表示件数
0

緋い魔女と黒い蝶 Act 17

「まだ好きとか言ってねーけどー」
ヨハンはそう笑って前を向く。
「…」
ナツィは沈黙していたが、その顔は赤かった。
「ふふふ」
グレートヒェンはその様子を見て微笑む。
「私もお前のことは好きよ」
グレートヒェンは前を向いて呟く。
「私の大事な“使い魔”なのだから」
グレートヒェンがそう言うと、ナツィはちらっと彼女の方を見た。
そして彼女の左手に手を伸ばした。
「?」
グレートヒェンが不思議そうに立ち止まって振り向くと、ナツィは恥ずかしそうにこうこぼす。
「…ちょっとだけ」
グレートヒェンは少しの間驚いたような顔をしていたが、やがてふふと笑うとナツィの手を握り直した。
そして2人はまた歩き出した。

〈おわり〉

0

Metallevma:水晶玉は流星を見通す その⑦

ルチルは無数の水晶針を周囲に浮遊させながら敵の懐に飛び込んだ。トロイライトが刀を振り上げる瞬間、水晶針の弾幕を空間を埋め尽くすように射出し、視界を塞いだ隙に急接近し、無事な左腕で刀の柄を押さえる。
「これさえ、奪えば……⁉」
刀を奪おうと力を加えるが、手に貼り付いたかのようにびくともしない。
「オ……レの……『核』に…………触るな」
「は……?」
トロイライトは左腕でルチルを殴りつけ、吹き飛ばした。
(あいつ……今、たしかに『オレの核』と言った。あの刀が核だと?)
咳き込みながらも起き上がり、ルチルは水晶針の弾幕を再び撃ち込む。トロイライトは刀を振るった余波で弾幕を打ち消し、攻撃のための斬撃を打ち出すため、再び刀を構えた。
トロイライトが斬撃を放つ直前、視界の外、斜め右後方から飛んできた槍のような水晶柱がその身体を弾き飛ばした。
空中で体勢を立て直そうとしたトロイライトだったが、身じろぎしようとする前に、その身体は予め地面に突き立てられていた水晶柱に叩きつけられ、仰向けに倒れそうになる。
「ナイスぅルチル。あとは私の仕事だ」
倒れまいと踏ん張るトロイライトの顎に、アメシストの飛び膝蹴りが突き刺さる。
耐え切れず脚が砕け千切れ飛ぶほどの威力に、重装のトロイライトとはいえ成す術無くナワバリの遥かに外まで吹き飛ばされ、二人の前から姿を消した。
「ぃよっ……しゃぁあー……! 勝てたぁー……!」
満足げに地面に転がるアメシスト。ルチルが足を引きずりながら近寄って来たのに気付き、アメシストは肩しか残っていない両腕をルチルに向けた。
「相棒ぉ、もう両手足無くなっちゃった。抱っこして抱っこ。私の事運んでー」
「……私の手足も相当限界なんだが……まあ仕方ないな。しかしこれ、『勝った』ってことで良いのか?」
抱え上げられながら、アメシストはからからと笑う。
「良いに決まってるじゃない! 私らの目的は、私らが死ぬ前にあいつを眼の前から一瞬でも退かすことだったんだから。ほら、戻ってくる前に私らもさっさと逃げてしまおう」
「了解」

0

Trans Far East Travelogue68

河井継之助記念館を見た後,昼食をどうしようか色々悩んだが越後名物のへぎそばに決定した。
その後,山本五十六記念館に行き彼が戦死した時に乗っていたとされる飛行機の翼の一部も見て長岡の名物で新潟県の代名詞とも言える甘味の水饅頭を食べることにした。
嫁が「そう言えばさっき、『映画の作中では五十六役の人は周りの人が驚くのを横目にバクバク食べてた』って言ってたよね?そんなに水饅頭って珍しいの?」と訊くので「まぁ,見てれば分かるよ。君も俺と負けないくらい甘党なんだからすぐに虜になるさ」と返して近くの甘味処に入り、注文した実物を見て嫁は驚いて無言になり、俺は「久しぶりに食うけどやっぱ甘くてうめぇなぁ…やっぱこれ食わねぇと長岡に来た実感湧かねぇや」と言って夢中で食べている俺を見て嫁も食べてみると完全に虜になった様子だ。
迎えが来るまでの間に名物・川西屋の酒饅頭と嫁が一つ残らず食べ尽くした俺の大好物,笹団子を買って今後の船旅で食べることにした。
そして,迎えの車が来てわざわざ運転していた松山の仲間が降りて来てくれたのだが,様子がおかしいので別働隊の他のメンバーに事情を訊くと,様々なハプニングが連続して乗船地の博多に向かう途中の松江から東京に引き返し東京から乗船することになり、免許を持っているのが1人しかいない関係で米子から休憩を挟みつつも1人でずっと運転してくれたとのことだ。
そこで,俺が嫁に「コンディションさえ良ければ,秘密兵器,見せてやりなよ」と伝えると「運転するのは良いけど,私,道分かんないよ」と言うので「大丈夫。高速乗ったら後は家族でドライブしたルートで覚えてるから俺が案内する」と返すと嫁が頷いてくれた。
他のメンバーも賛成してくれたので、ここからは運転席と助手席のメンバーを変えてドライブすることになる。
まだ沈むには早い西陽が信濃川の水面に反射して煌めいている。

