それから1週間後。
わたし達は寿々谷公園の入り口にいた。
公園の入り口には”寿々谷市民まつり”と書かれた空気を入れ続けることで膨らんで直立するゲートが設置されており、その入り口を多くの人が通って行った。
「…メイ、遅いな」
耀平が思わず呟くと、だなと師郎はうなずく。
「迷子になっているのか、それともと言った所だな」
師郎もついそうこぼす。
「…大丈夫」
大丈夫だよとネロは自分に言い聞かせるように言いながら顔を上げる。
「メイは、あの子は、そんなに弱くないから」
もしかしたらすでに異能力が発現して、奴をぶっ飛ばしてるかもしれないし、とネロは明るく笑う。
「…」
わたし達は思わず沈黙する。
「だから大丈夫だいじょ…」
ネロがそう言いかけた所で、すぐ側からどうしたのネロ?と声が飛んできた。
ネロはメ、メイ⁈と飛び跳ねる。
「ん〜…」
桃は目覚まし時計を手繰り寄せ、止めないまま起き上がった。
「桃ち今日早起きじゃん!珍しいね」
「ああ…火曜日…おはよぉ…」
桃の目の前には、大きな尻尾をばたばた振りながらこちらを見つめてくる緋色の狸っぽい妖精がいた。その姿を見て、桃は意識を覚醒させながら時計を止める。
「いやぁ‥昨日さぁ、月曜日提出の課題忘れちゃってめっちゃ怒られたんだよね…」
「え〜!月曜日教えてくれなかったの?」
「うん…昨日までにやっとかなかったお前が悪いんだろーが!とか、課題の管理くらい自分でしろ!って言われちゃってぇ」
「ん〜そーゆーとこあるよね、あいつ!あたしの尻尾ほわほわする?」
「するー!ありがと火曜日!」
「うん!課題がんば〜♪」
火曜日の尻尾をもふもふしながら桃は必死で課題を終わらせた。
「明後日の土曜日、空いてるかい? いつでも良い、またこの場所に来ておくれ。出会えたら君にも手伝ってもらうとしようかな」
種枚さんは別れる直前そう言った。
そして、今日がその土曜日だ。
「やァ君、本当に来てくれるとは嬉しいよ」
午前8時頃、あの場所に到着すると、数秒も待たないうちに種枚さんの声が背後から投げかけられた。
振り返ってみたけれど、彼女の姿はそこには無い。
「しかし随分と来るのが早かったじゃないか」
また背後から声が。自分の振り向く動きに合わせてまた回り込んだのだろうか。
「……ありゃ、せっかく前に出てきてあげようと思ったのに」
違ったみたいだ。改めて自分の前に種枚さんが現れる。
「さてあらためて。本当に来てくれてありがとうね」
「あ、はい。それは良いんですけど、人探しって急ぎじゃなかったんですか?」
「あー、良いの良いの。どうせアイツ、私が探そうとして見つかるような奴じゃないし」
探して見つからない人を探そうとしていたのか……。
「それで君にやってほしいことなんだけど」
「あっはい」
「君には囮になってもらうよ」
寒くなってきたから
ココアが美味しく感じるね
寒くなってきたから
部屋があたたかく感じるね
寒くなってきたから
誰かを恋しく感じたよ
あなたを恋しく感じたよ