ヴァンピレスに遭遇してから暫く。
わたし達は路地裏を駆け抜けていた。
「何でヴァンピレスがこんな時に出てくるのよ!」
「穂積を狙ってきたんじゃない?」
「そう言う事言わないでよ雪葉‼」
穂積と雪葉がそう言い合う中、わたし達は路地裏を走っていった。
「…ここまで来れば大丈夫かな」
耀平がそう呟いて道の真ん中で立ち止まる。
わたし達も立ち止まった。
「奴の行動を考えるとどこが大丈夫とかほぼないけど…まぁ、そろそろ休まないとな」
走り続けるのって難しいし、と師郎はこぼす。
だなとかうんうんと耀平や黎はうなずくが、ここで穂積が口を開く。
「…それにしても、何であいつが急に襲ってきたのかしらね?」
やっぱりあたしを狙って?と穂積は腕を組む。
「でもおれ達もよく狙われるから何とも言えないよな」
そう言って耀平は師郎に目を向けると、彼は静かにうなずいた。
「…ま、とにかくさっさと大通りに出て奴を撒いちまおうぜ」
そう言って師郎は歩き出す。
そうだなと言って耀平達4人も歩き出す。
わたしもそう言って歩き出そうとした。
休憩室の扉をノックする軽やかな音が3度響く。
「入ってどうぞ」
ロキが言うと、扉が開き理宇が入ってきた。
「あ、ふべずるんぐ先輩。お疲れ様です。タマモ先輩は……?」
「ロキで良いよ。タマモはこの間の戦いで両腕骨折したからしばらく療養。座ったら?」
ロキに促され、理宇はタマモが普段座っている席の向かいに座った。その斜向かいにロキも掛ける。
「…………あのー……」
「…………」
ロキは理宇の存在を意に介することなくスマートフォンを操作している。
「あの、ロキ先輩?」
「……あ、ん、何?」
スマートフォンから目を離し、初めて理宇の目を見る。睨むようなその視線に臆しながらも、理宇は対話を試みた。
「今日は、何かやることあるんですかね?」
「いや特には」
「さいですか……。あ、これは全く関係ない世間話なんですが、ロキ先輩ってタマモ先輩といつから組んでるんですか?」
「……そろそろ1年かな。何だかんだで私がリプリゼントルになってからずっと一緒に戦ってる」
「へー。どんな感じで出会ったんです?」
「…………まあ、それはタマモ自身に聞いて。あいつが話したがらなかったら諦めてやって」
「あっはい」
しばらく無言の時間が流れたが、不意にロキのスマートフォンから通知音が鳴り、ロキが立ち上がった。
「行くよ。仕事だ」
「はい、了解です!」
「……あれ、あんた何ていったっけ」
「あ、魚沼理宇です」
「うん、じゃあ行こうか、リウ。あいつがいない分、私のこと守ってくれる?」
「お任せください!」
時間が通り過ぎるのを待ち続ける僕は、
ただのかまってほしいだらしない僕か?
待ち続けても、待ち続けても、
音は何もしなくて。
通り過ぎてく人も、何も言わなくて。
ただ、夜が訪れるのを僕は待っている。
まるで臆病なフクロウのようだ。
待つことにはもう慣れた。
いや、慣れ過ぎてもう飽きた。
早く誰かの声を聴きたい。
やがて夜が来た。
十五夜の新月が僕の真上を通り、様子をうかがっている。
このまま朝が来るまで、お月さまと話してみようかな?
11
俺はそのまま騎士団の基地まで連れて行かれた。
着くと、そこには先程のキャラバンが待っていた。
「我々のためにここまでして頂いて...ありがとうございます。一応、ここまでの護衛依頼でしたので、報酬をお渡ししたく...」
成程。だから待っていたのか。
善人の鏡みたいな集団だ。
今じゃ当たり前かも知れないが、昔は違ったからな。
ここぞとばかりにとんずらこいてタダ働きなんてザラだった。
4月9日の夜
目の前の暗闇にうずくまっている自分をのぞきに来たみたく
三日月が微笑んでいる
明後日から大学が始まる。
今の気持ちは表と裏だ。
朝が、星や暗闇を食べるように
僕の不安やもどかしさを消してくれるかもしれないという淡い期待と、
このまま、月や星が誘う、
いや冷蔵庫のノイズだけが響き渡る孤独な夜が
僕の心に宿るかもしれないという濃い不安が
混ざり合って僕の頭を掻きまわしている。
2日後はどんな夜を過ごしてるのかな?
「えぇ…」
ゆずは困惑した。子供とはいえ知らない人が急によくわからないことを散々語り、名前を聞いてきたのだからゆずでなくても混乱はするだろう。
「あ、勝手に手繋いでたわ。ごめん」
今更ながら、さっきからゆずの手を握っていた『先導様』がゆずの手を離した。ゆずはそのままの格好で固まる。
「う〜ん…」
ゆずは考えるのが苦手だ。更に勘だけで生きてきた人間だ。できればややこしいことをうだうだと考えていたくない。ゆずは自分の命運を勘に託すことにした。
「…うん、信じるよ!私の名前は、坂上ゆず。あなたは?」
さらっと名前を言ったゆずを驚いたように見つめ、子供は困ったように微笑む。
「…私に名前はないよ。好きに呼んで」
「ないの?うーん…あ、先導様、だっけ?だったらさ、せんちゃんとか」
「せんちゃん」
「可愛くない?」
「…うん、気に入った!」
先導様…もといせんちゃんと名付けられた子供がにっこり笑った。
「ゆずの家がわかった。まずは下山だな」
「え、ほんと!?」
「ああ。私から離れないように」
せんちゃんはゆずの手を握った。
白神さんと二人して天ぷらうどんを購入し、セルフサービスの水を取ってから、席に戻った。
それから、殆ど手を止める事無くうどんを完食し、残った水を飲みながら一息ついた。
この後しばらく時間に余裕があることもあって、気が抜けて深く息を吐きながら、仰け反るようにして背もたれに身体を預ける。と、真後ろの席に座っていた人に後頭部がぶつかってしまった。
「あ、すみません……」
咄嗟に謝罪しながら振り返り、そこにいた人の姿を見て、身体が硬直した。
「ん、いやこっちこそ」
気に留めていない様子で答えたのは。種枚さんだった。この人、ここの学生だったのか。
「およ、千葉さんや。知り合いかね?」
こちらを覗き込んだ白神さんと種枚さんの目が合ったのだろう、種枚さんの目が僅かに見開かれる。
「種枚さん?」
「…………君、友達いたんだ?」
「失礼な……自分を何だと思ってるんですか。彼女は友人の白神さんです」
「……そうかい」
種枚さんはつまらなさそうに答え、そっぽを向いてしまった。
「千葉さんのお友達? 初めまして白神メイですー」
白神さんの自己紹介にも、種枚さんは反応を示さない。
「ありゃ…………あ、ごめんね千葉さんや。わたしは3限あるから、そろそろ行きますよ。お友達とごゆっくりぃ」
まだ3時限目の開始時刻までは少し余裕があるけれど、やはり居心地が悪くなったのか、白神さんはそそくさと席を立ち、その場を立ち去ってしまった。