表示件数
0

ハブ ア ウィル ―異能力者たち― 19.チョウフウ ⑱

「それ良いな」
「じゃあお願い!」
耀平とネロはそれぞれそう言うと、師郎は黎に行くぞと言ってその場から離れた。
3人だけになったわたし達は暫くチョウフウを追いかけたが、やがて彼女が十字路の真ん中で立ち止まったのでわたし達も足を止めた。
「ちょっとあんた達、しつこくない?」
いつの間にか異能力を使う事をやめていたチョウフウこと穂積はそう言って振り向く。
「そういうのメーワクなんだけど」
「それはこっちのセリフだよ!」
アンタがしつこくボクらを追ってたせいでヴァンピレスに狙われてたんだぞ!とネロは怒鳴る。
「そんな事言われても…ねぇ」
穂積は困ったような顔をするがネロは気にせず続ける。
「ええい!」
いっその事アンタを…とネロは具象体の大鎌を出した。
しかし穂積は十字路の右に伸びる道へ向けて走り出そうとする。
だが彼女の進行方向から彼女の頬をかすめるように空のペットボトルが飛んできたことで彼女の動きは止まった。

0

架空ボードゲーム『七つ全部集めると』

私の通う学校には、当然のように『学校の七不思議』がある。やれ音楽室の何某、やれ理科室のどれそれ、やれトイレのナントカ、そして“七不思議を全て知ると恐ろしいことが起きる”なんていうものも。

―――ところで。
「七不思議を全て知ってはいけない」
これは『七不思議の一つ』たり得るだろうか。
それは『七不思議』における単なる“ルール”ではないか。“エピソード”に足るものとは言えないのではないか。

しかし、周囲の人間に聞いた限りでは、どれだけ探しても「七不思議を全て知ってはいけない」を『含めて』七つしか見つからない。

さて、この“エピソード”が“ルール”だったと仮定しよう。
その場合、『本当の七不思議の七つ目』とは何なのだろうか。
“ルール”が定める以上、知ってはいけないのだろう。それでも、危険な好奇心が抑えきれない。
他学年の人に聞いてみたらどうだろう。教職員は何か知っていないか。資料や書籍に何か残っているかも。
そうだ、今年の自由研究のテーマは、「我が校の七不思議を探る」で行こう。

0

少年少女色彩都市某Edit. Passive Notes Walker その②

「失礼します! さっきの大きい音、何があったンスか!」
ノックも無く扉が勢い良く開き、学校制服風の衣装に身を包んだ背の低い少女が飛び込んできた。
「んぃや、椅子をひっくり返しただけだ。何も問題は起きてねェ。……お前が臨時のバディか」
椅子を立て直しながら尋ねるタマモに対し、少女は背筋を伸ばしはきはきと答える。
「はい! 自分、魚沼理宇といいます! 大晦日のタマモ先輩の戦い、胸を打たれました! 先輩に憧れてこの世界に入りたいと思い、それで先日、遂にリプリゼントルと相成りまして……まだまだ新米ではありますが、先輩を守るフロントとして精一杯努めますので、どうぞご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」
「元気だねェ…………あン? 前衛なんだよな?」
「え、はい」
「『俺の戦い方に憧れて』リプリゼントルを目指したんだよな?」
「はい! タマモ先輩の正確なテンポ取りとソフラン操って相手のペースを崩すテクニック、惚れ惚れしました!」
「そうかい。……ア? どこで見たんだ?」
「え、ネットに流れてましたよ? 監視カメラ映像でしたね」
「そッかー……」
改めて椅子に座ったタマモに促され、理宇も向かいの席に恐る恐る腰掛ける。
「そうだ、これはどうでも良い雑談なんだがよォ」
「ハイ何でしょう」
「お前は、何の才でリプリゼントルになった?」
「ハイ! 音ゲーです!」
「……音ゲー? スマホか? ゲーセンか?」
「後者ですね。音ゲープレイは演奏であり、舞踊であり、たった一つ肉体動作の最適効率を求めるパズルであり、ネタと電波を昇華する前衛芸術でもある、ギークとストリートが生み出した複合芸術なんですよ!」
「へェ……。お前とはなかなか気が合いそうだ」
「やったー! 光栄です!」
「うん。まあ前衛やってくれるんなら助かる。さっさと行こうぜ。芸術が飽和したこの街じゃ、あの文化破壊者共はすぐ湧いてくるからな」
「了解です!」

2

**

両手から**がこぼれおちる

**が数倍速でカウントしていく

でもおちゆく**は床にたまり続けていく

**はこれからの**に生かされる

でもそんな余裕があるほどいい**を送れてはいない

だけど

**をふみしめて

明日へ

1

少年少女色彩都市・某Edit. Passive Notes Walker その①

「……あー、マイクテス、マイクテス。タマモノマエのー、アジテイションレイディオー。わーぱちぱちぱちぱち」
椅子に掛けてテーブルに足を掛け、後ろの二脚を支点に椅子を揺らしながら、タマモは無感情に虚空に向けて独り言を放っていた。
「俺はぶっちゃけサポーターの方が楽なんだよ。だから相棒……ロキがいねえとエベルソルとの戦闘に当たってそこそこ困るわけなんだけどさァ……いやロキもサポート向きだから相性自体は微妙なんだけど」
向かいの席に目をやる。普段ならロキがいるはずのその場所は空席だった。
「えー……ロキの奴は現在、高校入試に向けて受験勉強が佳境に入っているので任務には参加できないそうです。俺が中3の頃なんて、ろくに勉強してなかったぜ? 勉強しなくて良いように行く高校のレベル調整してたから。……閑話休題。だからフォールムの偉い人にさ、俺1人じゃただの役立たずのクソ雑魚なんで誰か臨時のバディくださいって頼んだわけよ。ガノ以外で。俺あいつのこと嫌いだし」
言葉を切り、ドアの方に目をやり、すぐに天井に視線を戻す。
「まァ…………一応俺の提案は認めてもらえてさ。何か、前衛向きの奴寄越してくれるって話だったんだけどさ」
壁掛け時計に目をやり、溜め息を吐く。
「……まだ来ねェ…………んがッ」
バランスを崩して椅子をひっくり返し、床に投げ出される。
身を起こそうとしていると、慌ただしく駆ける音が扉の向こうから近付いてきた。
「ん、やっとか」