0

Metallevma:GRANDIDIERITE Ⅷ

「この子はその辺で行き倒れてた身元不明者…」
ルビーがそう言いながら青緑色の髪のコドモに目を向けると、クリスタルはチッチッチと指を振る。
「その子はただの身元不明者じゃない」
そもそもその子はまだ誰も知らないの、とクリスタルは笑う。
「それってどういう…」
エメラルドがそう聞こうとした所で、クリスタルはこう言った。
「その子の名前は“グランディディエライト”」
わたしが作ったばかりの、最新のメタルヴマよとクリスタルは続けた。
「最新の、メタルヴマ…」
サファイアはそう呟きながら青緑色の髪のコドモに目を向ける。
他の皆も青緑色の髪のコドモに目を向けた。
「しかも、それだけじゃないの」
クリスタルは得意げに続ける。
「その子の特殊能力は“未来予知”」
どうでしょ、すごいでしょ?とクリスタルはウィンクする。
「どこの一族も、自分たちの陣営に欲しいでしょう?」
きっと、取り合いになるでしょうね〜とクリスタルは笑った。
「…」
一同は“グランディディエライト”と呼ばれたメタルヴマを見ながら沈黙する。

0

Trans Far East Travelogue67

嫁に長岡のイメージを訊いてみると「河井継之助しか知らん」と返ってきたので「残した言葉はカッコいいけど歴史に残る数々の行動で今でも賛否両論あることで有名な海軍の人も長岡出身だけど知らんの?」と念の為訊いてみると「東郷さんは…薩摩やし,従道さんも薩摩やろ…貫太郎とか?」と返って来たので「山本五十六なんだけど」と正解を出すと「五十六って…あの『やって見せ言って聞かせてさせてみせ褒めてやらねば人は動かじ』の人よね?あの人長岡だったの?」と返って来たので「だから映画で五十六役の役者さんが水饅頭という長岡の甘味を周りの人がその作り方に驚いているのを横目にこれぞお袋の味と言わんばかりに美味しそうにバクバク食べてたんだ。」と教えてやると「地方の食べ物についても知識あるの普通に凄い」と返って来たので「海外の鉄道ファンに日本の鉄道を紹介する動画と東日本の観光地の紹介動画の撮影でJR東日本と北海道の範囲は全て回ったからな。でも,九州は君の方が知ってる筈さ。」と返すと嫁が「任せといて」と言って笑ってる。
すると,仙台支社に移った同期から「今都庁の展望台にいるけど,東京土産はどうする?東京ばな奈で良いか?」とメッセージが来たので「せっかくだから、都庁のお菓子にしよう」と返事をすると知らぬ間に越後湯沢のホームに入線していた。
この列車は浦佐を通過する為、次の停車駅は目的地の長岡だ。
そして,嫁が「私,凄い人と結ばれたんだなぁ」と言っているので「まぁ,新宿のプリンスと呼ばれる位のイケメンだからな。赤坂とか麹町の人には敵わんけど」と冗談めかすと嫁が「貴方って見た目は史実のナポレオンと変わらんけど、中身はチャキチャキの江戸っ子で,しかも私のこと大切にしてくれるから大好き」と言って寄ってくるので軽く小突いてやり、すぐに荷物を纏めて下車し、駅を出ると福島江のせせらぎが聞こえ、見事に出口を間違えたことに気付き苦笑いを浮かべ,嫁は着いてすぐに箱買いした越後名物で俺の大好物の笹団子を呑気に頬張っていて気付いたら一箱が空になっている。
「俺の好物、四公六民の年貢でも半分こでも無ければ嫁に独り占めされてるよ」というため息混じりの呟きが駅のアナウンスと嫁の笑い声でかき消され、箱には団子を包んでいた笹の葉だけが残っている。