かすみが喫茶店が入る建物の1階の喫茶店に降りてすぐ。
かすみはカウンターに置いてある食器類の整頓をしている。
店の奥で開店の準備をしている主人を待ちながら、かすみはいつものように作業していた。
…と、上の階からガタンッと大きな物音がした。
「え」
かすみは思わず顔を上げる。
まさかと思いつつかすみは店の奥へ向かい、階段を駆け上がる。
そして勢いよく物置の扉を開けた。
そこには箒を持った明るい茶髪の少女と蝶が象られた大鎌を持ったゴスファッションのコドモが、それぞれが持つもので鍔迫り合いをしていた。
「ちょ、ちょ、ちょっ」
2人共⁈とかすみは声を上げる。
「何…して」
かすみがそう言いかけて、ゴスファッションのコドモがかすみ!と振り向いた。
「コイツ、どこのどいつなんだ‼︎」
ゴスファッションのコドモもといナツィはそう声を荒げる。
「何よ“どいつ”って、失礼じゃない‼︎」
わたしはただここにいさせてもらってるだけで…!とエマは箒でナツィの鎌を押す。
「…でも、ぼくのかつての戦友に手を出そうとする奴は許せないなぁ」
サタンはそう言って右の人差し指を茂みの中に隠れていた天使に向ける。茂みの中にいた天使は驚いて身構えた。
「貴様、何を…⁈」
その天使が言い終わる前にサタンの指先から閃光が放たれる。その光は天使の胸元に向かって真っ直ぐ伸び、天使を一気に吹き飛ばした。
「なっ⁈」
他の天使たちは驚いて後ずさる。吹き飛ばされた天使は大木にぶち当たりうっとうめいて気絶した。サタンはちらと他の天使たちの方を見る。
「…その権能、まさか⁈」
天使たちが弓矢を構えると、サタンはうへへへへと笑う。
「そう、そのまさかさ」
サタンはそう言って指先を向けるとそこから光線を撃ち出す。天使たちはバッと飛び上がってそれを避けた。光線は近くの木々にぶつかりその表面を焦がす。
「なんでコイツがこんな所に⁈」
「おいおいマジかよ…」
「とにかく、やるよ!」
飛び上がった天使たちは口々に言いながらも弓矢を構える。しかしサタンはニヤリと笑って右手を天使たちに向けた。
「このぼくに立ち向かおうとはいい度胸だね」
…それでも、とサタンは指先を光らせる。
「君たちに、負ける訳にはいかないんだ!」
サタンはそう言って指先から光線を撃ち出す。光線は空中で3つに枝分かれして天使たちの心臓近くに当たった。
光線を喰らった天使たちはそのまま力なく地面に落下する。サタンはその様子を見届けると、いつの間にか人間態に戻っていたアモンの方を見た。
君はいつも笑顔だ
誰にたいしても優しい
聡明な知恵を持っており
ときにその力は皆を助けている 魅了する
君はいつも笑顔だ
弱音をはいたところを見たことがない
強い心を持った人だ
大地のような暖かな人だ
「あ、あぁあ、あの…」
僕の戸惑った声はお二人に聞こえていないようだ。大声で喧嘩するから、まわりの天使達も集まってきてしまっている。やむを得ん、権能を使おう。
『やめてください!!』
キーン…耳がちょっと痛くなった。
僕の権能は、ほぼスピーカーと同じだ。しかも片羽になったせいで本当にその辺のスピーカーと同じくらいの力しか使えない。…けど、今は役にたったらしい。
「…そ、そうね、ちょっと冷静になりましょ」
リリィ様が頭を押さえながら離れると、アーサーさんも不満げなため息をついて離れた。
「あ、そういやお前名前は?」
アーサーさんの猫っぽい瞳が僕を見つめた。
「え、あの、羽あった頃と今じゃ名前が違…」
「お前はなんて呼んでんの?」
「ティノちゃん」
「は?ちゃん付けとか」
「なんか文句あんの!?」
またお二人がカリカリしだした。仲が良いんだか悪いんだか…。
「うさぎさんはこっちにおいでー……」
うさぎさんを左手に抱え、もふもふを堪能しながら直方体を生成する。
「ちょっとインスピレーション、湧いてきたなぁ。少し工夫してみようか」
直方体を薄っぺらく潰し、長ーく引き延ばし、先端を尖らせて、おまけに柄も付けちゃう。そうだ忘れてた。側面は斜めに削って……。
「はい完成、ちょっと雑になったけど強そうな大剣。くらえー」
回転させながら射出したそれは、上手いことエベルソルの肩の辺りに突き刺さった。
「次はー……こんなのはどうだろ」
新しく生成した直方体を、今度は思いっきり細長く引き伸ばす。頂点を増やし、形を微調整しながらできるだけ綺麗な円柱に仕上げ、先端にもう一つ小さな直方体を引っ付けて、少しこねくり回して……。
「よしできた。ジャベリン、ごー」
完成した槍も、奴に向けて飛ばす。これは前肢に上手く命中した。
「次は……斧とかどうかな?」
柄にするための直方体と刃にするための直方体。二つを適当にいじくり回して、合体させて、接合部を違和感が無いように微調整して、あっさり完成。
「そーれ飛んでけー」
放物線を描いて飛んでいった戦斧は、重心の偏りから自然に回転を始め、奴の背中にぶつかって弾かれた。
「……あれ? 背中……もしくは胴体がそこそこ硬い感じかな? じゃあまずは肢を削って動きを封じるのが良い感じかな」
次は何を作ろうか考えていると、巨大な白蛇が現れた。これも新人くんの描いたものだろうか。その首には一般市民の人がしがみついている。
「ここの人が中にいました! 助け出したんで、チャリオットで安全な場所に連れて行こうと思うんですけど」
扉の吹き飛んだ玄関から出てきた新人くんがこっちに呼びかけてくる。
「保護は私がやるよ。新人くんはエベルソルをお願いできる?胴体が硬くて、脚はそれほどでもない感じだから参考にして」
「分かりました!」