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緋い魔女と黒い蝶 Act 11

「ナハツェーラー!」
メフィがそう言って駆け寄ると、ナツィは嫌そうな顔をした。
「なんだよ」
お前には助けてもらいたくなかったんだけど、とナツィが呟くと、メフィはそんなこと言ってる場合?とナツィを起こした。
「あれが件のホムンクルスね」
メフィが聞くと、まぁとナツィは頷く。
「ここはアタシたちに任せて」
アンタはグレートヒェンを探しなさい!とメフィは立ち上がる。
「え、”探しなさい“って…」
ナツィが思わずポカンとすると、ヨハンはグレートヒェンが見つからないんだ!と答えた。
「…はぁ⁈」
なんでアイツが見つからないんだよ!とナツィは立ち上がる。
「どうもこうも、他の魔術師たちにホムンクルスが出たことを知らせたっきり行方が分からないって…」
ヨハンがそう言い終える前に、ナツィは外套を脱ぎ捨てた。
そして背中に黒い翼を生やすとその場から飛び立った。
「…」
ヨハンとメフィは思わず黙りこくってしまった。

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Metallevma:水晶玉は流星を見通す その④

「外……だと?」
「そーお外」
ルチルが訝し気に問い返すも、ネコメは事も無げに答える。
「クリスチャンにも見えてるんだろうさ。ドキドキワクワクするような、“異世界”ってやつが」
言いながら、ネコメはクリスタルに意識を向けた。その目に映らないクリスタルの口元は、心なしか僅かに上がっていた。
「ナワバリ争い? 下らないねそんなこと。こんな小さい世界に甘んじる奴らの諍いになんか興味無いよ。すぐそこに見えてンだ、この不可視で強大な『壁』のその先が。出自やナワバリの違いなんかでいがみ合ってる暇も無いほど、ボクらの戦いは困難で不確かなんだぜィ?」
ネコメがニヤリと不敵な笑みをルチルに向けた瞬間、ネコメの首が刎ね飛び、後方から飛んできた何者かの腕に吹き飛ばされていった。
「ッ⁉ ネコメ⁉」
咄嗟に立ち上がるルチル。
「る、ルチル! 敵襲だ!」
駆け寄って来たのは、片腕を失ったルチルやクリスタルの仲間、ローズだった。
「ローズちゃん! あの腕ローズちゃんだったの⁉」
「うん、油断した。クソ、“あれ”が来たんだ!」
「あれってなに……」
首だけになったネコメが尋ねる。答えるのはルチル。
「……“流星刀”のトロイライト。最近この辺で猛威を振るってる『隕鉄一派』の1人だ」
「そっかー……ところでなおして」
「ああ。ローズちゃん!」
ルチルに呼ばれ、ローズが自身の傷口を抑えながら駆け寄ってくる。
「クリスちゃんとついでにネコメを頼む。戦況は?」
「アメシストがどうにかしてる」
「私はそっちに行く。他に誰も近付けるな。私とアメシストで駄目ならあとはもう無駄な被害だ」
「了解。行くよ、クリスちゃん」
「んぇあ?」
クリスタルはネコメの胴体を小脇に抱えたローズに呼ばれ、訳も分からずネコメの頭を抱えてローズについて避難した。

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Trans Far East Travelogue61

市ヶ谷の駅舎と俺の地元は対岸にあるとは言え我が母校の校歌にもあるように「古いゆかりの濠に沿う風爽やかな丘の上」にある。
改札口は入り口が吹き抜けになっている為、いつものように吹き込むそよ風に髪を靡かせながら嫁が一言「せっかくだし、貴方の地元歩きたいなぁ」と呟くのを聴いて「任せときな。って言うか、コースどうする?ここから歩くなら四谷か神楽坂のどちらかがオススメだよ。どちらも車の通りが多い道から一歩入った路地に建ち並ぶ飲食店の風景が良いんだ。まぁ,この時間じゃ呑み屋しか空いてないけど」と言うと嫁からの返事が来る前にセブ時代の親友から電話が来たので話を聞いてみると。神楽坂の本多横丁で、かつてセブの学校にいた同学年の関東男子4人のうち俺以外の3人が偶然同じ店で鉢合わせて呑んでいるので,俺も呑みに来ないかとの誘いだ。
そして,俺達2人も合流して見番横丁近くの店で5人で呑むことになった。
2人で飯田橋に向けて歩いていると「見番横丁ってどの辺?」と嫁が訊いてくるので「地元じゃ昭和の空気を色濃く残すことで有名な銭湯の熱海湯がある辺りさ。神楽坂は谷状になってるけど、お堀にかかる橋を渡って坂を上りきる手前で左に入るよ。そう言えば,アイツら昔は俺より先にダウンしてたから多分酒弱いと思うけど、もしかしたら強くなったかも知れないな。でも,俺たちに遠慮して合わせなくて良いから無理はするなよ」と返すと「やっぱり優しいね。外見はともかくこんなに良い旦那さんと一緒になれて幸せ」と嫁が囁く。
「俺もこんなに良い嫁さんと一緒になれて幸せだなぁ…でも,ここの公園で昔家族でやったみたいに今度は2人でできたらもっと楽しかっただろうに」と呟くと嫁が「何かできなくなったの?」と訊いてきたので「ここ、お濠の対岸の建物の夜景が水面越しに輝くだろ?それを見ながら昔は線香花火ができたんだけど今は禁止になったんだよ。中2の夏休みにここで家族で手持ち花火やってたのが懐かしい。でも,もうできねえんだよなぁ」と返す。
「この公園,昼間は観光客多そう」と言って嫁が呟くので「観光客は多いぞ。特に春先は桜が綺麗なんだ。そこの新見附橋から両側に咲き誇る満開の桜と電車がセットで写る写真で有名だね」と返すともう飯田橋の西口駅舎が見えてきた。
光輝く現代的な駅舎はさながら八重洲のようだ。

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Metallevma:GRANDIDIERITE Ⅳ

「ここは“ベリル”一族のテリトリーさ」
あたしらとはそこそこ敵対してる、とルビーは淡々と言う。
「え、敵対してるって…」
青緑色の髪のコドモがそう言いかけた時、突然背後に気配を感じた。
ハッと振り向くと、銀髪のコドモが3人に向かって飛びかかろうとしていた。
「⁈」
何がなんだか分からないまま青緑色の髪のコドモはルビーに腕を引っ張られる。
すんでの所で青緑色の髪のコドモは銀髪のコドモを避け切った。
「っ!」
銀髪のコドモはそのまま地面に転がる。
その背中には透明な鉱石が生えていた。
「おー相変わらずだねー」
“ゴシェナイト”、とルビーが笑いかける。
「コランダム一族のルビー!」
ここに何しに来たんだ!と“ゴシェナイト”と呼ばれたコドモは立ち上がる。
「いやぁ、身元不明のこの子がどこの一族の子か聞きに来たんだけど…」
ルビーは隣の青緑色の髪のコドモの肩に手を置いて言うが、ゴシェナイトはうるさい!と言い返す。
「今度こそ、この間の借りを…」
「ゴシェナイト」
ゴシェナイトがそう言いかけた所で、通りの奥から澄んだ声が聞こえた。