「何を考えてたの?」
「え」
坂辺さんからの意外な発言に、わたしは少し驚く。
「それは…」
秘密、かなとわたしは苦笑する。
「秘密…」
坂辺さんは目をぱちくりさせる。
「…」
2人の間に微妙な空気が流れた。
「…わたし、トイレ行ってくるね」
沈黙に耐えられなくなって、わたしは席を立った。
坂辺さんはいってらっしゃい、とわたしを見送った。
私は人の顔を見るだけで人の心が分かります。
貴方の顔をよく見せて?
貴方の心、分かりました。
優しさ、暖かさ、皆に対する愛で溢れていますね。
ああ・・・なんて暖かい心なのでしょうか。
午後10時40分、グラスゴー発ロンドンユーストン行き最終電車は終着駅に滑り込む
「バスは最終便出ちゃったか…」幼馴染が腕時計を見てそう呟く
「なら、Northern-LineでBank経由はどうだ?」そう問いかけると「何でも良いから早いルート使おう。眠いよ」と彼女が口を挟む
「幼い頃に俺を育ててくれた親の苦労が今になればよく分かるぜ」と苦笑いを浮かべると「歳の差が大きな弟妹がいるとよくあることさ。」と言って幼馴染も笑っている
地下鉄を活用し、日付が変わる前に宿に戻る
「明日は市内観光で良いと思うんだが、どうだ?」そう尋ねると「僕は午後の飛行機でヒースローからコペンハーゲンに発つからそれで良いよ」と返って来る
「なら、俺たちが再会したあの駅行こうぜ」と提案する
彼女も乗り気のようで頷いたが、すぐに睡魔に負けたらしく俺の腕の中で眠ってしまった
「寝かしてくるよ。また、明日な。おやすみ」と告げて部屋に戻る
彼女はスヤスヤと眠っており、俺も眠くなる
「何か硬いけど、どうせすぐ寝るし良いかな」と言って明かりを消し、眠りに付く
日の出の頃に起きて、とんでも無いことに気がつく
朝起きたら彼女が着替えを取り出しやすいようにと思って上げたはずのスーツケースを俺が枕にして寝ていたのだ
俺が目覚めたのを見て、彼女は苦笑いを浮かべる
「この間のお返しね。寝顔と寝言録ったよ」と言って今まで見たことのない輝きを放つ笑顔を浮かべている
「え?」「はい、これ。『男の嗜みとは〜♪嫁さんとのTea break。飯田橋のお堀に咲く花〜♪みたいだろ〜♪』って、これ昔のアニメのキャラソンだよね?原曲ではイギリスのこと歌うのに替え歌して東京のこと歌ったよね」と言って笑ってる
「君のことも歌ったんだけどね」と言って笑うとお互い顔を真っ赤にする
「お二人さん、起きたかい?」と言って幼馴染が呼びに来る
「あの駅行くなら、時間かかるからそろそろ行くよ」と言われた
当時を彷彿とさせる服で思い出の場所へ向け、部屋に鍵をかける
「「待ってろよ。僕(俺)達の思い出の駅!」」そう叫び俺たちはウォータールーの地下鉄駅を目指し、幼稚園の駆けっこを彷彿とさせる走りでロンドンの大通りを駆け抜ける
貴方の言葉は深く、そして暖かい。
貴方の言葉は私を動かして下さった。
これからもどうか素敵な優しい貴方でいてください。
あのロックンローラーの言葉で君は震えてる
怖いこと言われている
かっこいいこと 言われている
君の言葉で僕は震えている
怖いこと言わないで
かっこいいこと 言わないで
僕の言葉はたどり着くあてもなく泳ぐ
怖いこと言ったけど
かっこいいこと 言ったけど
ジャンケンホイ 僕を出した人は
誰にも勝てずに負けるだけ
あのロックンローラーも君も
僕の言葉じゃ動かせないのさ〜
ロンドン・ユーストン行き最終の特急はイングランド西海岸の田園地帯を南下する
この地方有数の都市、ランカスターを過ぎると車内が騒がしくなる
何事かと思い、幼馴染に見て来て貰ったが、「馴染みのない言語が飛び交っていてよく分からないけど、アジア系の人達が騒いでるというのは分かったよ。」と返ってきた
厭な予感がしたので「ペンと紙、貸してくれないか?最悪の事態になるかもしれないと言う不安があるんだ。それを確かめて来る」と言うと彼は何かを察した様で「可能性は否定できないってことか。行って来な。」と言って筆記用具だけでなく、モバイルバッテリーと充電コードもくれた
「ありがとう。俺、やって来るよ。必ず戻るけん、ちょいと待ってな」そう言って騒ぎになっている場所へ行った
すると、予想通り広東語が飛び交っている
そして、中の人達に割って入る形で漢字を使い、筆談を始める
要約すると、「政治上の問題があり、香港空港に飛行機が入れない。いつまでこの状況が続くか分からない」とのことだ
そして、幼馴染が声をかける
「最悪だ」と言うと「ニュースで知ったよ。でも、大丈夫。全額払い戻しが効くってさ」と言ってくれた
「何のマイレージ持ってるの?」と訊く
「キャセイとスタアラなら持って来てる」と返す
「ブリティッシュ直行で帰れるよ。」と言ってくれたが、当初の予定は変えられずミュンヘン乗り継ぎにして帰る決断をする
幼馴染は頷くが、彼女は不思議そうだ
「確かに、ドイツ経由だと料金は高くなるし、遠回りさ。でも、俺は福岡へ行きたいんだ。帰国したら、俺は大好きな君とはまた会えなくなる。それだったら、また会えなくなる前に君の故郷を見ておきたいんだ」と切り出す
「今まで言えなかったんだけど、私は羽田経由で帰ることになってるんよ。私も貴方と気持ちは同じ。だけど、私は九州だから気軽に東京に行けない。それなら、次はいつ行けるか分からない東京で思い出を作ってから帰りたいの」と返ってくる
「分かった。俺も羽田直行で帰るよ。東京を発つ時間教えてくれたらそれに合わせて周れる場所探すよ」と言うと彼女は笑顔になり、幼馴染も安心した様な表情で「これで仲良く帰れるね」と言っている
列車はゴルフの町、ワトフォードを過ぎたので間も無く思い出の街、愛しの都、ビッグベンのお膝元人によって呼び方が様々あるロンドンに着く