暗く暗く飲み込まれそうな漆黒な闇を照らす光
一筋の、たった一筋の光なのです。
貴方はそんな存在。
昨日ある人影に気付た
その人影は弁慶でした。
優しい瞳で私を見つめて弁慶はこう言いました
それはね…
(……それにしても)
手近にあった一際太く高い木に背中を預け、青葉は手の中の愛刀〈薫風〉をじっと見つめた。
(〈薫風〉。怪異から守ってくれる刀だって姉さまから聞いてはいたけど、思っていた以上に守ってくれるんだな……)
背中に衝撃と熱が伝わってくる。背後の木に天狗火が直撃したのだ。
「っ……マズい……!」
背中に少しずつ、倒れてくる大木の重みがのしかかってくる。咄嗟に前方、まさに木が倒れてくる方向に向けて駆け出してしまう。大木は重力によって速度とエネルギーを増して青葉に向け倒れ込んでくる。咄嗟のことで横に躱すこともできず、逃げ切ることもできずに青葉の身体に倒木が覆い被さった。
「やった! ようやくやったぞクソガキが! よくもこのボクをビビらせてくれたな! 生意気の代償は高くついたぞ!」
やや興奮しながら、天狗は倒木に潰されたであろう青葉の下へ、文字通り飛んでいった。
“隠れ蓑”を解除し、倒木の目の前に降り立つ。
そして、うきうきとして倒木の下を覗き込んだ。その影の中から『2対』の目が、天狗を睨み返した。
とある土曜日の朝、フウリの家のインターホンが鳴らされた。
「はいはーい、待ってたよー」
言いながら扉を開き、フウリは玄関前に立っていたヒオを迎え入れた。
「ありがとねぇ、勉強会に協力してくれて。理社でちょっと分からないところあってさぁ」
「良いよ。代わりに国語教えて」
「ヒオちゃん、別に教わるところ無さそうだけどねぇ?」
話しながら2人はフウリの自室に入り、そのまま3時間ほど、休憩を何度か挟みながら受験勉強を進めた。
「……もうこんな時間かぁ」
不意に、フウリが壁掛け時計を見て呟いた。
「こんなって……もう正午過ぎたのか」
「小休止にしようか」
「了解」
ノートや参考書を片付け、フウリはヒオの隣に座り直した。
「…………え、何?」
「んー? お悩み相談の続き?」
「………………もしかして、分かってた?」
「何が?」
「私がそれ目的だったこと」
「そりゃまあ、3ね……まだ2年ちょっとか、それだけ友達やってればねぇ。それで? ヒオちゃんの悩みってどんなことなの?」
「………………私だけ、『変身』出来ないことについて」