「とりあえず大人しくしてて。話は放課後ゆっくり聴くから。」
「はい...。」
あれだけ騒いだ割にあっさり撃沈する葉月。
あくまでも桜音の指示には従うつもりの様だ。
桜音は教室に入ってからも、
気が気でない、という様子だった。
「今日から転校生が来るからな、仲良くする様に!」
担任の言葉に沸き立つクラス。
(今すぐ帰りたい!!!)
あの少女に今日一日付き纏われたとあれば、
注目されるのは確実だ。
目立つ事。
それだけは避けたかった。
「目立つ」それは、今まで桜音が最も忌避してきたものである。
しかし、
「初めまして、成斗市立第3中学校から来ました、
秋山葉月です。宜しくお願いします。」
思わず口が開く程あっさりとした挨拶だった。
口調も、先刻の武士の様な堅い口調から一転、
何処にでも居るであろう「普通の中学生」そのものだった。
「席は...狐灯(ことう)の隣りだな、分からない事あったら聞けよー。」
(隣り⁉︎)
おそらく、側から見てもわかる程驚いた顔をしたのだろう。
担任は苦笑し、
そこしか空いてないからな、と付け加えた。
そこしか空いてない、と言うよりかはそもそも隣りの席など無かった。
桜音の席だけ、長方形に小さな正方形をくっつけた場所の様に孤立していたのだ。
少女は既に数十度目に達していた攻撃を終え、再び怪異から距離を取ろうとした。しかし疲労の蓄積は少女自身の想定以上に大きく、後退ろうとした両足から力が抜け、その場に尻もちをついてしまう。
「っ……!」
刀で身体を支え立とうとしたが、肉塊怪異は既に眼前まで迫っており、彼女の足の状態で回避できる段階は過ぎ去っていた。
せめて直接の衝突は避けようと、刀を盾として目の前に突き出し、無意識に両目をきつく閉じ、身体を強張らせる。
しかし怪異が衝突する直前、少女の目の前、まさに怪異が迫って来ていた方向から突風が吹き付け、彼女は吹き飛ばされるままに地面を転がった。
予想していたのと異なる挙動に、少女が恐る恐る目を開くと、肉塊怪異は移動に用いていた短い手足を忙しなく動かし続けていたものの、その移動は完全に止まっていた。
「あ……あれ……? なんで、止まって……」
呆然と怪異の様子を眺めていた少女だったが、すぐ思い出したように周囲を見回す。突風に巻かれた際に取り落とした日本刀は、手を伸ばして届く程度の距離に転がっており、すぐに回収してよろよろと立ち上がる。両脚には既に力が殆ど入らない状態ではあったが、アスファルトに突き立てた刀に寄りかかるようにして、辛うじて怪異の前に立ちはだかる。
(……なんでか分からないけど、アイツの動きは止まったし、私の脚もまだ、ギリギリ動く)
頽れそうになる脚を気力で無理やり動かし、数歩、怪異に近付く。
瞑目し、深く息を吐き、短く息を吸い、再び目を見開く。そして杖にしていた刀の柄を両手で握りしめ、大きく振り上げ、怪異に突き刺そうとした。
「……ッ⁉」
しかし、支えを失ったことで膝の力が抜け、姿勢が大きく崩れる。そのまま倒れ込むかというその時、斜め下後方から吹き上げた突風が、少女の身体を強引に立ち上がらせた。
結果、刺突の勢いは衰える事無く、肉塊怪異に深々と刃が突き刺さった。
怪異は悲鳴を上げるかのように全身を震わせ、身体を激しく上下左右に振り、一度大きく仰け反ってから、再び地面に突っ伏し、動かなくなった。
徹夜までして丸二日かけて制作した動画を動画投稿サイトにアップロードし、一仕事終えた達成感で大きく溜息を吐いた。
すっかり冷たくなった缶のカフェオレを飲み干し、大きく伸びをして、何となく辺りを見回す。フォールム本部の休憩室の一つを借りて、第二の作業場として使わせてもらっている、自室以外ではほとんど唯一と言って良い、安心できる居場所だ。
別に対人トラブルがあるわけじゃない。そんな物が無くたって、身内以外の人がいる場所が何となく苦手だってことはあるでしょう?
