『そういや、コントローラーとか机の上に見えなかったけど、どうやって動かしてるんだ?』
「何、単純な疑問かい?」
『単純な疑問』
「普通にチェストに入れてただけだけど。そもそもドローンも隠してたでしょ」
『たしかに。……カゲが来た。切るぞ』
「はーい」
通信が途切れて数秒後、ドローンに付属したマイクが戦闘音を受信した。
「お、始まったねぇ。それ行けドローン」
ドローンは戦闘を繰り広げる吉代とカゲ達の頭上を通過し、カゲの犇く村の中央に移動した。
ドローンに設置したカメラから受信された映像は、モニタ上に監視カメラの映像とは別ウィンドウで表示される。
(さて……無駄だとは分かっているけど)
カゲ以外に動くものは無いかと画面を注視する。勿論そんなものがある訳も無く、すぐに諦めて明晶はドローンを小屋に戻すよう飛ばした。
「さて……やるか」
回転刃を具えた草刈り機型P.A.のエンジンスターターを引き、吉代はカゲ達に相対した。
「かかって来い、侵略者ども」
吉代の挑発と同時に彼に飛びかかったカゲ達の第一波は、吉代の薙ぎ払いによって膝の辺りを切断されてその場に倒れ、それに躓いた第二波、さらにそれに衝突した第三波と続き、カゲ達の手が届く前に最下層のカゲは他のカゲの重みで弾け飛んだ。
「こうなれば楽なんだよなぁ」
のたうつカゲ達を、吉代は単調作業のように1体ずつ切り殺していった。
「おかえり、お疲れ様」
「お疲れ様、ナイスコンビネーション!」
出迎えてくれた同期2人の姿に思わず驚いた。
「どうした?出迎えなんて珍しいな」
「うん、びっくりしちゃった」
正直美空のリアクションの棒読み加減の方がびっくりだ、まぁ理由は想像つくけど。
「とりあえず美空はライブ行きな、スタッフさんもう待ってるよ」
「まさかそれを言うために?」
「まぁね、スタッフさんを中に通す訳にはいかないし」
「わかってるってば!みんなお節介なんだから」
美空はわざとらしく不満そうな顔を見せつけるようにしてから通用口のある1階に向かった。それに合わせて俺は諸々の片付けを始める。
「で?任務直後の同期捕まえて何の話だ?ただ労いに来たって訳じゃないだろ」
「さすが、話が早いね」
棚の向こうで姿は見えないが声だけでも津上のあけすけさが伝わってくる。
「今日の出撃、ジョーはどう思った?」
「どうって別に…いつも通りのバディ単位だろ?」
「確かに珍しいことじゃない。でも相手は種族不明の大型、それにしては2人の配置も戦略的とは言えない」
今度は大幡の声、冷静で理論的。
“いや、配置は美空の遅刻のせい…”
訂正したいが彼女にその様子は見えていないので口は挟まないでおく。
「変異変態も踏まえれば部隊出撃でもおかしくないのに私達は群発対応という名目で避難誘導だった」
「目標は大型だったし群発対応自体は輝士班の仕事として間違ってないだろ」
「内容自体はね、でも大事なのはそれを目標の対応よりも優先したってこと」
待ってましたと言わんばかりにスラスラ訂正される。
「優先した?まさか」
「いや、順次立てるとそれが1番筋が通るんだ」
ルールとして手順は以下の通り
発生確認→避難勧告(自衛隊配備)→輝士班招集(ウォール展開)→避難誘導
輝士班の招集はカゲの種族等の判定によって人数が決まる。大型の場合は対象範囲が広いため複数部隊を招集し部隊別に担当分けをするのが一般的だ。そう考えると確かに群発対応とはいえ1部隊しか呼ばず分離するのは異例と言える。
「確かに異例だけどそれがなんなんだ?」
丁度話がまとまりかけたところで俺は片付けを終えた。
「そう、そこが本題」
