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白と黒と青き星 〜第2話 戦闘〜高田美空編

地下に張り巡らされた出撃ルートを通り
指定された2.3番出口から2人は地上に参上する。
目の前には大型テネブリス。その異質な存在感は圧巻だ。
「これが今回の獲物ねぇ」
「映像見とけよ、共有されてたろ」
大型のカゲを前にしても2人のやり取りは変わらない。
しかしその目はきちんと臨戦態勢だ。相手の出方に気を配り、しかし緊張や気後れする様子もなく隙がない。
『輝士班2名より、これより攻撃を開始する』
報告などの事務作業は相変わらず一言一句ズレがない。
【了解。詳細情報を通達します】
その通信を聞きながら、2人は目を合わせ、口角を上げる。
『全開放』
2人は光の力を全開放し、走り出す。
その走力は常人のそれではなく、100m以上あるカゲとの距離を3秒もなく詰める。
【目標は全長14mで大型に分類。特定の形状を維持せず種族は不明。コアの露出も確認されません。本体の攻撃は主に触手による中長距離攻撃、近接戦は不明。侵食分身の攻撃は…】
走りながら2人は詳細情報と自分達の視覚情報を照らし合わせる。
『了解』
「んじゃ、私はまずこの厄介な侵食くんの数を減らしますか」
「なら俺は本体ってことか」
「さすがバディ、でっかい風穴期待してるよ〜」
そう言いながら2人は各々に別れ、それぞれの目標に向かってその武器を振るった。
高田美空はクナイを駆使して無数の侵食分身(カゲの侵食によってカゲ化した存在)を次々に倒していく。その姿はまるでステージで踊っているアイドルのようにさえ見える。それほどに綺麗に、的確に相手のコアを突いていく。
「ここでファンサ!」
背後のカゲに向かってクナイを投げる。
しかしカゲもバカではなく、その距離があればコアへの命中を外すことだってできる。
「あ!しまった!外した!」
クナイはカゲの体を掠めてそのまま飛んでいく。
そのためカゲは姿勢を変えず美空に迫ってくる。
「…なんてね」
飛んでいったように見えたクナイは方向を変え、カゲのコアを背後から貫いた。そのまま宙を舞うクナイが周囲のカゲを一掃。帰ってきたクナイを掴み、
「千の偽り万の嘘、これも私の武器だよ」
そう言ってクナイに口付けする。
【美空ぁ!!!!】
「うひぃ…」
当然こんな戦い方では校長からお叱りの通信が入る。
「あいつ…またやったのかよ…」

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鏡界輝譚スパークラー Crystal Brother and Sister Ⅴ

マズい、そう水晶が心の中で呟きかけた瞬間、背後から声が聞こえた。
「伏せて‼︎」
後ろから無理矢理押されて倒れるように水晶は地に伏せる。
「“]^>;>;‘${$!.・‼︎」
伏せた水晶の頭上を光線が飛んでいった。
『加賀屋さん?加賀屋さん⁈』
通信機の向こうで巴が心配そうに尋ねる声が聞こえる。
「…」
水晶が起き上がると、懐かしい制服を着た少年が目に入った。
「水晶」
「兄、さん…?」
水晶が聞くと、少年は良かったぁ…とその場に座り込む。
「妹に目の前で死なれるかと思ったよ」
危ない危ない、と少年は呟く。
「で、大丈夫?ケガはない?」
どっか痛い所は…と少年は水晶に近寄る。
「…」
水晶はただただ呆然としていた。
まさかこんな所に、”兄“が現れるなんて。
「みあきち!」
…と、紀奈が水晶に駆け寄って来た。
「…と、どちら様?」
紀奈が怪訝そうに尋ねると、少年は紀奈に向き直って答える。
「澁谷學苑3年の加賀屋 石英です」
「えっ、加賀屋 石英⁈」
あの有名な…と紀奈はうろたえる。
「うちの妹がいつもお世話になっています」
そう言って石英が頭を下げると、紀奈はそりゃどうも…と頭を掻く。