……そういえば名乗っていなかったっけ。ネット上では『雨野ぬぼ子』の名前で3Dアニメーションの動画を投稿していたりする、彩市在住1X歳のリプリゼントルです。同業のみんなからは『ぬぼ子』の名前で呼んでもらっています。本名っていう個人情報を明かさなくて済むのは有難い。
安心して少しずつ眠気を思い出しつつある頭でぼんやりとスマホのSNSアプリをチェックしていると、メッセージアプリの通知が出てきた。
『ぬぼ子さん、今本部にいますよね?』
同業者……リプリゼントルの1人だ。たしかこの子は少し前になったばかりの割と新人さんだったっけ。
『いるよー』
手短に返信する。
『これからエベルソル退治なんですけど、サポートお願いしたいんですが』
これは困った。今、眠くて仮眠取ろうとしてたところなんだけど……。
まあ、新人さんが力を付けるまでのお世話も、先輩の仕事の一つだし。電源マークをちょっぴり豪華にしたような魔法陣をぱぱっと描き上げ、変身した。
『OK!』というスタンプを送り、休憩室を出る。途中、自販機でエナジードリンクを購入し、飲みながら本部を出た。
どうも、テトモンよ永遠に!です。
先日、3月4日をもちまして、「ハブ ア ウィル ―異能力者たち―」は連載開始5周年を迎えました~!
いやーめでたい(?)ですねー。
これもひとえに皆さんのスタンプやレスのお陰です。
いつもありがとう。
さて、今回はまたですが近況報告をしようと思います。
とにかく最近はてんやわんやでした。
「連載再開2周年記念! 作者からのごあいさつ」でも言った通り、ウチのばーちゃんが生死の境をさまよってたりしましたが、2週間くらい前の日曜日にとうとう亡くなってしまいました。
それで今週の月曜日は葬儀でして、「ごあいさつ」を書き込むことをすっかり忘れてたんですよね…
まぁ無事に見送れたし、「ごあいさつ」も書き込めてるのでよしとしましょう。
あと歳の近い妹が某藝大の受験のため頑張っています。
とりあえずこの間一次試験を突破したので明日あさってで二次試験に挑むそうです。
ぼくは隣で美術予備校や藝大受験の話を聞いてやることしかできないけど、本番の空気に飲まれないでほしいなぁと思ってます(彼女のことだから大丈夫とは思うけど)。
…と、いう訳で今回の「ごあいさつ」はここまで。
次は「20個目のエピソード記念! 作者からのごあいさつ」でお会いしましょう。
ちなみに今はその20個目のエピソードを作りかけで放置してます(笑)
実は「よその小説投稿サイトみたいな所にも自作の物語を載せてみたい!」と最近思ってそっち用に物語を書いてる内に「ハブ ア ウィル」とか「造物茶会シリーズ」の執筆作業がちょっとおざなりになってたんですよ。
「造物茶会シリーズ」は1エピソード分の書き溜めがあるので大丈夫なのですが、「ハブ ア ウィル」の新エピソードは途中で止まっているのです。
一応新エピソードの話の流れはできてるので、あとはそれをアウトプットするだけなんですけどね。
まぁ無理せず頑張ります。
ではこの辺で。
テトモンよ永遠に!でした~
「あんまり待たせないでほしいなぁ……そうだ」
青年は長剣を床の上に放り出し、別のものを手に取った。干からびた枯れ枝のようで、先端は4つに分かれ尖った白い何かが貼り付いている。
「これ、この間あなたの同類から貰ってきたんですよ」
「『奪ってきた』の間違いじゃねえか?」
悪魔氏の返事に彼の方を見ると、頭も両脚も既に完全に再生していた。