「本題?」
言葉がいつも本当の思いを含んでいるだなんて
誰が保証できるだろうか
はっと出た言葉でさえ、それがたとえ照れ隠しでも、強がりでも、綺麗事でも、受けとる側が嘘と本当を見分けるなんて無謀だと思う
せめてその言葉は本当であってほしいと無意識のうちに願いながら、耳は素直に音を拾っていく
そうやってまっすぐに、純粋に在るから
だから誤解に痛めつけられて
勘違いする自分を責めたくなる
そうならないように「守る」
言葉だけでなくて、相手の心まで
相手に向けて、一途に伝えようとする。
言葉が寄り道をせずに、
「あなた」につんと伝わるように。
……
「うえぇっ⁉」
最初のビルの屋上に、小春の驚嘆の声が響いた。
「そんなに驚くことかな?」
先に辿り着いた灯に助けられていた真理奈が首を傾げながら問い返した。
「いやはい、落ち着いて聞いてくださいね」
「新入りちゃんこそ落ち着いて話してね?」
「えっと……まず、そもそもP.A.を手に入れるのって、STI以外だとすごく難しいんです」
「へー。そこはかどみーちゃんに頼り切ってたから分からなかったよ」
「はい、皆さん初音さんに感謝すべきです。……だから、皆さん全員がSTIに入ってないってのはあまりに衝撃的過ぎまして」
「なるほど理解した」
「えっと……灯くん、でしたっけ」
突然話しかけられ、灯が僅かにびくりとした。
「な、何だよ」
「灯くん、私と同い年って聞きましたけど、進路はもう決めてるんですか?」
「ああ、県立第二高校に……」
「私の通ってるSTIが中高一貫なんですよ。ほら、県立鉱府光明学園って、割と有名だと思うんですけど」
「ああー……知ってる知ってる。たしかこの間ラジオで特集組まれてたよな」
「はい。で、今からでもそこに変えません? 偏差値も近いですし。STI所属ならカゲの討伐報酬も入るし、P.A.のメンテナンスとかもやりやすくなるし、他のスパークラー達と情報交換できるし、メリットずくめですよ」
「ええ……」
「なぜそんなに消極的……」
「いや何かなんとなく……」
仲間ができた、戦う理由ができた。
あの居場所…幕針文化学院を守りたい、その一心でわたしは戦っている。
もうあの頃の臆病な自分ではないのだ。
もちろん周りには誰も文句を言う人はいない。
兄と比較する者もいない。
わたしはわたし、それ以外の何者でもない。
「今だ」
塔のようなカゲが歩道橋まで数メートルの所まで来た時、水晶は拳銃型P.A.の引き金を引いた。
P.A.から発せられた光り輝くエネルギー弾は真っ直ぐに飛び、カゲの頂点…コアを貫通した。
「>;”;*;“;>;”;“」
カゲは不意に動きを止め、何か喚き声を上げた。
その直後、カゲは頂点から崩れるように霧散していった。
「…やった?」
歩道橋の壁から紀奈が顔を覗かせる。
「やった…みたい」
弾も壁からカゲがいた方を覗き見る。
2人は水晶の方を見た。
水晶は静かに、構えた拳銃型P.A.を下ろす。
「やったぁ‼︎」
紀奈と弾は水晶に飛びつく。
「すごいよ!」
やったよみあきち!と紀奈は水晶の頭を撫でる。
「すごーいみあきちー」
弾はぴょんぴょん跳ねて喜んだ。
「お前らガキか」
寵也が呆れたように言うと、弾はボク達子どもだしーと頬を膨らませる。
「とりあえず3人共、まだ小型のカゲがこっちに攻めてきてるんだけど」
「あ、そう言えば」
「そうだったね」
巴がそう言うと、弾と紀奈は水晶から離れて手元の拳銃型P.A.を準備した。
「ほら加賀屋さんも」
「あ、うん」
巴に促され、水晶は歩道橋の通路にしゃがみ拳銃型P.A.を構えた。