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憧憬に泣く 2



 和樹がカゲになった。
 和樹はSTIの基礎教育修了後一ヶ月もしない内に九州カゲ大規模出現のため遠征に行った。和樹は同級生たちの心配する声も真面目に聞かず(聞いたところで遠征メンバーから外れることはできないが)、憧れの一人前のスパークラーへの第一歩だと喜び勇んで輸送機に乗って行った。それももう先月のことだ。
 そして2日前、カゲになったという知らせが鏡都の同級生らのもとに届いた。
 今年の1年生の中では初めての殉死者であった。
 彼らの間に衝撃が走り、彼の友人や家族は静かに泣き崩れた。
 善もその中のひとりだった。
 ――善は和樹と小学生のときからの友人だった。2人は幼い頃から、命を賭して人々を守る若き勇士たちに憧れた。一緒に立派なスパークラーになって世界を守るのだという大それたことを誓い合った。そして2人は優秀なスパークラーを輩出していることで有名な地元のSTIに入学した。 基礎教育期間が終わると、善が鏡都宮下中隊第9自主結成部隊、和樹は第4自主結成部隊に配属されしばしの別れを告げた。その『しばしの別れ』が『今生の別れ』となるとは――
 善はその結果に至る度、頭を抱えて奥歯を割れるほど強く噛み低い唸り声を上げた。全身が震えて、何かを殺してしまいたいような気分だった。
 この2日間で何十回とこの思考回路を繰り返し、何十回と和樹が死んだという事実を否が応でも反芻し、もう善の頭はショート寸前だった。
 彼は寮の一室で、ベッドに潜り込んで縮こまっている。2日前から訓練にも巡視にも行かず、食事にも殆ど手を付けず。
 部隊のメンバーは、部隊長に放っておけと命じられているため何もせずにいた。それでもやはり弱りきった後輩の姿は見るに堪えない。9自成隊(自結隊は響き的に縁起が悪いためこの辺りではこう略す)のメンバー、去年入ってきた少年が部隊長に遂にそのわだかまりを打ち明けるため、彼を呼び出した。

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野良輝士市街奪還戦 その⑤

「よしよし、こっからは俺の出番だぜー。そぉー……りゃっ!」
宗司は這い寄ってきた小型のカゲ数体を薙ぎ払い、返す一撃で錐状に尖った側の鎚頭を別のカゲの頭部に叩きつけ粉砕した。こちらは頭部に核があったようで、ぐずぐずと溶けるように消滅した。
戦槌を構え直す宗司の隙を狙って4体のカゲが飛びかかったが、2体は灯の撃ったワイヤーに貫かれ、あとの2体は二人の遥か後方からの狙撃によってダークコアを破壊され、大気中に掻き消えた。
『よし命中』
「お、ナイス狙撃。真理ちゃん無事だってー?」
そう尋ねる宗司に親指を立て、灯はワイヤーで捕えたカゲを引き寄せ、体組織を破壊され露出したダークコアを改めて破壊した。
「そろそろヌシとの距離がキツイな。俺がしばらく気を引いとくから、雑魚は任せたぜ、宗司」
宗司に告げ、灯は鉄線銃型P.A.による立体機動でヌシの周りを回り始めた。
「おう頑張れー」
宗司は向かってくるカゲたちを数度殴り飛ばし続けていたが、狙いの荒い打撃は核を破壊できず、敵の数は一向に減らない。
「宗司ーカゲ減ってねえじゃねえかー」
ワイヤーで跳び回りヌシの注意を引きながら、灯が文句を言う。
「コアが小さいのが悪い」
「もっと頑張れよ……お?」
「どうした?」
「着いたみたいだ、援軍」
「ほう」
「しぃーーるど、ばあぁあーーっしゅ!」
小春が防楯を身体の前に構えながら突進し、カゲ数体を屋根から弾き飛ばした。