「もしかしたらそうかも。まあそんなことはどうでも良くって。同類の腕に切り刻まれるのって屈辱的な気分じゃありません?」
「……いやァ? 俺は別にそーいうの気にしないタイプだしなァ」
「そうですか。じゃ、やりますね」
「バッチ来ぉい」
青年はその枯れ枝……悪魔の腕の爪を用いて、悪魔氏の頭、肩、腹、腿、腕と次々斬りつけていった。血飛沫と内臓が悪魔氏の身体から飛び出していくにも拘わらず、悪魔氏は平然として笑っていた。
「ふーむ……天使の武器も駄目。悪魔の爪も駄目」
「ソラお前、首も心臓も丁寧に外すんだからこっちも何の心配も無く受けられらァな」
「どうすれば本性表してくれます?」
「これもまた俺の本性だよ」
「そう言うの良いんで。……けど困ったなぁ…………あ、そうだ」
青年が腕から長剣に持ち替え、こちらに顔を向けた。
「同じ地上に住む者同士、仲良くしておくれ」
彼の考えに気付く前に、長剣の刃が私の首に迫っていた。
父親から言われた言葉があります
面白い話を聞いてて『なに笑ってんだ?』と罵られました
・・・またやっちゃった私は
そうだった私の笑顔は醜かったんだ
笑うから怒られるんだ
醜いから怒られるんだ
「本日の審議はこれまでとする」
議長のその一言に異を唱える者はいない。誰もこの議会に意味を求めていないことはとっくに明確だ。
「今日はどこだったっけ?」
「知るかよ軍部の話なんか」
議事堂の廊下は三股に分岐していて、議会が終わると種族に別れてそれぞれの方向へ帰るのがお決まりだ。
「先日の負傷者は?」
「既に3桁を越えたとの報告が、MIAも含めるとさらに…」
この分岐点は机上の空論を絵に描いたように現場とはかけ離れた会話が飛び交っている。
「1次避難所の首尾は?」
「野良の装甲ですが、奴らの権能には十分耐えうるものになっています」
世界では天使と悪魔の戦争が続いている。人間は両種族の奴隷として軍備や援護をさせられ、いつしかそれに疑問も持たなくなっていた。
「レイ、いつまでこんな議会にこだわるつもりだ」
議事堂を出たところで声をかけてきた男の名ははムーラ。彼はレイの幼なじみであり先代の議員の息子だ。
「さぁな、せめてこの戦争が終わるまでかな」
「それが俺たちにどうこうできることじゃないのはお前の方がよく知ってるだろ」
確かに彼の言うことは事実だ。議会にいる立場では軍部に物を言うことは出来ないし、世界の実情が戦争によって多くを決しているのは否定できない。
「そうだな、でも全く変わらないってわけでもない」
「だからぁ!小さな変化じゃダメなんだよ!」
はぐらかすように軽く返したレイに対してムーラは血相を変えてレイの胸倉を掴んだ。
「離せよ…」
レイの声色は先程と違い重いものだった。ムーラも思わず手を離してしまう。
「とにかく、レイもそろそろこっちに合流してくれ」
彼がココ最近来る理由はこればかりだ。独立した人間の蜂起軍を結成するとの事らしい。
「すまないがそれは出来ない」
「何故だ?なぜそこまで議会にこだわる?」
「ムーラこそなぜ武力にこだわる?武力で抑え込んだところで同じことの繰り返しだ。たとえ今人間の手で戦争を終わらせられたとて、この軋轢はそう変わりはしない」
「それでも…このままよりはいい」
その言葉は人間の苦痛、怒りを込めたようでレイも返すことが出来なかった。
季節外れの雪が降った
いつもならこんな時期に雪なんて降らない
なんで そう思ったけど何となく意味が分かったよ
雪を落とす重く、暗い雲の隙間からさす一筋の光
この景色を私に見せたかったんだよね
この光がどんな意味であれ“楽にする”には変わりない