心から 愛しています お母ちゃんのことを
私はね ずっと内緒にしてたことがあるの
いつも笑っていたけれど 心では泣いていたの
でも顔は笑顔 苦しくても 悲しくても
守ってくださる方々が側にいてくださることを
知っていたので 私は強くなれた
だから大丈夫
「…耀平じゃダメだったの?」
ふとそう思ったので尋ねると、ネロはブフっと吹き出した。
「な、何で…」
ネロは恐る恐るこちらを見る。
「何でって…」
自分は淡々と続ける。
「ネロは普段何かがあった時すぐ耀平の所へ飛んでくじゃん」
そう言うと、ネロはうっと気まずそうな顔をした。
「自分の所に来たって事は、何かあるのかなって…」
自分がそうこぼすと、ネロは手の中の缶に目を落とした。
「…だって」
ネロはポツリと呟く。
「耀平に復讐を止められちゃったんだもん」
気まずくて会えないよ、とネロは言う。
「ボクさ、あのままアイツ…論手 乙女(ろんで おとめ)の記憶を全部奪って、苦しめてやりたいと思ってたんだ」
それでね、とネロは続ける。
「ちょうどショッピングモールで奴を見つけたから、これはチャンスと思って上手い事皆から離れてアイツを捕まえたの」
ネロは缶を握りしめる。
「それで人気のない所へ連れてったんだけど…」
ネロはこちらを見る。
名も知らぬ駅を通り過ぎて
着いてくるのは満月だけ
あの赤い屋根の家に置いてきた哀愁、
夢の園発 下町行き
黒に浮かぶ練色、あれは灯
ここまでは連なる田園の残り香
気取った言葉に訛りを隠して
後悔経由 都会行き
雑踏と喧騒と眩しいネオン
煤けた空も、早歩きにも、
いつまで経っても慣れなくて
でも、私はここに、ここから1人で
田舎者の歌うブルース
まもなく終点、東京
今まですごくいろいろあったし
きっとこれからもあるけど
とりあえずいまは
すごく愛しいひと達に
かこまれていて幸せだよ
ひとばん中歌って
踊っていたいくらいに幸せだよ
わたしはいま
大好きをさけべるよ
ありがとう
おやすみ
「よォお前、こんな往来ド真ん中で立ち止まってどうしたィ?」
「ん? 何だ友よ、俺に気付いてあっちに気付かねえとは、随分と視野が狭いな。葦でも覗いてんのかい?」
町をぶらついていると友人の姿を見つけたんで声をかけてみた。返事はいつも通り皮肉たっぷりだったが。
「んで、何を見ていた?」
「あれさね」
「どれさね」
「俺の指を見ろ」
「…………」
「馬鹿野郎、指を見てどうする。指差す先を見ろってんだよ」
「最初からそう言えよなー」
冗談を交えつつ奴の指す方を見てみると、異国の僧衣を纏った異国の少女が、たどたどしい日本語で何やら演説をしていた。
「何あの美少女」
「どーも異国の宗教について話しているらしいぜ」
「シュウキョウ……? 生憎と興味が無えな。俺が信じるのは祖霊だけだ」
「ばちぼこ浸かってんじゃねえか」
「で、どんな胡散臭い宗教だ? 見てくれだけなら若い男が黙って通り過ぎるわけが無いと思うんだが」
「ごめん俺異国の顔は好かねえ」
「俺もー。で、どんな宗教だって?」
「話聞いてやれよ」
「お前は聞いてたんだろ?」
「おう、割と朝早くからそこに立って、もう二刻は話し続けてるぜ。もう十回は同じ話してる」
「それで野次馬がお前1人か」
「うん」
「そっかァ……。で、どんな宗教だって?」
「だから話聞いてやれって」
「発音が聞きにくいんだよ」
「そんならしゃあねえや」
2人して笑っていると、俺の博打仲間が声をかけてきた。
「ようお前ら、何を笑ってんだ?」
「おー、お前俺達には気付いてあれには気付かねえのか」
友人にやられたことを、そっくりそのまま繰り返す。
「『あれ』? あれってどれだ」
「俺の指を見ろ」
「…………?」
「指差す先を見ろって話だ馬鹿野郎」