「あれ、どうしたの耀平」
何かあったの?とわたしは聞いたが、耀平は黙ってそっぽを向いた。
「どうしたの?」
わたしが再度聞いた時、ははーんと笑いながら師郎が耀平の肩に手を置いた。
「お前ネロが他の人といちゃいちゃしてるのが許せないんだな~」
師郎がそう言うと、耀平はち、違うし!と自分の肩に置かれた師郎の手を払う。
「別に、ネロを独占したいとかそういうのじゃ…」
「俺そこまで言ってないぞ」
「うるせー‼」
師郎からのいじりに耀平が反論し、わたし達は思わずふふと笑う。
ネロとメイはその様子を見て、笑みを浮かべながらわたし達の方へ近寄った。
〈18.メドゥーサ おわり〉
「おはよう、“ロード”」
能力によって展開された触手で埋め尽くされた狭い地下空間。その奥底で1人のモンストルム“クトゥルー”は相方に声を掛けた。
「おはよう、“リトル”」
触手に埋もれて眠っていたもう1人のモンストルム“カナロア”も目を覚まし、相方に挨拶を返した。
「今日の早起き対決はきみの勝ちか。これで何勝何敗だっけ?」
「10回より先はもう覚えてないよ」
「そっか」
2人の肉体は、能力によって各々の肉体から伸びる無数の触手が絡み合い、一つになっている。2人の意思は触手を通して音声言語を必要とせずに共有できるのだが、それでも敢えて、口に出してのコミュニケーションを意識していた。
2人が幽閉されている地下空間には、既に数年もの間、IMS職員も訪れていない。ただ定期的に、給餌用の小さな扉を通して食料と水が届けられる、それだけが外界との繋がりである2人にとって、発話を介するコミュニケーションは人間性を失いただの化け物に成り果てないためにも必要な行為だった。
「………………」
クトゥルーは数十m先に地表があるであろう天井を見上げ、触手を通してカナロアに意思を飛ばした。
(“ロード”、今日は何だか上が煩いね?)
(そうだね。ここに来てから初めてくらいの五月蝿さだ)
(もしかしたら、出番があるかもしれないね)
(そうだね)
2人が念話をしていると、天井がスライドし、金属製の格子と遥か上方に僅かに見える外の光が現れた。
「やっぱり『ぼく』の出番だ」
「うん。『ぼく』の力が必要なんだろうね」
無為に地下空間を埋め尽くしていた無数の触手が、整然とした動きで解かれ、格子の隙間から地上へと向けて高速で伸長していく。
「「平伏せ。『我』は水底の神なるぞ」」
完全に重なった二人の言葉の直後、無数の触手が地上に出現し、交戦していたインバーダ、IMS、モンストルム、それら全てを隙間ない奔流で飲み込み、叩き潰した。
「思ったより数があったね」
「うん。一応人間は潰さないようにしたけど……もしかしたら『ぼく』以外のモンストルムが戦場にいたかもしれない」
「別に良いよ。モンストルムならこの程度で死ぬわけが無い。これで死ぬならどの道インバーダには勝てないよ」
「そうだね」
天井が再び閉まり、2人は触手の中で眠りに就いた。
先んじて飛び出したククルカンの身体にあとの2人が掴まった状態で、ククルカンは愛用の武器を展開した。折り畳んだ状態では1m弱の長さでありながら、展開することで3m強の長さにまでなる長槍。
それを、自身の真横を下から上へ流れる高層ビルの壁に突き刺すと、ビルの表面が粘土のようにぐにゃりと変形し、3人を優しく包み込んで受け止めた。そのまま、エレベーターのように地面まで下りていく。
「はいとうちゃーく。みんな私に感謝して?」
「はいはい」
「してるしてる」
ククルカンより年上に見える少女のモンストルム、蛟(ミズチ)と、幼さの消えつつある少年姿のモンストルム、ラムトン=ワームは適当に返した。
「我らがリーダーはまだ来ねえのか……っと」
ラムトンが2歩、右に避ける。すると先ほどまでラムトンが居た場所に、少年のモンストルム、サラマンダーが音も無く着地した。
「サラちゃん隊長! サラちゃんは私に感謝しなくて良いよー」
「あーうん。くーちゃん2人を運んでくれてありがとう」
「あれー感謝のことばぁー?」
照れながら身体をくねらせるククルカンを無視して、サラマンダーは大型インバーダを見上げた。
「……いやしかし、デカいな」
「ここまでだとたしかに、モンストルムの出番だよなァ……」
半ば唖然としているサラマンダー、ラムトンに反して、ククルカンとミズチは既に武器を取り交戦する気満々という様子だった。
新年と言うことで、僕から企画開催のお知らせです。
その名も、「人外人間譚」。
ホラーやギャグ、コメディー等、ジャンルは問いませんので、人外と人間のお話を書いて下さい。
期間は今年12月1日迄です。
参加作品は、タグに「人外人間譚」と付けて下さい。
長さ、形式、数は不問です。
奮ってご参加ください!
やたろう
概要
内容/人外と人間の話
期間/2024年12月1日
指定タグ/「人外人間譚」
備考/長さ、形式、数、不問
「マスター!大変ですよ!」
「何だい?君、朝から元気だね。」
そう言うと、少女がベッドから身を起こす。
彼女の名はリンネ。
この町で唯一の魔導士であり、僕、ミル・ロットの師でもある。
「この前駆除したエリアに、またクリアウルフが出たって...!」
「またかい?えー、面倒くさいなぁ...。」
「今、近くの住民が避難してるって...!」
「...‼︎」
彼女は飛び起き、杖を一振りした。
あっと言う間に、僕も彼女も何時もの仕事着に着替えていた。
「行くよ。」
「はい!」
種枚さんに連れられて市民センターへと向かい、ロビーに設置されていたベンチに腰掛ける。彼女は自分の目の前に立ち、摘んでいたハエを手放した。ハエはしばらく彼女の手の上を這い回ってから、飛び上がった。
十数㎝ほど上昇したのを見てから、種枚さんはハエを鋭く睨んだ。すると、突然ハエが、電源が切れたかのように動きを止め落下した。
「一体何を……⁉」
「ん? そうだな。殺意を向けられればストレス感じるし、ストレスを感じれば体調悪くなるだろ?」
「まあ、そりゃそうですけど……」
実際、彼女の殺意はそれだけで人を殺せそうな凶悪さをしているけれども……。
「それ」
「?」
「殺意を練り上げて、ぶつける。かわいそうだけど今のハエには死んでもらったよ」
「ええ……」
「慣れれば攻撃に乗せることもできる」
「どういうことなんですか……」
この問いには答えず、真横に向けて指を差した。そちらを見ると、センターの奥に小さな人影が見える。よく見てみれば、足下が透けている。
「あそこに小さな幽霊が見えるね?」
「見えますね」
「あれを、こう」
幽霊に向けて、種枚さんが無造作に手を振る。すると幽霊がこちらに気付いたのか、振り向いてこちらに向けて近付いてきた。