空のペットボトル。
食べかけのポテチ。
いつかの誰かとの写真。
誰も居ない路地。
皆ずっと同じじゃないし、元には戻らないけど。
僕はまだここに居る。
周りの皆は言い合うなよと諫めようとするが、2人は全く気にしない。
わたしは思わず呆れてしまった。
…と、不意にわたしは視線を感じた。
?と思って辺りを見回すと、路地の奥の方に見覚えのある人影が立っている。
それはどこかわたし自身のようにも見えた。
「…おい」
不思議そうな師郎の声でわたしは我に返る。
「どうした?」
急にぼーっとしやがって、と師郎が聞く。
わたしはあーと言いつつさっきの方角を見る。
そこには誰もいなかった。
「…何でもない」
わたしはそう言って笑う。
師郎はそうかいとだけ言って、またネロと穂積の言い合いに目を向けた。
世の中には2種類のゴミがある。
リサイクルできるゴミと
リサイクルできないゴミだ。
....圧倒的後者。
ビバ小説。
(笑)
何?
お前が誰かって?
......さあ。
自分でもさっぱり。
忘却の彼方って奴です。
え、
普通自分の事は忘れない?
ふざけてるのか...って、違う違う!
いや、本当に忘れてるんですよね。
嘘じゃなくて。
何で忘れたのか...か。
うーん、なんて言おうかな、
皆さんも、どうでも良い事って
忘れちゃうでしょ?
それと一緒です。
動かなくなった懐中時計。
読み終えた文庫本。
擦り切れたノート。
壊れた眼鏡。
くしゃくしゃになったハンカチに、
もう何も写らなくなったカメラ。
ガラクタを詰め込んだ鞄を持って。
「いってきます」。
ただいまは言わないけど。
さよならは言わなくて良いよ。
「う……タマモ?」
腕の攻撃は空振りに終わったけれど、私を助けてくれたのであろうタマモの方を見ると姿が無い。ぶつけた後頭部をさすりながら周囲を見ると、数m後方でひっくり返っていた。
「タマモ……その、ごめん」
「いや謝るな、感謝しろ。俺のお陰で死なずに済んだんだぞ……痛え」
そこまでのダメージは受けなかったみたいで、すぐに起き上がった。鼻血を流してはいるけれどそのくらいだ。
「ありがと、タマモ。頭はぶつけたけど」
「マジか。次は受け身取れよ?」
「善処する」
そういえば攻撃の手が止んでいた。咄嗟にエベルソルの方に向き直る。さっきまで頑張って破壊していた腕は大部分が再生しているようだ。
「あークソ、せっかくの攻撃が無駄になったじゃねえかよ。大人しく防御だけしとけッてンだよなァ」
「上への攻撃がちょっと密度低かったかも」
「反省会は後だ。削れるのは分かったんだから……もう一度殺しきるぞ!」
タマモはまた光弾を用意してすぐに発射する。
私も光弾を描きながら、描いた傍から撃ち出していく。ほぼ真上に、奴を狙うのでは無く、取り敢えずその場から退かす意味合いで。
「……準備よし。全弾……突撃!」
十分な数を撃ち出したところで、光弾全てを敵の一点、およそ中央に向けて叩き込む。
槍の如く並んだ光弾は、腕の防御を破壊しながら奥へ、また破壊しながら奥へ、どんどん突き刺さり、体幹を破壊した。腕たちの起点を上手く射貫けたようで、腕たちがバラバラに地面に散らばる。
「……ロキお前……すげえな」
「殺せては無いし」
「いやァ……あとは1本ずつ順繰りに処理すりゃ良いだけだからな。9割お前の手柄だよ」
「わぁい」
あとは腕たちを二人で手分けして処理していき、私の初めての戦いは無事に勝利で終わった。
10
良し悪しはともあれ、なんとも珍しいキャラバンがあったものだ。
普通はこんなことはせずに放置、山賊も雇われ者であることに途中で気づいて適当に解放する、これが一番多い流れだ。(と思う)
何故解放してくれるのかと言うと、自分達がしょっ引かれた時の保険の様なものだ。
つまり、「罪を重くしたくないから殺人は控える」
と言う事だ。
折れた踏切。
人の居なくなった駅。
止まった列車、
ベンチに置き忘れた文庫本。
動き続ける懐中時計。
先の見えない線路の果てまで。
出かけようか、何も持たずに。
星空の下に。
「ど、どうしよう…」
山の中で、肩くらいまでの茶髪を落ち着きなくいじりながら『ゆず』は呟く。
彼女は今日、山奥の集落に住む祖父母に会いに行き、帰る…はずだった。
ゆずの自宅と祖父母の住む集落を隔てる山はなだらかだが迷いやすい。それに重ねてゆずは方向音痴なので、必ず両親と共に行くようにしているのだ。しかし、今日はゆずが一瞬目を離した隙に両親は忽然と姿を消し、見事に迷子になってしまったのである。
「う〜…」
ゆずはそわそわと空を見回す。すでに太陽は西へ沈んでしまっているようだ。迷子になってから数時間、少しも景色が変わっている様子はない。
「ん…あ!」
ゆずの目にきらりと希望が戻る。前方に人を見つけたのだ。
「あ、あのっ」
「ん?」
小柄な子供が頭を上げた。黒い大きな目がゆずを見、暫くして勢いよく立ち上がってゆずの手を握った。
「迷子?奇遇だな、私もなんだ」
「えっ?」
「夜は危ない、一緒に下山しよう」
「犬神ちゃん、まさか……」
止めようとしたけれど、遅かった。犬神ちゃんはその戸を勢いよく開け放ってしまったのだ。
薄暗い本殿の奥、大黒柱の根元に、人影が見える。あれは生きた人間……というより、まさに自分たちが探していた種枚さんだった。
大量の拘束具で身動き取れない状態にさせられている、あまりに痛々しいその状況に反して、彼女はリラックスした様子で目を閉じ、眠ってでもいるようだった。
「……今、何時だい?」
不意に種枚さんが口を開く。寝ていたわけじゃ無かったのか。
「まだ3時前だよ。キノコちゃん」
種枚さんに近付きながら、犬神ちゃんが答える。
「そうか。まだそんなものか。犬神ちゃん、これ、外せるかい?」
「無理。できたとしてもやってあげない。キノコちゃん、こないだのデートすっぽかしたでしょ。私、怒ってるんだからね?」
「悪かったよそれは……見ての通りガッツリ捕まっちまっててさ」
「どうせ逃げようと思えば逃げられるくせにー」
「誰だって痛いのは嫌なものさ。じゃ、6時になったら教えておくれよ。うっかりでも祭りに水を差すような真似はしたくないからね」
軽口を叩き合いながら、犬神ちゃんは種枚さんの目の前に座り込んだ。
このあまりに軽妙な空気感に、自分はただ誰かに勝手に入っているのを見られやしないかと不安になることしかできなかった。逆に言えば、それ以外に心配するようなことは、既に無かったと言えた。