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ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 16.トウテツ ④

「何でそんな事教えなきゃいけないのさー」
めんどくさーいとネロは呟く。
「良いじゃないか少し位」
「えーやだよー」
「ちょっとだけちょっとだけ」
「何でさー」
ミツルとネロは暫くの間そう言い合っていたが、やがてネロの方が溜め息をついた。
「あーもう分かった!」
ちょっとだけ話すよちょっとだけ、とネロは立ち上がる。
「その代わり、ちゃんと駄菓子買ってよね」
ネロがそう言ってミツルに目を向けると、彼は分かってるさと返した。
「…」
ネロはミツルに目を向けたまま、また駄菓子屋の店先に座った。
「じゃあ、話すよ」
全ては今年の4月から始まった、とネロは語りだした。
「ボクがいつものように寿々谷駅近くの雑居ビルで異能力を使っていると、急に後ろから話しかけられたんだ」
ほう、とミツルは頬杖をつく。

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×××××中学校の七不思議 甲斐田正秀 12

 次の日の放課後。
 部活に参加した俺に、件の先輩がやって来た。部活の始まる前からソワソワした様子で辺りを見回していた。俺を見つけるとぱっと明るい顔で俺の名を呼びつつ駆け寄ってきたのだ。
「で、昨日どーだったよ!?」
 やっぱりな。
 先輩はおっかなびっくり訊いてきた。
「どうだったって……」
 甲斐田正秀はいましたよ。彼と話して、彼は噂とは全く違う人物で、空襲で死んだ中学生でした。
 ……とは言わなかった。言いたくなかった。
 あの少年は、そうやって大っぴらにして恐れられて良い対象ではない。もっと純粋で幼くて、切ないものだ。会って、直接話を聞いてやらなければならない。あそこに行こうと思った者だけが密かに確かに知って、ずっと心に止めておけば良いのだ。彼もそれを望んでいる。
 だから俺は
「何もありませんでしたよ」
 そう言った。
「……なあんだ、そうだよな、ははは、期待して損しちまったぜ」
「そうっすよ。それより、あれから大変だったんすよ!昇降口全部しまってて、職員室行ったら何でいるんだってチョー怒られて!」
「ははは、どんまーい」
「元凶先輩っすよ!」
「へへへ」
「もう!」
「おい!そこうるせーぞ!」
「すいません!」「すいません!」
 またも先生に怒鳴られ、部活を始めた。

 あれ以来、俺はあの時間にあの教室に行くことはなかったけど、後輩には教えてやった。
 甲斐田正秀の『恐ろしい噂』を。