自分の顔が
実はとても不細工だったことに気づかされたのだ!
あぁ…こんなにも不細工なのに、人を好きになり、
挙げ句の果てには告白までしてしまったのだ…
申し訳ない…謝れるものなら謝りたい…
このエピソードは私の黒歴史の一つとなっている。
勘違い野郎の恥ずかしい失敗談だ。
あの頃から私は自分の顔が嫌いになった。
そして、恋愛なんて、もう嫌だ…
と、思うようになった。
「……はあ、はあ、………よし、この辺で良いだろう」
団地を抜け、出鱈目に走り続け、男が突然立ち止まる。この街は坂が多いから、彼も私も息切れがひどい。
「はぁ、はぁ……、何です、突然止まって……」
「呼吸を整えたら、双眼鏡でさっき居た場所を見てみて」
何度か深呼吸をして、双眼鏡を覗く。彼は、上手い具合に団地より高い場所に逃げていたようだ。おかげでさっき居た場所の様子がよく分かる。『奴』がそこでキョロキョロしている。しかし、すぐにこちらを向き、笑顔になって走り出した。
「き、来ました!」
「よし、もう走れるね?オカルトは体力勝負だからね。まだまだ逃げるよー」
彼について逃げる。今度は少しずつ下へ下へと進んでいるようだ。住宅地に入り、家々の間の細い道を、どんどん進んでいく。
「あの、行き止まりに入ったりしたらまずいんじゃ……」
「大丈夫、この辺の地図や地形は覚えてる」
前を向いたまま、彼が答える。
「はあ……、そういえば、お名前は?呼ぶ時困りそうなので教えてください」
「ふむ……」
少し考えるようにしてから、彼は答えた。
「蓮華戸。そう呼んで」
「今の間は?」
「名前を考えていた」
偽名かこの野郎。
「ねぇねぇ。このままどっか行かない?」
遥は私の前に立って、満面の笑みで言った。
「え、どういうこと?これから学校だよ」
「だ~か~ら~これから学校行かずにどっか行くの!」
「はっ?何で?学校は?」
「まあ無断欠席ってやつだね。なんかワクワクしない?」
相変わらず満面の笑みで見つめてくる。ワクワクって…。
「もう私の部屋の机にね、置いてきちゃった。手紙。『学校を休みます。心配しな いでください』って」
嘘だろ。何でそういうことすんのよ。
「どうすんの。どこ行くの」
「あ、じゃあ行くってことだね!行き先は決まってないよ。お金いっぱい持ってきたから、乗り物にも乗れるよ!」
お~い。行き先決まってないでどうするんだ~い。っていうか行くとか誰も言ってないし。それでも彼女は満面の笑み。
正気かよ。
「君、少しは頭で考えなさい。それだから数学のテスト15点なんだよ。そんな馬鹿げた気持ちじゃ通用せんぞ。ちゃんとどこ行くか決まってからにしなさい」
私はいつもこういう風に彼女を叱る。
「ごめん」
おう。こういう所は素直でいい奴だ。
「決めた。東京へ行こう!」
お~~~~い!…お~~~~い!何を…。やっぱり馬鹿だなこいつは。
尊敬に年齢は関係ないと思う。
年下の子でも尊敬すべき人はたくさんいるし、
たとえ年上の方でも人間性を疑う人はそこら中にいる。
それはその人本人に直接会ってみないと分からないことが多い。
偏見やうわべだけでその人の全てを知った気にはなりたくない。