新寿々谷駅から歩いて約10分。
寂れた商店街を抜けた所に今回の目的地はあった。
「着いたぞ」
そう言ってネロは墓地の入り口で立ち止まる。
「ここが…」
わたしは思わず呟いた。
「肝試しスポットとしても有名だよな、ここ」
耀平もふと言う。
「ま、今回の目的は肝試しじゃないんだけどね」
ネロはそう言って笑った。
「え、じゃあ何するの?」
わたしがつい聞くと、ネロはふっふっふと不敵な笑みを浮かべた。
「それはズバリ…かくれんぼさ‼」
「え」
思わぬ返答にわたしはポカンとする。
「……どうしましたか?」
宮城さんの反応的に、やっぱり気付いていないみたいだ。
「あの、オバケが近くにいるかもしれないので、危ないです」
私の言葉を聞いて、宮城さんもすぐに周囲を警戒し始めた。
「へぇ……? 私には全く分かりませんでした。どこにいるかは分かりますか?」
「いや、そこまでは……、でも、近くにいるはずです」
けれど、何も見えないし、何の気配も感じられない。もしかして、あの感覚はオバケとは無関係?
「……宮嵜さん」
不意に、宮城さんが重々しく口を開いた。
「何でしょう」
「今、何時ですか」
「えっと……」
手首を見てみるけど、そもそも腕時計をつける癖が無いので分からない。
「今の正確な時間は分からないけど……たしか、家を出た時は7時過ぎだったと思うので、15分か20分かそこらですかね?」
そう答えて、宮城さんに目を向ける。宮城さんは何かに怯えているようだった。
「宮城さん、もしかして、何か見えてますか?」
「いえ、おかしなものは何も。……でも、この時間帯って、こんなに静かなんですか?」
そう言われてみると、たしかにいくら休日の朝とはいえ、何の音もしないのは少し不気味だ。
それに気付いた瞬間、そこら中に嫌な気配が、何というか『生えてきた』。それらはすぐに、ある形をとる。
「宮城さん、見えてますか?」
「はい、たしかに。そこら中に何か腕みたいなものが生えてきていますね。近寄るのはマズいでしょうね」
宮城さんは腕を避けるように移動し、近くの塀に寄りかかった。
「これ、何が起きてるんでしょうか……」
そう呟く宮城さんに、塀の向こうから伸びてきた腕が迫っていた。
「宮城さんッ! 早くこっちに!」
彼女も気付いたようで、すぐにこっちに戻ってきた。
「何なんですかあの腕……まともに動けませんね……」
宮城さんが吐き捨てる。
「えっと、私の家が近いんで、一度避難しましょう」
「む、了解です」
宮城さんの手を引いて、とりあえず我が家に向かった。
我ながら驚きなのです
自分がこんなにも笑えるなんて
我ながら驚きなのです
自分がこんなにも早く走れるなんて
奥歯で噛んで留めてたシリンダー
それが最も簡単に破壊され
守ってきた自分を吐息一つで殺して
遺書を書く暇すら有りませんでした
痛みなんてもう縁のない言葉でしょう
苦しみなんてもう縁のない言葉でしょう
だってこう呟く間にも止め処なく
僕の穢れた赤い血は流れているのだから
貴方の哲学は僕の聖書なのです
だから空の青さが頬を刺す痛みさえ
幸せで仕方がないのです
貴方の手を握りながら
僕の息が止まっていくことを願って
今夜も手を合わせます
今夜も手を合わせます