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白蛾造物昼下 前

とある大学の構内にて。
レンガ造りの年季が入ってそうな建物の一室で、1人の老女が椅子に座って机の上の書類に目を通している。
老女は白髪が多く髪は銀に近い色を呈しており、老眼鏡をかけているためだいぶ年齢を感じられたが、その瞳だけは鋭かった。
「…」
老女は暫く書類を眺めていたが、不意に顔を上げて部屋の開きかけの扉を見た。
「いつまで隠れているんだい」
ピスケス、と老女は扉に向かって声をかける。
「うふふ」
気付いてたのねと言いながら、青い長髪に白いワンピースを着たコドモが扉の陰から室内に入ってきた。
「気付かない訳がないじゃないか」
一体何年アンタと付き合ってるんだい、と老女はムスッとした顔をする。
「ふふふ」
ちょっとお取り込み中かと思って、とピスケスは笑った。
「…なに」
別に、仕事中に入ってきたってアタシは怒らないさと老女は書類に再度目を落とす。
「ふーん」
ピスケスは静かに頷いた。
「…それで、アタシの仕事場に来たってことはなにか用でもあるのかい?」
老女が書類を見ながら呟くと、あら、察しが早いわねとピスケスは驚く。
「まぁ、いつものことだからね」
老女はそう言って書類をテーブルの上に置いた。
「…それで、なんの用かい」
老女は鋭い目をピスケスに向ける。

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自転車のライト、坂道、交差点

なりたいわたしの姿とともに
あの半月を じゅっと 瞼に焼き付けたい

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ここで一句 川柳

秋なしに
来る冬うけて
秋の実や
ひとつ木の上
秋来ぬと思いて

木の実があきになって、落ちるのを待っている。だが、今年の秋はあったかわからず、すっかり冷え込んでしまった。木の実は、季節に取り残された切なさと、戸惑い、驚きを表現した

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とある小説について。 No.6

連絡先を交換し、帰路についた俺。
正直、「ナンバー10」としての仕事などどうでもよくなってきていた。
元々、上司への復讐から始まった仕事だ。
いつ辞めようと、誰の知ったことじゃない。
それに、今は惰性で生きているようなものだ、一日位停止したところで...
と、よく分からない持論を展開しようとしたところで家に着く。

「ただいま〜」

なー、と、飼い猫のテトが優雅に現れた。
テト。俺の唯一の家族。誰もテトのことは知らないが、何か飼っていることはばれている。もうしばらく黙っておく予定だ。

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深夜の珈琲占い No.5

伏せた僕たちの頭上を通り抜けたのは、小屋程ある巨大な氷板だった。
そして、僕の上に降ってきたのは。

「マスター⁈」

彼女の髪だった。
腰まであった群青色の髪は今や、肩につく程短くなっている。

「...チッ」
「マスター!大丈夫ですか⁈」
「大丈夫だよ怪我はしてない。髪の毛ならまた伸びるしね。」

そう言う彼女の全神経は、目の前の巨獣、クリアウルフに注がれていた。
先程の氷板の二倍はあろうかという巨獣が、二体。
どちらも緑色の目で、こちらを見つめている。

「あれが今回の...!」
「うん。そうだよ。とりあえずさがり給え、君まで巻き込みかねない。」

そう言うと、彼女は呪文を唱え始める。

「マスター、まさかそれ...!」

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かんたんなことさ

かんたんなことば 重ねて
ノートにひとつ ふたつ みっつ

きみのこと想い つかれて
つくえに隠す そっと そっと

かんたんな言葉にしてよ
小説読むの苦手なの
一方的な愛情でいいから

小説読むの苦手だもん
簡単なことなら聞けるから
なんだって ひとつ ふたつ みっつ

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眠れない夜

眠れない、眠れない。そう呟いた。
忘れたい出来事が多すぎて、世の中に揉まれ過ぎて、僕は疲れてしまった。
目を瞑ると、聞こえてくる僅かな車の音が
海底の砂の囁きに聞こえて、海の中に溶け込んでいるみたい。

日々の騒がしさから離れている真夜中の時間は、
私にとって海にいるようなかけがえのない時間。

こんな時間を用意してくれた人、ありがとう。

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横暴狩り その③

ひと気の無い裏路地に、青年を先導するように湊音は入っていった。行き止まりの手前で立ち止まり、両手を広げて青年に振り返る。
「さあ、ここなら邪魔も人目も無い。常識知らずの君に、胸を貸してあげる」
言った瞬間、湊音の胴体は袈裟懸けに両断されていた。
(……なるほど。初手はそう来るのか)
急速に死に向かう中、湊音は冷静に思考を巡らせ、異能を発動した。世界が一瞬歪み、すぐに晴れる。そこには、青年の最初の斬撃を地面に伏せるようにして辛うじて回避した湊音の姿があった。
「……あ? 完全な不意打ちだったろうが……何故生きてやがる?」
「うん、完璧な不意打ちだった。死んだかと思っ」
言い終わる前に次の斬撃が放たれ、湊音の首が刎ね飛ばされた。しかし再び歪みが発生し、やはり湊音は身体を反らすようにして回避していた。
「クソ、ぜってえ捉えたと思ったのに……面倒くせえ!」
青年が駆け出し、体勢を立て直した湊音の首を左手で乱暴に掴み、締め上げた。
「どうやって避けてるのかは知らねえけどよ……これでもう躱せねえよなァ⁉」
「っ……これは、やられたな」
青年の右手が振るわれ、再び湊音は首を切断された。

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失望

自販機の裏にウサギを飼ってた
公園の滑り台の色は
こないだ 赤色に変わってた

夕陽の匂いがしそうさ
電車の中 頭痛持ちの
君のこと少し気がかり

あれから 何年経っても
傷一つ いやされない
息をするたび すりきずに
Co2が噛みつくから

自販機の裏にウサギを飼ってた
公園のブランコの近くに
こないだ 蜂の巣ができてた