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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 14.ヌリカベ ⑥

「へー坂辺さんて更月(さらつき)市出身なんだー」
「亜理那、それどこか分かってる?」
「分かってない」
「おい」
理科の授業が終わった後の休み時間、2年生のフロアの廊下にて。
わたしと亜理那と鷲尾さん、そして坂辺さんは、廊下でのんびりと駄弁っていた。
「それにしても」
会話の途中で鷲尾さんがこう切り出す。
「亜理那のクラスに転入生が来たと聞いて見に行ってみたら…」
まさか不見崎さんと仲良くしてるなんて、と鷲尾さんは続ける。
「何だか珍しいじゃない」
「そ、そう…?」
わたしは苦笑いする。
「たまたまだよ、たまたま」
偶然わたしの目の前の席になったから…とわたしは付け足す。

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思い出

風化したっていいよ
汚れたっていいよ
無くなったっていいよ
形に残らないと不安になるなら
それは本当に大切じゃない証

忘れたら仕方ないよ
ずっと縛られなくていいよ
言い切れない「いちばんたいせつ」は
本当の「一番大切」じゃない証

思い出って形に残るものじゃないと思うんだ
どうしても具体にすがってしまうけれど
もっと胸の奥にあるものだと思うんだ

記憶から全て消えたとき
はじめて思い出は無かったことになる

私が忘れたことは君の心の中に
君が忘れたことが私の心の中に
それぞれあるのだとしたら
それはまだ思い出として生き続けるだろう?



遡ってしまうアルバムも
不意に見つかってしまった手紙も
手帳に挟まっていた写真も
その頃の私にとっては大切な思い出だった
ただそれだけで それ以上なんてない



互いの人生の一部を共有した ということ
それがどれだけ短い間だったとしても
それよりも濃い時間を今後過ごすとしても
たった一つだけ永遠に残る共通項
これを思い出と呼ばずに何と呼ぼうか

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無力な勇気

見た目だけ恐ろしい友人の命の危機にいてもたってもいられず、無謀にも英雄に挑んで成す術も無く踏み潰された虫けらの蛮勇を、嘲笑うかい?

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ユーラシア大陸縦横断旅45

派手な演出をしたセーヌのクルージングを終えてホテルの部屋に戻ると、もう夜中の1時だ
疲れているはずなのに、未だに緊張して眠れない
涙で滲んだ夜景を眺めると勝手に言葉が出てくる
「明日ロンドンに着いたら4泊してすぐ香港から福岡だもんなぁ…それも福岡着いて2時間くらい時間が取れてれば何とかなるはずだろうけど、13時半頃福岡空港着で14時の新幹線で帰らないといけないからなぁ…これでまた昔みたいに想い人に会えなくて寂しい時を故郷で、東京で過ごさなきゃいけないのか…どうしようもねえや」そこまで言うと言葉が続かなくなり、いつから聞いていたのか彼女も泣きながら「私もお別れは寂しいよ。福岡〜東京って、すぐ行けるようですぐには行けないの。でも、滞在時間が短くても彼氏が福岡まで来てくれるだけで嬉しいなぁ…」とあたかも自分に言い聞かせるように言っている
「はかた号で空席あるかなぁ…って、あるじゃんか。ったく、金は飛ぶ〜飛ぶ〜夜行の予約で〜♪嗚呼、これ〜はひどい♪新幹線のキャンセル代よりも高いぜ夜行バス!さ〜すがに〜痛すぎる〜緊急の出費は〜勘弁して〜♪」と巨人の球団歌のワンフレーズを替え歌して自嘲気味に歌うと「闘魂こめて替え歌するとそんなことできるんだ〜」と言って彼女が笑う「まぁ闘魂こめて替え歌すれば都営三田線の駅名歌えるからな」と笑うとさっきまでの重い空気は吹っ飛んだ
話し込んでいると2区の方が明るくなってきた
もうすぐ日の出だ