「お、全員揃ってんじゃーん。みんな真面目だねェ」
そう言いながら、扉に一番近い椅子に身を投げ出したのは種枚さん。その背後に鎌鼬くんが立ち、……あと1人、この少女は見たことが無いな。小学生くらいかな? 種枚さんの知り合いだろうか。
「ほれ、全員座りなよ。いつまでも立ってるのも疲れるだろ? ああ、犬神ちゃん、セッティングありがとう」
「良いの良いの」
答えながら、犬神ちゃんは種枚さんの席から1席挟んだところに座った。隣に座るだろうと思っていたから意外だった。種枚さんの隣には、近くにいた白神さんが座る。
「……あれ、潜龍神社の跡継ぎさんだ」
「ん? ……何だ、岩戸の三女じゃないか」
「なんで姉さまとの縁談断ったんです?」
「悪いがこちらも跡取りだ……というかそんな話を人前でするな」
「これは失礼しました」
少女はどうやら、神社の男性と知り合いらしい。
「……コネの無い連中は知らない同士だろ。とりあえず自己紹介でもしておくかね? お前ら全員私のことは知ってるはずだから良いとして」
種枚さんが顎で白神さんを指す。
「あ、白神メイです。どうぞよろしくー。じゃあお隣さん」
「私? 犬神って呼んでくれれば良いよ。はいお隣にパス」
犬神ちゃんの左隣に座っていたのはあの少女だった。
「えっと、岩戸青葉です。呼び方はどうぞお好きなように。跡継ぎさん、どうぞ」
「む…………一応、潜龍の名で通ってはいるが……平坂だ」
一周して、種枚さんに手番が回ってくる。
「あとは私の馬鹿息子とお気に入りが同席してるな」
「だからその言い方やめ……あの、俺別にこの人の子どもとか養子とかそういうのじゃないんで。どっちかっつーと弟子です。えっと、まあ鎌鼬と呼んでいただければ。じゃあお気に入りさん」
「えっあっはい」
そういえば、鎌鼬くんにも名乗った事は無かったっけ。
「えっと、千葉です。種枚さんにはいろいろと助けてもらってます」
何故か拍手があがった。
「地下にいるっていう“人工精霊”を見つけられたら、あの人たちもビックリするよ!」
「でも“学会”にバレたら…」
紅色の髪のコドモは心配そうに呟くが、クロミスはバレなきゃ大丈夫!と笑う。
「だから地下にいる“子”に会いに行こう!」
見つからなかったら見つからなかったで噂はウソだったって分かるし、とクロミスは他の3人の目を見る。
「クロミスも行ったことない場所だから、きっと楽しいと思うよ〜」
クロミスがそう言うと、残りの3人は顔を見合わせる。
「どう?」
行かない⁇とクロミスは楽しそうに言う。
キヲンたち3人は暫く静かに考えていたが、やがてキヲンがじゃあ、と手を上げた。
「ボク行く!」
なんか楽しそうだし、とキヲンは続ける。
「“タイサンボク”と“中紅”は?」
クロミスが両脇に座る緑髪のコドモと紅色の髪のコドモを見やると、2人はうーんと唸った。
「ぼくはちょっと怖いかなぁ…」
緑髪のコドモことタイサンボクがそう呟くと、大丈夫だと思うよ!とクロミスが明るく言う。
『私』が自我を得た時、既に下半身は機械の蹄を持った馬のそれだった。ただでさえ文字通り『馬力』のある脚が、更に機械仕掛けでパワーを強化されている。そんな私の蹴りを受けて尚、あの二人は立っていた。どうやら各々、武器で身体を庇っていたようだ。
「さて……困ったなァ…………喧嘩は良くないって常識じゃンかァ…………」
イマジネーションはさっきの人から十分もらってるから、戦うには足りる。
「…………けどなァ……そういうの良くないもんなァ……」
残念ながらアオイちゃんもミドリちゃんもやる気満々みたいなので、取り敢えず自衛のために武器は用意しておくことにする。
右手を真上に掲げ、その中に私の武器、金属製の六角柱に持ち手を付けたような武骨な外見の棍棒を生成する。取り敢えずそれを肩に担ぎ、2人の様子を見ることに。
「くっ……アイツ、武器を出した。やる気だよアオイちゃん」
「うん……かなり大きい。不用意に射程に入らないようにしなきゃ」
2人はどうやら作戦会議をしているようだ。まあ、こちらから仕掛ける理由も必要も無いわけだし、のんびり待とうか。
2人は声を潜めてしばらく会話していたが、20秒ほどで切り上げ、こちらに向かってきた。その足取りはさっきまでの勢いのあるものとは違う慎重なもので、試しに棍棒を軽く振って見ると、すぐに後退ってしまう。
「どうしたの? 私を倒すンじゃァなかったの?」
「うっ……うるさい! お前なんか、私たち2人で掛かれば楽勝なんだから!」
ミドリちゃんがそう言った。頼もしいね。
それから数秒ほどだろうか、2人が遂に動き出した。
眠くなってきた。
ついさっき危機的状況に陥ったばかりなのに、その恐怖も忘れて、ゆずはうとうとしていた。
「ゆず、起きて」
「…ん」
「もうちょっとだから…」
せんちゃんに半ば引きづられつつついてく。
「あーもう…はい、おんぶね」
「うー…ごめん、ありがと」
せんちゃんは小柄なので物理的にはちょっと頼りないが、疲れていたゆずにはそんなこと関係なく。
「優しいっていうか…甘やかしっていうか…甘いねせんちゃん…」
「うるせ!眠いなら寝な、寝室に寝かせといてあげるから」
「ん…ふあぁ…」
大きくあくびをしてゆずは意識を手放した。
全ての人の幸せを願っている。
道行く人のことの幸せを願っている。
あなたはどれだけ人が良いのでしょうか。
見習いたいです。